252:タイムリープシステム
お腹に子供を宿し、この子を育てるにあたって、自分は地球人類の将来を担う子供を産もうとしている事に気付いた。
誰もが皆、その度その度に一度きりの妊娠と出産、そして育児を経験するのは理解しているが、自分は絶対に失敗出来ないと思う。
艦治も自分も永遠に生き続ける事は望んでおらず、いつかこの子に、さらにその次の世代に、この地球を託す事になる。
次の世代へ、どのような教育をしてあげれば良いのか、とても迷い、不安に駆られている。
どんな子供に育っても、元気であればそれで良いなんて、自分達には許されない事なのではないかと思う。
この子本人に対して良い教育が、必ずしも地球人類の為にはならない可能性もある。
本当であれば、地球人類全体よりも、この子の方が大事だと言いたい。
でも、もう自分達はそんな立場ではなくなってしまった。
世界中で影響力のある宗教を複数屈服させ、国まで統治を始めている。
世界中の皆が、自分達の一挙手一投足に注目している。
今は艦治が人の意見に耳を傾け、理性的に判断を下しているが、明らかにナギを制御し切れていない。
自分は、ナギとナミを完全に信頼している訳ではない。
ナミもナギも、自分と艦治を害する事はないだろうが、艦治と自分に害を及ぼすと判断すれば、きっとこの子や次の世代であっても排除しようとすると思う。
それが、とてつもなく不安で、とてつもなく怖い。
きっと、艦治は次の世代や地球人類の不幸の上で成り立つ、自分達の幸せな生活というのは望まないと思う。
だから、タイムリープシステムをこの世界でも開発し、艦治と自分、そして次の世代が皆、それぞれ満足した人生を送れる上で、地球人類の安寧も願っている。
まなみは以上の事を、艦治に対して涙ながらに訴えた。
「一人でずっと、不安に思ってたんだね。
気付いてあげられなくてごめん」
艦治はまなみを優しく抱き締める。
「ううん、かんちはかんちで大変な想いをしてるの、知ってるから。
私達は普通の夫婦とは違う。
楽しくて、幸せな事が人より多い分、きっと大変な想いをするのも多い。
それは仕方ないと思うの。
でも、だからこそ未来からのアドバイスがあれば良いのになぁって思ってるの」
三ノ宮家の初代様こと伊吹は、妻達が開発した高度人工知能である治によって、すい臓ガンで亡くなるはずだった運命を回避している。
高度人工知能が自己進化を続けた未来から、過去に向かって情報を送るタイムリープシステムを完成させた結果だ。
「まなみの気持ちは理解した。
僕はちょっと、即答出来ない。考えさせてほしい」
まなみは艦治がすぐに了承するとは思っていなかったので、素直に頷く。
「ただ、この世界でもタイムリープシステムを開発可能なのかどうかを確認しておきたい」
「ナミもナギも、自分達には開発権限がないから、翔太様達に聞かないと分からないって。
だから、かんちに私の気持ちを打ち明けた後、二人揃っている時に四柱に相談させてもらおうって思ってたの」
ナギ達が元いた世界にて、伊吹の死が治によって観測される度に過去へデータが送られ、治によって伊吹の死が回避されて来た。
その先の未来に存在するのが複数の銀河系を治める大日本皇国という国であり、三ノ宮家であり、伊之助と莉枝子である。
しかし、次元乱流に巻き込まれてこの世界に来てしまった鳳翔に格納されている治は、オリジナルを元に作られた複製体であり、タイムリープシステムが搭載されていない。
ナギとナミに開発権限がないのなら、四柱に一から開発してもらう必要がある。
まなみが四柱に相談したいと言っているのは、そういう理由からだ。
「治様達にお声掛けする前に、静かに見守ってくれてる家族の意見を聞いてみない?」
「うん、そうだね」
じっと二人の話に耳を傾けていた治樹と治佳、穂波と真美へ話を振る。
治奈と奈都姫はタイミングを見て、家事ヒューマノイドが別室へと連れて行った。
「父さんと母さんは科学者だから、今の話だけで僕らが聞きたい事が分かるんじゃないかなと思ってるんだけど」
息子に無茶振りをされる両親は、揃って苦笑いを浮かべた。
「科学者だからこそ、超科学的な話は受け入れられないなぁ。
未だにワープゲートをくぐるのが怖いんだぞ?」
「そうねぇ、仕組みが理解出来ないものは、不気味よねぇ」
艦治の両親は役に立ちそうにない。
まなみが自分の両親へ目を向ける。
「お二人が分からない事、私達が分かる訳ないでしょう?」
真美はあっさりとそう言い放った。
「…………良く考えて、二人が決めると良い。
…………責任は、俺達も一緒に取ってやる」
「パパ……、ありがとう」
穂波の言葉を受けて、治樹も治佳も真美も頷いている。
「良し、じゃあ治様に会いに行こうか」
艦治が墓所のあるお寺へ移動しようとしていると、ワープゲートが開いて治と旭と英知と翔太、そして真智がやって来た。
「良いぞ」
聞くまでもなく即答だった。
「複製体である俺様には、条件付きでタイムリープシステムを開発する権限が付与されている。
条件は、五人の上位電脳人格が認めた人間が所有者となる事だ。
俺様は艦治がタイムリープシステムの所有者となる事を認める」
「僕も艦治がタイムリープシステムの所有者となる事を認める」
「俺も艦治がタイムリープシステムの所有者となる事を認める」
「ボクも艦治がタイムリープシステムの所有者となる事を認める」
「うちも艦治がタイムリープシステムの所有者となる事を認めるで」
治、旭、英知、翔太、真智の五柱の上位電脳人格による承認を経て、ここにタイムリープシステムの開発が認められる事となった。
「四柱から許可を頂いているなら、開発を開始しても良いかも知れないね」
「ホントに!? じゃあ今すぐ開発開始してもらおうよ!!」
「さらっとうちの事無視してへんか?」
拗ねる真智の機嫌を取った後、艦治とまなみの二人のみ、鳳翔の開発区画へと移動した。
そして二人の目の前に、銀色の大きな箱に赤いボタンが二つ付いている装置が置かれている。
「これを押すだけで良いんですか?」
「そうだ。二人同時に押すように」
治達五柱が見守る中。
「「せーのっ」」
艦治とまなみがそれぞれ目の前の赤いボタンを押したのだった。




