3.世間の話題にのれません(8)
キタミと一緒とはいえ、制服姿でデパートの宝石店に入るのはかなりドキドキした。
下の絨毯もこころなしかふかふかしてるし、この一角だけがキラキラとお高そうなお金の輝きと空気に満ち溢れているのだ。
手前には比較的お手頃なのかもしれないアクセサリーが置かれていたが、奥に進めばガラスケースの中に並ぶ指輪やネックレスの値札のゼロの数には恐れおののくばかり。
ホテルの時よりも場違い感がすごい。
普通の高校生が買い物をする店ではないだろう。
だが、店員さんは冷たい目を向けるわけでもなく、ごく普通の客として私達に対応してくれた。
これはちょっと驚き。
そして、小さなダイヤモンドの石が百万円以上もすることに驚いた。
それを平然と購入するキタミにも、引く。
「この石ですと、お嬢様が身につけられるのでしたら、指輪よりネックレスになさった方がよろしいかと思いますが」
「い、いえ、私じゃないです」
店員さんはキタミが私に贈る石を選んでいると思ったらしい。
これはカラスへのプレゼントなのだと知ったら、店員さん、ショックだろうな。
「お世話になった人への贈り物なので、石だけで」
「そうでしたか。お嬢様へのプレゼントもぜひ」
ははは。
私は多少引きつり笑いで店を出た。
キタミの胸ポケットには札束なダイヤモンドが収まっている。
それだけで私は落ち着かないというのに、キタミは平然としていた。
「夕方はこの辺りによく来るんだけど」
キタミが小さな公園を見回していると、バサバサッと黒い姿が現れた。
数羽のうちの一羽が私たちの近くの滑り台へと降りてくる。
「彼女だよ」
そう言われても。
あの時のカラスかどうかは全く判別できなかった。
カラスって見分けがつくのか?
だが、キタミが言うのだから、このカラスが私を助けてくれたカラスなのだろう。
「カラスさん。私を助けてくれてどうもありがとうございました」
私は滑り台の上にとまっているカラスに向かって頭を下げた。
が、反応なし。
こちらを見てはいるのだが。
「キタミ、私がペンギン姿じゃないから、カラスさん、わからないんじゃないのかな?」
「ああ、そうか。一昨日、佐保を助けてくれて本当にありがとう。助かったよ。形は違うけど、一昨日の佐保もこの佐保も同じ佐保なんだ。可愛いだろ?」
キタミ……。
全然説明になってない。
カラスも少々呆れているようにも見えた。
私より前から友達やってるなら、このカラスにもわかっているのかもしれない。
「お礼だよ。受け取ってくれ」
キタミは胸ポケットから取り出したキラキラ光るダイヤを手のひらにのせ、カラスの方へと差し出した。
カラスはバサッと羽ばたいて宙に浮かぶとキタミの手からダイヤを受け取る。
そして私とキタミの上を二、三周した後、他のカラス達を従え飛び去った。
ありがとう、勇敢なカラスさん。
ありがとう。
でも。
飛び去る百万円が惜しいと思った。




