2.可愛すぎるのも大変です(5)
「佐保っ、大丈夫なのか? 佐保っ」
キタミの元に泳ぎ着いた私は、彼の腕に抱き上げられた。
しょっぱい海の水から解放される。
もう腕をうごかさなくてもいいのだ。
動かなくてももう身体は沈まないし、空気は胸いっぱいに吸い放題なのだ。
私は、戻ってきた。
キタミは私を抱えて、黒沢に何やら怒鳴っている。
友人も大変だな。
キタミは黄色いポンチョで私をくるんだ。
私はされるがままだ。ぐったりして腕も持ち上げられない。
泳いでいる時はまだ泳げそうだったのだが、今はすべての力を使い果たしてしまったかのように全身が重い。
もう何もしたくない。
「大丈夫か?」
「キタミーー、疲れたぁーー」
キタミに返事をするのも億劫なほどだった。
泳ぐのは全身を使うため、非常に体力を消耗するのだろう。
そして、水中より地上の方が重力が強い気がする。
羽を動かすのも、顔を動かすのも嫌だ。
動きたくない。
私は甘えるようにキタミに訴えた。
「疲れたよぉ、キタミーー」
「ああ、よく頑張った。よく頑張ったな、佐保。よく無事で、帰ってきてくれたな」
キタミは私を抱きしめてそう言った。
ああ。
キタミはすごく心配してたんだなぁ。
私は重い身体をキタミに預けた。
キタミは、ずぶ濡れだからと、海の近くにあるホテルに部屋を取ることにした。
すごいな、キタミ。
こうやってホテルって泊まるんだ、とか。
高校生でも泊まれるんだ、とか。
こんなずぶ濡れの客にもタオルを差し出すホテルって大変なんだな、とか。
妙なことに感心しながら、私はチェックインの手続きをするキタミを眺めた。
部屋はダブル。
シングルはわかるが、ダブルとツインてなんぞや?
と思いながらも、黒沢くんが横で嫌そうな顔をしているのを見た。
私は今ぬいぐるみのふりをしている。
キタミが選んだのがシングルでなかったということは、黒沢くんも一緒に泊まることになったのだろう。
いや、部屋を取るだけで泊まるわけではないのだろうが。
相変わらず面倒見のいい友人だ。
私達は制服を着たホテルマンに部屋を案内された。
そこは海の見える上の方の部屋だった。
この部屋は、結構、お値段が高いのではなかろうか。
宇宙人の懐事情は、大層豊かなのかもしれないと思った。




