6.学校へ行こう(3)
「管理局が調整しているから佐保は学校に行かなくても学校に通っている事になってる。でも、佐保は授業を受けないと、勉強が遅れてしまうだろ?」
管理局とやらが、私がペンギンの間は社会的(?)にフォローしてくれているらしい。
でも、私の頭の中は、お勉強したことにはしてくれない、と。
それもそうだなと納得もするけど、簡単に頭が良くなる方法とか授業が頭に入る手段とかを講じてくれてもいいんだよと思ったりした。
学校へ行けると喜んだものの、勉強という言葉が耳に入った途端、行きたくなくなるから不思議だ。
受験も控えているのだから、授業を休むのはよくない。
今日だけと言うならまだしも、明日もどうなるのかわからないのだから。
それはわかっているのだが。
勉強……受験……。
はあ、学校へ、行こう。
そうと決まれば。
私はてってってっと小走りで廊下に向かった。
そして廊下のスライドドアを開ける。
目的はクローゼットにある鏡だ。
そこに映っていたのは、黄色いポンチョにフードからのぞく小さな顔。
ポンチョはちらっと尻尾の見える丈で、下から黄色い足が出ている。
その姿は、足のついた黄色い雪だるまでしかなかった。
むっ。
これで、学校?
「似合うよ、佐保」
姿見に映る鏡越しに後ろから笑顔を向けてくる彼。
似合う?
雪だるまになっている姿が?
その言葉はお世辞ではないようだった。
彼の満足そうな笑みを見ればわかる。
自分の選択に満足しているのだ。
この黄色いポンチョ。
首元にのぞく黄色い蝶ネクタイ。
彼が選んだものなのだろう。
ペンギンのこの姿も彼が作ったと言ってたので、彼は黄色という色自体が好みなのだと思われる。
だが、彼のセンスは、標準的に考えると微妙と言わざるを得ない。
制服に着替えた彼はイケメンであるだけに羨ましいほどの姿だった。
対する私は……。
ガックリと項垂れる。
これなら鏡を見なかった方がよかったかもしれない。
鏡の前で私がどんよりと消沈しているというのに。
「これを着てれば、誰にも佐保が見えないも同然になる。だから、これを着て、一緒に学校へ行こう」
彼の声はどことなく弾んでいた。
嬉しいのを抑えている。
そんな感じだ。
私が学校へ行くのが嬉しい?
お気に入りのペンギンだから?
一緒に学校へ行こう。
嬉しそうだなと思った。
私としては助かっているがペンギン相手に独り言をつぶやき続けている男が、すごくすっごく嬉しそうだった。
それは、とてもいいことのように思えた。
私はこくこくと首を縦に振り、肯定を伝えた。
学校へ行こう。




