7.授業を受けよう(2)
「おはよう」
「おはよ-」
学校で交わされる朝の挨拶がいくつも聞こえてきた。
気がつけば、彼が靴箱で上靴に履き替えているところだった。
電車の揺れと彼の暖かい懐のせいでうっかり眠ってしまっていたらしい。
ぬくぬくに包まれた状態であの揺れ。いい揺りかごだった。
そして、私はすでに立っていなかった。
彼の懐から腕を出してブラブラさせてるし、首は腹の上に乗ってるし、どんな態勢になっているのやらといった状況だった。
彼が腕で支えてくれているおかげで学校に辿りつけたのだろう。
うーん。
家を出た時の緊張感はどこに?
人間って逞しいよね。
なんて自分をフォローしてみる。
そんなことどうでもいいだろうことなのだが。
彼は上履きに履き替えると校舎東の階段を上っていく。
到着したのは、三年四組。
ガラッと戸を開けると教室ではすでに三分の一程度の席が埋まっていた。
生徒達の雑談で教室はそれなりに賑やかだ。
その間をぬって彼は奥へと歩いていく。
ドキドキドキドキ
私も彼と同じ三年だから、このクラスにも元クラスメイトが何名かいた。
そうか。
彼も同じ学年だったのか。
と、今頃、思い至る。
学校へ行って授業を受ける。
それをどうやって実現するかまでは全く考えてはいなかった。
学校行けば何とかなる。
教室行けば何とかなる。
そんな単純さだったのだ。
彼の学年が違っていたら私の教室に運んでくれるのかとか、授業を受けるにはどうするのかとか。
ちょっとは考えろよと思うのは私だけだろうか。
いまだ彼の懐ででろーん状態の私を、彼はすくうようにして取り出し、机の上に立たせた。
「おはよう、遠藤さん」
「おはよう」
「おはよー」
彼は隣の席のクラスメイトに挨拶をしながら席につく。
クラスメイト達は彼に挨拶を返すが、机の上の黄色の物体には全く興味を示さない。
こんなに近くにいるのに。
机の上を大きく占領している黄色い物体がいるのに。
まるで視線が来ない。
すごいよ、このポンチョと蝶ネクタイ。
なんだか妙に興奮してしまう。
他の人には見えないのに、私は見えている、ということに。
それに、よそのクラスにお邪魔しているからというのもある。
「キョロキョロしてると、落ちるぞ?」
彼が笑い声で話しかけて来た。
いくら小声とはいえ、さすがに声は不味いだろう?と思ったが。
周囲は全く反応がなかった。
いったいどんな魔法なんだろう。
「佐保は寝像が悪いからな。授業中に寝ぼけて机から落ちるなよ?」
彼の笑いながらの忠告に、むうぅっと思ったが。
寝起きの時だけでなくここへ来るまでのこともあり、私に異論はなかった。
気をつけます。




