205:朝まで生テレビ
九月二十一日 土曜日
東京都内、某テレビ局内スタジオ
「本日は大日本皇国総理大臣であるナギ氏に来て頂きました。
ナギさん、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
「ナギさんのお相手を務めさせて頂きますのは、我が局の解説委員長であります三崎吾郎でございます」
「どうも」
「そして司会進行は私、和泉誠一郎です。よろしくお願い致します。
さて、さっそくですがナギさん。先日米国の報道官より、米国を代表する探索者であるルーエンス・フィッシュボーン氏とマーリン・リベスコ氏が世界で初めて皇国への帰化を認められたと発表されました。
このニュースについてお伺いしたいのですが、そもそも皇国は帰化希望者を受け入れておられるのですか?」
「受け入れております。
ですが、広く受け入れている訳ではありません。我が国にとって国益に適う人物であり、愛国心を持って下さる人柄。何より我が陛下との間に信頼関係が築ける方であるという条件がございます。
ルーエンスさんとマーリンさんにおかれましては、全て条件を満たしておりましたので、すぐに手続きさせて頂きました」
「なるほど。仮に私のような一般人が皇国への帰化を望む場合、どのような手順を踏む必要があるのでしょうか?
具体的には、まずどこに行けばよろしいですか?」
「和泉さんほどのお人が一般人かどうかは議論が必要となりますが、別の機会を設けると致しまして。
先ほど申し上げました通り、帰化希望者を広く受け入れている訳ではありませんので、窓口はございません」
「つまり、我々一般人からの帰化は受け入れていない、という事でしょうか?」
「それは差別なんじゃないかね? 井尻氏の知り合いなら受け入れるが、知らん奴は受け入れんって事じゃないか。
とんだお友達国家だな」
「差別と仰いますが、我々としては広く受け入れる体制が出来ておりません。御存じの通り、現在の我が国には地球上に限られた領土しかございません。
もちろん鳳翔内部にはアフリカ大陸とオーストラリア大陸を合わせた以上の面積がございますが、人が文化的に暮らせる状態ではないのです。
ルーエンスさんとマーリンさんにおかれましては、先方からご相談があった為、検討し受け入れに至ったという経緯がございます」
「それはまるで二人が米国からの亡命を希望したような言い方じゃないか。米国に失礼だと思わないのかね」
「三崎解説委員長、ちょっと勝手な解釈が過ぎるかと思います。
ナギさん、失礼致しました。
現状、皇国として帰化希望者を受け入れる事はあるが、あくまで限られた人物が対象であるという認識で問題ないでしょうか?」
「そのご認識で構いません」
「分かりました。
それでは次の項目に移ります。
日本の研究機関である、神州丸科学技術総合研究所について、皇国より所有権を主張されている件ですが……」
「これは戦争行為であると言える。非合法な占領、日本の技術の詐取、業務妨害、その他様々な法律に違反している。
即刻明け渡し、謝罪と賠償すべき事案だ」
「まず大前提として、元々神総研は神州丸が申し出て日本に科学技術をお教えする為に設立された機関です。設立の際の予算は全て神州丸がお出ししておりますし、運営費用についてもかなりの部分、負担しておりました」
「それは初耳ですね。三崎さんはご存じでしたか?」
「だから何だと言うのだね」
「ただの国立研究所ではないという事です。神州丸と日本国の友好の元、管理・運営がなされていたのです」
「だから、それが何だと言うんだね!? もっと端的に言いたまえ!!」
「神総研上層部が国会議員からの指示を受け、年間予算等から多額の横流しをしておりました。我々はこれに対して対処しただけです」
「その金が他国に流れたという証拠はあるのかね!?」
「三崎解説委員長、落ち着いて下さい。ナギさんはそこまで仰っておられません。
現在行方が分からなくなっております、黒井辰成議員との関連性はございますでしょうか?」
「黒井氏が神総研上層部へ指示を出した国会議員です。現在行方が分からないと発表されておりますが、我々は常に黒井氏のおられる場所を把握しております。
必要であれば情報提供致しますので、政府関係者よりご連絡下さいませ」
「えーっと、黒井氏は今現在どのような状態なのでしょうか?」
「状態、ですか?」
「ええ、……生きてらっしゃるのかなぁと」
「あぁ、なるほど。現在支援者の自宅に匿われておりますわ。
三崎解説委員長秘蔵のワインを飲みながら、この番組を見て喚いておられます」
「何を適当な事を言っている!! そんな嘘が許されると思っているのかね!?」
「三崎解説委員長、お座り下さい」
「座ってられるか!! 確かに私は黒井さんとは親しくさせてもらっているが、だからと言って自宅に匿うなど……」
「はい、えーここで速報が入って参りました。行方が分からなくなっていた黒井辰成議員ですが、都内某所にて逮捕されたとの事です。
繰り返します。行方不明であった黒井辰成氏が都内某所にて逮捕されました」
「わたわたわわわたわた私は急用が出来たので……、何だね君達は!?」
「三崎吾郎さんですね、ご同行願います」
「ちょっと待て、ちょっと待ちたまえ!! ナギ! 俺を皇国へ帰化させろ!! おい聞いているのか!? 俺を助けろと言っているんだ!! 番組の後に時間を取ってくれるって言っていただろう!?」
「……大変失礼致しました。三崎解説委員長は急用との事で、お帰りになったようです。
さて、ナギさん。恐れながらお尋ねしたいのですが、神総研上層部が横領していたのが事実として、大日本皇国が神総研の所有権を主張される法的根拠などはあるのでしょうか?」
「もちろんございます。神総研設立時、日本政府と正式に書類を交わしております。
神州丸の科学技術をお伝えする以上、何かあった際には全て把握する必要があります。その際、日本の研究機関だから神州丸関係者は立ち入り禁止と言われてしまうと困りますので。
非常時において、神州丸が神総研を掌握出来るお約束になっておりました」
「ちなみになのですが、ナギさんはいつから横領・横流しを把握されていたのでしょうか?」
「もちろん最初からです」
「最初と仰いますと?」
「十八年前からですね」
「どうして今まで放置されていたのでしょうか?」
「我々からして些細な問題だったからです」
「些細な問題、ですか」
「ええ。ちなみに横領以外にも、技術流出や施設内設備の私的使用など、全て把握しておりました」
「何故、今だったのでしょうか?」
「些細な問題ではなくなったからですね」
「なるほど。全ては神州丸、ひいては大日本皇国の胸三寸、という事ですね」
「それを仰るならば日本政府だってそうですわ。黒井議員の居場所を把握しておられたのに、今になって逮捕されるのですから」
「……確かに。把握していないと、このタイミングで逮捕する事は出来ませんね。
そもそも逮捕状はいつ請求されたのか、何の容疑なのか、何故三崎さんが連行、いえ、任意同行を受けたのか。
情報が入り次第、お伝え致します。
そして三崎解説委員長が不在のまま、番組を続けて良いのかどうかというところなのですが……」
「私としては全く問題ありません」
「そうですか、それではまた個人的な質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「鳳翔内部には居住可能なスペースがあるとの事ですが、将来的に地球から移民を受け入れる可能性はございますか?」
「可能性と致しますとゼロではありませんが、予定は全くございません」
「あまり積極的に考えてはおられないようですね」
「移民を受け入れるメリットがございませんので」
「メリット、なるほど。先ほどの帰化条件と同じですね。
国益に適う人物という意味では、なかなか条件を満たすのは厳しいように感じます」
「はい」
「戦争難民や経済的難民を受け入れる可能性はありますか?」
「全くございません。そもそも我々は『難民の地位に関する条約』に批准しておりませんもの」
「今後、批准される可能性はありますか?」
「批准云々の前に、大日本皇国は国際法上、国家と認められておりませんので」
「なるほど。
先日の『大日本皇国皇王陛下に聞く百の質問』が公開されて以降、世界中の国で皇国を国家として承認しようという動きが見られます。
大日本皇国が国家として広く承認された場合、国際社会の中で活動される事となるのでしょうか?」
「国家として承認される事で、逆に法に縛られて身動きが取れなくなる可能性があります。
例えば日本の国内法で言いますと、厚労省の認可が下りておりませんので、日本国内で医療用ポッドを使用する事が出来ません。また、空飛ぶ車も国交省の認可が必要となります。
先ほどの三崎解説委員長は以前、我々ヒューマノイドは歩く兵器であるから銃刀法で取り締まる必要があると主張されておりましたし、国際社会のご理解を得るのは非常に難しいだろうと予想しております」
「おっと、そろそろお時間が来たとカンペが出されてしまいました。まだ朝になるまで四時間近くあるのですが、会社員である私は上の指示に従う義務がございます。
大日本皇国総理大臣のナギさん。本日は大変貴重なお時間を賜りまして、誠にありがとうございました」
「いえ、とんでもございません。
ここにおります私は数あるヒューマノイド端末の一つに過ぎませんので、いつでもお呼び頂ければ参ります。何ならテレビ局の倉庫に一体置いておいて頂いても構いません」
「なるほっどっ! それは非常にありがたいお申し出でご」
『未来のチカラでパンパンパンパンパーン♪』
番組はここで強制終了、CMに切り替わった。
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ、よろしくお願い致します。




