魔将軍とお城へ2
しばらく、近衛の詰所に居てもジーニアス様は戻っていらっしゃいませんでした。その間にロージ様がいらして、若い近衛の方々に連れ出されるように、ヴェル君は鍛錬場で手合せをすることになりました。
折角ですものね、家でのほほんとしているヴェル君しか知らない私としては、素早く動くヴェル君の勇姿を是非とも見ておきたいですしね。
鍛錬場には他の騎士団の方のお姿も見えます。ええ、熊の集団がいますね。熊の集団もヴェル君達の周りに集まってきました。
「ヴェルヘイム様、宜しくお願いします!」
やや緊張した面持ちのロージ様が練習用の剣を構えました。ロージ様……なかなか出来る!私は気配を察知したり、殺気を察知したりは得意なのです。これでも転生のプロですからね!
大昔、まだ『忍者』というような明確な呼び名が無い戦国時代の少し前の時に、私、そのお仕事していたのですよ!忍ものだったのですよ!その時は転生して、運動神経が悪くなるなんて思いも寄りませんでしたが。
ヴェル君は立ったままですが、隙が無い!隙が無いのが分かっても、動く体が鈍い今の自分が恨めしいぃぃっ~
とうとうロージ様が焦れて踏み込みました。私には一歩踏み込んだ瞬間に分かりました。こりゃヴェル君に一撃でやられるわ、と。
キィィィイン……
刃が触れ合うような音がしたと思った途端、ロージ様が受身も取れず横に飛ばされました。
ヴェル君は一歩も動いていないように見えますが……実はものすごい魔圧の一太刀を振っていましたよ!私の目にははっきり見えました。
見えた所で、それを受け止める運動神経の無い今の自分が恨めしいぃぃぃ!
私はロージ様の傍に移動しました。肋骨折れてるんですもの、治療治療~急いで治癒魔法を掛けます。
「ヴェル君、力加減をしないと皆様困りますよ?」
私がそう言うとヴェル君は気が付いたように、自分の手を見ています。
「久しぶりの人間相手で忘れてた」
おっしゃいました。おっしゃってしまいましたよっ!
その言葉に若い近衛のイケメン様達と騎士団の熊さん達が色めき立ちました。
もうそこからは大乱闘です。
「私も手合せを!」
「まとめて三人一緒にお願いします!」
「もう一気にかかれっ!」
でも、ヴェル君は一人一人軽くいなしつつ、丁寧に指導しておられました。
「右に重心がぶれている」
「体移動に癖がある」
「踏み込みに無駄が多い」
私はヨジゲンポッケからホットサラーを入れたポットを取り出して、お茶を楽しみつつ観戦させて頂きました。
やがて皆様がボロボロで立ち上がれなくなると、息も乱さず立っていたヴェル君は一言、こう言いました。
「体力が無さ過ぎだ」
ロージ様がヴェル君の足元に縋りつきました。そしたら他の若い近衛の方や熊さん達も群がります。
「「ヴェルヘイムさま!!一生ついて行きますからご指導お願いしますっ!」」
あ……暑苦しいね、うん。体育会系のノリですね。
「ヴェルゥゥ!」
そこへ可愛らしい声で割って入る方が乱入してきました。あらリヴァイス殿下?めっちゃヴェル君目掛けて走って来ますけど……あぁ、転んだ!って、うわっっ!一瞬でヴェル君が近づいて助け起こした!
「ヴェ……ヴェルうっぐ……ぐす、ヴェルッ」
「はい、どうされました?リヴァイス殿下」
私は慌てて殿下に近づきました。膝小僧が擦り剥けていますね。痛いの痛いの飛んでけ~~
「あざ……ごっふっおぎだだひーっぐ、ぶぇるどが……うっぐ、いだぐだっでだーーーーっ!!」
な、なんて言っているのでしょう?パードン?泣きじゃくってて聞き取りできません。
「朝起きたら、そこの男が出した獣がいないと気が付いた、そうですよ」
いやーな話し方で気配もなく近づいて来た、冷たいと感じるほどの異質な魔力波形の男の人がそう言いました。
はぁぁ……この人苦手。私がお城で苦手とする人の、女官長に続いて二人目の方です。
リーシュデッガー近衛副隊長様です。どうもいちいち嫌味な言い方をされます。まだ二十四才とお若いのに、年上のお歴々の方々にも偉そうな態度なので、好きになれません。
公爵家の跡取りで、あのルーイドリヒト王太子殿下の従兄弟で王位継承権五位の方だから偉そうなのは分かっていますけれどもね。どうも私には当たりがキツイ気がします。気がする、どころかはっきり感じますけどね。
「部外者が鍛錬場にいらっしゃるのは、感心しませんね」
リーシュデッガー様はチラチラとヴェル君と私を見ました。ヴェル君はしゃくり上げるリヴァイス殿下を抱き上げてあやしながら、
「フィリペラント王子殿下のご用向きで登城致しましたが、問題ありますでしょうか?」
と、リーシュデッガー様が逆らえない王位継承権の上位の方を無意識とはいえ、振りかざしヴェル君は見事切り返しました。リーシュデッガー様はジロリと睨み返してきます。
もしかしてこの嫌味が今日、リヴァイス殿下の護衛かしら?しかしこの嫌味男も、来季で騎士団近衛職を辞されて、公爵位を正式に継がれる予定です。
さっさと辞めちまえばいいんだようぅ~あら?口汚くてて、失礼。
あ~あダヴルッティ近衛隊長どうしたんだろ~早くこの嫌味な男を回収して欲しいわ。
ルーブルリヒト=ダヴルッティ様は本当は王位継承権、第一位であるはずのお方です。
ですが、お母様が伯爵位と政治的お立場が弱く、ご本人にも王位を継ぐ気はないと幼少の頃より宣言がなされており、僅か十才で王位継承権を放棄されて騎士団に入団されて現在に至ります。
とてもお優しくて老若男女、皆様に人気があります。お顔はもちろん、眩しい生き物一族の血を受け継いでキラキラですし、何と言っても強い。本当に軍人としてお強い。転生のプロの目に間違いがありません。そしてこの嫌味副隊長が絶対勝てない、無位とはいえ血筋を上手~く押し出してくれる、元祖腹黒近衛隊長様なのです。
ルーイドリヒト王太子殿下とフィリペラント王子殿下の間違いなくお兄様ですね。THE兄という感じの方です。三人兄弟は本当に仲がいいのですよね。そこも私の(勝手な)愛情ホッコリポイントです。
「リヴァイス殿下、フェルトはなかなか忙しくて、今日は用事があるそうなのです」
ヴェル君の言葉に、フェルトさんの用事ってなに~?と馬鹿なことを思わず聞きそうになりましたが、嘘も方便てやつですよね、失礼しました。
「また手隙の時に、殿下の御相手をするように申し付けておきますので、今日はご勘弁を」
「ほんとうだなぁ?フェルト、きてくれるか?」
ヴェル君は優しくリヴァイス殿下の頭を撫でております。
「もちろんでございますとも」
まさに蕩けるようなヴェル君の微笑みです。リヴァイス殿下のお付きのメイドのお嬢様達から悶絶するようなお声が上がっております。
するとそこへ、ジーニアス=ラヴァエンチュラ様とレンブロ=サバテューニ様お二人が走って来られました。
「良かった!ここだったか~ヴェル探してたんだ。ああっ!姫様にも助けて欲しいっすよ、なんでもニーゴ地区で狼藉者が暴れてそこの治療術士のじーさんがケガで意識不明の重体らしい。多数の怪我人で術士が足りなくて困ってるんですよ〜」
ラヴァ様の言葉の後を、サバテューニ様が引き取ります。
「狼藉者は逃げたらしい。ただ徒党を組んでいるらしくて、町の警邏と第二騎士団で追尾に当たるからそっちは問題ないんだけど、詳しくは現地で」
サバテューニ様はチラリとヴェル君を見ます。ヴェル君は怖い顔をして頷いてます。
「とにかく、姫様には治療手伝って欲しいんっすよ!俺は治療魔法いつの間にか使えるように?なってたんですけどぉ、慣れなくて加減が分からないんですよっ助けて下さいぃ」
それは大変だわ、重症のおじい様も診て差し上げたい。
でもラヴァ様、治療魔法使えるようになられたのね?フェルトさんの言っていた五分五分が当たりの方に出たのですね。ええ、もちろん行かせて頂きますとも!ヴェル君と二人頷き合いました。




