2.可愛すぎるのも大変です(4)
カラス達を見送り、方向を確認した私は岸に向かって泳ぎ始めた。
小さなペンギン姿のわたしにとって、岸はとても遠く感じる。
だが、帰らねばならない。
私はばしゃばしゃと足で水をかいた。
ペンギンになって初めての泳ぎだ。
私自身、泳ぐのは嫌いではない。
だが、当然のことながらペンギンとは泳ぎ方は全然違うわけで。
泳げず水没という事態は避けたかった。
だから暑い夏でもない今、海に入ることは全く考えておらず、ペンギン姿で泳ぐことは想定外だったのだが。
さすがはペンギンだった。泳ぎやすい。
一かきが、凄い。
足が、ではない。この羽が、だ。
小さな空を飛ぶこともできないこの羽の威力が、凄い。
ペンギンはフィンの付いた足で進むのかと思っていたが、誤っていたらしい。
足よりも羽の方が面になってるので水をとらえやすく、非常に効果的に水を押すことができるのだ。
ペンギンの羽が役に立たないと思ってたなんて、猛省だ。
泳ぎなれてくると、水面での波や空気の抵抗がかなりスピードを殺してしまう事に気づいた。
なので私は息を止め、水中へ身を潜らせることにした。
細い頭から続く丸く細長い胴体は、水の流れに逆らわない。
はじめは足で。
そして羽のかきで、ぐんとスピードを増す。
ぐん、ぐんっと水が流れていく。
海中では景色がかわらないが、水の流れを体感すれば早さが増していることはわかる。
私は面白いように水中を泳いだ。
だが、息継ぎが必要なので水面には顔を出さなければならない。
水面に浮上しては岸を確認し、また潜る。
それを繰り返すうちに、私はどんどん泳ぐことに慣れていった。
だが、疲れて腕も足も重くなってくる。苦しい。
遠いと思っていた岸が近づいてくることだけに意識を集中させる。
私は気力を振り絞る。
あと少しなんだ!
「佐保――、佐保――――っ」
私を呼ぶキタミの声をとらえた。
もう、そこに岸があるのだ。
力が抜けそうになる。
私は息を溜めて水中に潜ると、一気に加速した。
水の透明度はよろしくないため、あまり遠くまでは見えなかったが、水中にキタミの身体を発見した。
私の所まで泳いで助けに来るつもりだったのだろうか。
岸で待っていればいいのに。
少し前の恐怖も忘れて、そう思った。
私はキタミの元へとラストスパートをかけた。




