1.海へ行こう(3)
今、翻訳機なる超ネクタイはしているが、黄色いポンチョはきていない。
キタミは撮影用に一定範囲内なら私が見えなくなる効果を作り出せるよう砂浜のあちこちに何かの装置をセットしていた。
キタミは今日のために色々と準備してきたらしい。
もちろん黄色いポンチョ姿も撮影済みだ。
「いいぞ、佐保-」
さて、と。
私はゆっくりと足を前に出した。
ずずっ
乾いた砂は柔らかい。
足が思ったより砂に埋もれ、私の身体がやや傾いた。
だが、倒れるほどではない。
一歩、一歩と足を進める。
ぐらっと身体が崩れそうになるとジタバタと羽を動かしたが、余計にバランスが崩れてしまう。
歩きにくい。
ペンギンの羽は人間の腕とは違う。人間のように足に合わせて動かすのではないだろう。
羽は使い方がつかめなくて、タブレットを操作する以外ではもてあましているパーツだった。
だが、この羽だけに限らず。
私は足や首、この身体をペンギンとして動かせているだろうか。
おそらく、使いこなせてはいないだろう。
砂地という不安定でありながら転んでも大丈夫な場所は、色々と試してみるのに最適かもしれない。
転んでジタバタしても、キタミが見ているのだから。
私はピョンっと両足で跳んでみた。
あっさりクリアかと思ったら。
のおおおっとのけ反り、後ろ向きに転んだ。
ジタバタ。
しかし慌てる必要はない。
横に転がって、腹ばい状態から立ち上がる。
ふっふっふっ。
実はキタミの部屋のマイテーブルで立つ方法はマスターしていた私だ。
失敗など恐くはなーい。
私はピョンピョン飛び跳ねてみたり、羽を動かしてみたり転んだりしながら海へ向かった。
徐々に腰の力の入れ具合がわかってきた気がする。
やや前傾姿勢くらいの重心がいいらしい。
スムーズに歩けてる気がする。
走れている気がする。
「キタミ―、見て見て――! 走ってるよ――――」
私は海に向かって、転んだ。




