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魔将軍のご主人様になりました  作者: 浦 かすみ


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魔将軍の過去話1

暗いお話の回です。

ヴェル君は病みっこのようです。

 


 

 とんでもない爆弾投下です。


 ヴェル君がラブランカ王女殿下から言い寄られていたなんて……


 あれ待てよ?


 ラブランカ王女殿下といえば、コスデスタ公国第二公子殿下とご成婚されるのではなかったでしょうか?


 シエラになんとなく視線を向けると、シエラがそうですよね!という感じで大きく頷いているのが見えます。


「ラブランカ王女殿下ねぇ、ふむ……」


 王太子殿下が顎を摩りながら、やっぱり、そうだったのかな?とか呟いておられます。


 何かあったのでしょうか?


「いやホラ、うちのフィリペラントもラブランカ王女殿下と縁談が持ち上がったことがあってね」


 おもわず、いやぁ~!と悲鳴をあげそうになりましたよ。


 フィリペラント第二殿下こと、フィリー王子様は巷の女性達から絶大なる人気を博しておられる王子様です。ルーイドリヒト王太子殿下と同腹の王子様で、御年二十才ですが、キュルルンとした可愛らしいご容姿で性格は温厚、魔術の才がおありになり今は魔術師団の第一師団長をお勤めで在らせられます。


 前世で言う所の某アイドル事務所の人気アイドルのようなTHE王子様という方でいらっしゃいます。そのフィリー王子様とご縁談ですか……で、今は別の方とご成婚ということは縁談は破談になったということでしょうか?


 私以外にも女性陣の目が、一斉に王太子殿下に注がれております。


「なんだかね、初顔会わせで王女と会って帰ってきた時にフィリーがね。あの子、滅多に人の悪口とか言わないでしょ?なのにね、どうだった?と聞いたら一言、気持ち悪い姫でした。て言ったんだ。その時はなんだろうな~?とは思っていたのだが縁談は断固拒否するし、気が合わなかったのかな?とか軽く考えていたのだが、何かすごそうだね、ラブランカ王女殿下って」


 腹黒様が何かを聞きたそうにウズウズしています。


 →聞く。

 →無視する。


 何故私を見る!?王太子殿下っ!あぁ王子圧がっ王太子腹黒圧がっ~~


 負けました。ちっくしょ~言葉使いが悪うございましたね……反省。


 →聞く。


「あのぉヴェル君」


「ん?」


「ラブランカ王女殿下様ってどういうお方なのでしょうか」


 ヴェル君は酸っぱ苦い何かを飲み込んだみたいな顔をしてから、溜息をつきました。


「先ほどフィリペラント殿下も評していたが『気持ち悪い』で間違いないな。第二殿下とは気が合いそうだ」


 ひゃああ!今、フィリー王子とヴェル君が同じ空間に居る所を想像してしまいましたよっ。


「とにかく思い込みの激しいお方で」


 ヴェル君のラブランカ王女評はまだ続いているようです。ふむふむ、それで?


「まず発端というか、十八才の時だったかな?武功を賞されて褒美を頂ける授与の場で、ラブランカ王女殿下を臣籍降嫁させて俺に……いう話が出た時かな」


「どうされましたの?断ったのでしょう?」


 ヴィオお姉様も前のめりでお話に参加されています。気になりますよね、分かります。


「私にも好みというものありますが、とにかく戦場から一年ぶりに帰ったばかりで疲れておりまして休暇をくれと、ただ休暇だけが欲しいと王に申しあげました」


 ぉぉお……ヴェル君それはいけませんよ?王女様のプライドがズタズタじゃございませんか?


「王はそれを受けて臣籍降嫁を取りやめにされました。後で聞いた所によると王女殿下の頼みだとかで、王としては降嫁より他国に嫁いで欲しかったようですね」


「でも女性としては断られたら、とても悔しいのではないかな?」


 王太子殿下の言葉に、周りの女性陣も大いに頷いております。


 ですよね~しかも授与の場でしょ?結構な観衆がいたんじゃないかしら?公開失恋ですよ、それは辛いわ。


「少なくとも政略結婚だからダメというわけではないのです。何せ気持ち悪いのですよ。その言動のすべてが『私という至宝が降嫁するのだ嬉しいだろう?この身を好きに出来るのだぞ!』と言われたので」


 女性陣はドン引いてます。男性陣はもっとドン引いてます。


「何度も断りましたが、その後も休暇中の屋敷に日中問わず押しかけるし、忍び込むし、挙句に……」


 皆、息をつめて聞き入っています。ヴェル君は何気に語り上手ですね。


「夜這いを掛けてこられまして」


 ヴェル君は顔を手で覆いました。一同から、あぁぁ……と何とも言えない声が出ました。


 おふぅ……お気の毒、ヴェル君。


「とにかく王女はやり方が狡猾でして、私の屋敷に居るメイドや侍従を人を使って懐柔しようとしたり」


「懐柔?どのように?」


 王太子殿下が聞かれました。ヴェル君はすごく沈痛な面持ちです。


「人間の弱い所ですよ。借金などで苦しめて言いなりにとか、色恋相手に手引きをさせたり脅迫、強姦、兎に角ひどかったです。半年も経った頃には屋敷の使用人は全員、王女殿下の息のかかった者に代わっていました。誰も信用出来ませんでした。とにかく一緒に住んでいた母は地方の別荘に避難させました」


ヤバすぎますね、もう犯罪の域に達しています。


「とにかく勝手に婚姻書を何度も公所に出されてしまうので、部下に頼んで公所を見回りさせていました」 


 それも凄すぎる!


「もう付きまといどころではありませんので、王に軍を辞めたいと訴え出ると、逆に王女を嫁にすれば落ち着くとか訳の分からないことを言われ一笑に付されました」


 これはヴェル君が病んでしまっても仕方ないね。


「こうなったら将軍職を罷免してもらうしか手はないので」


 ヴェル君が一旦言葉を切りました。ああそれでか、私が言葉を引き継ぎました。


「それで魔術凝りをワザと(・・・)起こして、自身を意識不明の状態にしたのですね」


 また皆様がざわつきました。ヴェル君は苦笑いを浮かべています。


「相手は王女殿下です。手荒な事をして傷つけることは出来ません。罷免して欲しいとはいえ職務に手を抜くのは信条に反します。自分が助かりたい為に犠牲を強いるのは、自分だけでいいので」


「それは自死ではありませんか?」


 自然と声が固くなってしまいました。ヴェル君の瞳が私を射抜きます。


「俺自身は魔力抵抗値が高すぎたのか、物理攻撃は効かなかったのだ。自己防衛魔法が自然発動していたのだ。自分を刺すまで気が付かなかったが」


「そんなっ!そんな防御魔法ありえんっ!」


「ルーイ、お静かになさって」


 おもわず叫んだ王太子殿下を、ヴィオお姉様が(たしな)めます。


「本来は自然に起こってしまう魔術凝りを自在に起こせるか、随分と研究しました。もうすでにまともな精神状態ではなかったですね。ですが、幸か不幸か研究に没頭するあまり魔術凝りの状態に自らが陥ってしまいまして」


 病は気からと申しますものね、病気になりたいと思うあまり病を呼び込んだのですね。


「一度魔術凝り状態になれば魔力を外に排出する術式を組み、常に魔力切れの病状を自ら作り出すことに成功したのです。そうしていれば自然と……」


私は泣きそうです。そうではないのです。ヴェル君は頑張る方向を間違えてます。


「意識不明になった俺は原因不明の病と認定されました。最初は医院にいましたが、王女殿下の癇癪のせいで牢に入れられ……」


「やがてお前を持て余した城の奴らから奴隷印を押され放逐された、という訳か。随分と手荒だぞ?死んでしまったらどうするんだ」


 王太子殿下は呆れ顔です。ヴェル君の瞳には諦めたような色が浮かんでいました。


「誰に相談しても、王女殿下に望まれるなんてすごいことだぞ、とか王命を出されたら降嫁を受け入れなければならない、とか母上は伯爵家の子女ですし、家は受け入れて仕方ないという風向きでした。もう限界でした」


「ヴェル君っ!」


 私は話に割って入りました。不作法ですが勘弁して頂きたいです。


「ヴェル君は間違っています!ヴェル君自身を傷つけなくても解決策は他にもあったはずです」


「周りには相談した。みんな王女殿下に関わりたくなくて遠巻きに見ていた。もう自分を殺すしか……」


「やめて下さいっ!生きたくても病気で亡くなってしまう方もいるのです!今、この瞬間にも事故や殺人に巻き込まれて生きたくて悔しくてっそんな思いの人もいるのです!」


 自分自身の気持ちが、言葉に入っているのは重々承知でした。


 もっと生きたかった。甥の子供を抱っこしたかった。母に看取られるなんて情けなくて悔しかった。何度も母にごめんね、と謝っている自分に腹が立った。丈夫に生んであげれなくてごめんねと母に泣かれた時は、身が切られるように辛かった。


 私があまりにも泣きながら叫ぶので、ヴィオお姉様が駆け寄って来て抱き締めてくれた。


「もう今日はここまでにしましょう。続きはまた後日ね、いいわね?」


 やがて私は泣き疲れて眠ってしまったようです。


 ヴィオお姉様とヴェル君、王太子殿下が何かを話し合っている声が遠くに聞こえています。


 やがて私は深い深い眠りに落ちて行きました。




次はやっとヴェル君が前向きに…(笑)

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