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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ
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5.夜が更けてきてすることは(2)

 ザアザアとドア越しに水音が聞こえる。

 風呂場のそれをバックに、私は平静を取り戻そうとした。

 

 ショッキングな映像はまだ瞼の奥に焼き付いている。

 とはいえ、いつまでもそれに捕らわれていてはいけない。

 

 振り切るように、ブルブルっと頭を振った。

 その拍子に辺りに水滴が飛び散る。

 し、しまった。

 しかし、私に飛び散った水滴を拭くことはできない。

 ペンギンだから、な。

 とりあえず何もせず彼が出てくるのを待とう。

 

 だが、ここにいては再び彼のオールヌードと対面することになってしまう。

 衝撃が納まってきた今、高校女子としてショッキング映像を見ることに興味がないではない。

 しかし今の私にはハードルが高すぎる。

 なにせ下から目線……。

 

 なんて思っているうちに水音が止んだ。

 まずい。

 私は慌ててバスマットの隅で背を向けた。

 

 振り向くな。

 振り向いてはいけない。

 

「避けててくれたのか? 佐保は偉いなー」

 

 はいはい、ありがとっ。

 

 彼は風呂から出ると、バサバサと布の雑音。

 身体を拭いて着替えているのだろう。

 

「佐保もさっぱりできたろ?」

 

 私に話しかけてくるが、彼は私が女子だということを忘れて去っているに違いない。

 佐保=ペンギン、なのだ。ペンギンにも性別はあると思うがな。

 

 彼が隠そうともしないのだから私も気にする必要などないのだが、どうにも居たたまれない。

 もじもじしていると上からタオルが降ってきた。

 

「痛かったら言えよ?」

 

 彼は私の前に跪くと、タオルで私の頭を拭きはじめた。

 首もにょーんと伸ばして後ろも横も優しく丁寧に。

 

 しかし。

 羽を持ちあげられ、脇を拭かれる辺りから、どうにもこうにも妙な気分になってきた。

 今、私はペンギンだ。

 それは十分わかっている。

 

 彼はペンギンを拭いてくれている。

 それだけなのだ。

 

「右足を上げられるか? 仕方ないな」

 

 ひょいと彼の膝に仰向けで乗せられ、足を片方ずつ包むようにして水気を拭きとる。

 もういいから!

 もうほっといても乾くと思うから!

 

 私はジタバタと手を動かし、もういいよと主張した。

 そして彼の膝からずり落ちようと試みる。

 

「急に暴れるなよ、落ちるぞ?」

 

 いや。落ちたいんです。

 落してくださるか。イケメンな御仁。

 

「駄目だぞ、佐保。ちゃんと拭かないと風邪ひくだろ?」

 

 だからっ。

 いくらペンギンな姿であっても、だ。

 脇とか股とかお尻とか、触られるのは嫌なんだって!

 超はずかしいんだって!

 ペンギンでも女の子なんです!

 

 私の訴えは届かない。

 

「いい子だからじっとしてろ。な、佐保?」

 

 彼の声はものすごく甘いのだが。

 私は内心、涙、だった。

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