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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/25 間違いだらけの掛け違え(エイヴァ視点)


 長く長く、世界は変わらなかった。まあ無意味は無意味で仕方ないのかもしれないとまたしても適当に流そうとしていた我もいたが。

 けれども、いつからか。小さな小さな、変化がどこかで生まれていたらしい。


 我の知らぬ間に、我の見ていないところで。軽く一億年ほどふてくされてひと所で眠り続けたのがいけなかったのかもしれない。眠りに厭いて、久々に世界を慰みに歩いてみた時、驚愕した。

 見たことの無い、生き物がいたのだ。


 青天の霹靂だった。いったい我の就寝中に何が起こったというのだ。


 それらは衣服をまとい、火を扱い、魔力を持ち、会話をする。

 とてもとても弱かったけれども、確かに『知能』を持ち『意志』を持つ、生き物。待ち望んだ言語を使用する知的生命体ではないか。何ということだ。


 そして我はそれら生き物を『人間』と呼ぶのだと、やはり知っていた。

 なぜ知っていたかは知らない。割とどうでもよかった。適当な我の中でも特にいち早く投げ捨てた疑問であった。


 それよりも、知的生命体だ。狂喜せずにはいられなかった。

 意志を持つ生命。会話可能な存在。

 長い長い長い、ものすごく長かったうえにふてくされて眠ってやり過ごした一億年から目覚めたらまさかの望みが叶っていた。孤独の時間からの解放だと感じた。永遠だと思われた空虚も、退屈も、終わりをつげ、色あせた景色さえも再び色づいて見えるかのようだった。


 存外我は単純な生き物だったのだ。


 ただ、もちろん『人間』は我と同じではない。

 弱い弱い生き物だ。儚く脆い存在。その知識も拙く、生まれたばかりの、幼き者共。


 少し見て居れば気付いた。彼らは短い生をひたすらに生きるのだと。その生き方は、ああ我からすればひどく必死に感じた。こう、ちょっと数十年目を離しただけで別人のようにその面立ちを老いさせるのだ。食事も頻繁にせねば生きられぬようだ。あと、争う。規模の大小はあるが奪ったり奪いかえしたり、かと思えば共有したり譲り合ったり。よくわからないことをするものだなと思ったが、それらを見るのが、好きだった。


 自分との違いを感じ、それでも姿かたちに言葉に共通点を知って、しばしの観察をして喜びをかみしめたのちに我は手近な人里に降りた。

 人と話してみたかった。近くでその存在を確認してみたかった。再び鮮やかな世界が帰ってくることを、夢見ていた。ああ、切望していたのだろう。


 けれども。

 待っていたのは、返ってきたのは。



 ――訳も分からない、『崇拝』だったなんて誰が思う。



 我が何かを成したわけではない。むしろ大分長らく眠っていて何ならまだ眠たい。人間の様に何かを生み出すということもしていない。

 確かに我は強い。知識は膨大で力は人が及ぶべくもない。

 ……彼らにとって、我の力はあまりに大きかったのだろうか。そして我の姿は彼らと同じではあるが、その造形が『美しい』と称されるのだと知った。


 そして、彼らは我を呼んだ。

『神様』と。


 祀られ、崇められ、祈りを捧げられる。

 ……それは、確かに『人とのかかわり』ではあった。


 最初はそれでよかった。慕われるのは悪い気分ではない。『神様、神様』とわらわら寄ってきて話ができるのだから。一人ではないと思えるのだから。

 風を起こせば『奇跡』と言われ氷を与えれば『慈悲』と言われ、火を出せば『恵』と言われた。

 正直人間も魔法を使用できるのだからそこまで言うほどの事でもなかったような気がしなくもなかったのだが、規模が違ったということなのだろう。多分。あんまり気にしていなかったので覚えていない。


 しかし、しょせんは『張りぼて』の関係だったと思い知らされたのはそれがいともたやすく崩れ去った後だ。


 何が悪かったのかは、わからない。

 ――ただ我は、とある娘に懸想した。


 時折我の下へ祈りを捧げにやってくる平凡な娘。けれども彼女の『祈り』は他のものとは少し違って、まるで世間話でもしているかのようだった。例えば『今日は畑仕事をしていたが驚くほど大きな土虫が出てちょっとした騒ぎになった』とか。『その土虫を素手でわしづかんでぶん投げたのが娘自身だった』とか。『大の男もドン引きしたそれをがっつりつかむとは度胸はある。度胸はあるが、ありすぎる。と叱られた』とか。その話は特にいつも面白いわけではなかったが、ひどく暖かく感じた。


 まるで、我と対等であるかのような。何でもないことを、何でもないように話す。

 だから、

 寄り添えると、思った。

 傍に居てほしいと思った。



 ――ああ、それが間違いだったのだ。









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