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第10話 ギルド仮登録

ようやくギルドに登録。

まだ仮登録ですが。

 リヴィニエーラと名乗った少女は、白のイヌミミとふさふさなシッポを持つクーシー族の少女だった。

 彼女は、聖母とまではいかなくとも、保母さんのような慈愛を滲ませており、円らで少し垂れた、優しそうな瞳にポワンとした雰囲気とが相俟って、可愛らしい印象を受ける。


 天然でそうなのか、女子に嫌われる演技派なのかは、僕の拙い経験じゃ判断の付けようがない。

 ともかく、彼女はヘスティア聖教の修道服に身を包んでおり、手にはクウォータースタッフを握り、首に聖印(ホーリーシンボル)を吊るしている。


 見るからに回復職だ。聞くと、神官見習いらしい。

 んー。なんか、ウチのパーティーってバランス悪くない?

 前衛職のセリーナに後衛の僕とリヴィ、―――で、リコってどこ? 中衛?

 支援魔術は使えるだろうし。サポート役かなぁ?

 闘えないとなると後衛?

 最悪の場合、僕が前に出るしかないか。

 どっちにしろ、ゴリゴリの前衛職はセリーナだけ。

 せめて後、1人ぐらいは前衛職が欲しい所だな。

 ま、僕は兵方術(フォルス)があるから、敵に狙われても精霊魔術との併用でどうにでも出来るけど、戦略で考えた場合、隊列を維持するにはどうしたって、セリーナだけじゃ荷が重い。

 特に本格的にダンジョンに潜るとなったら、最低でも前衛職が二人は必要になってくる。


 とはいえ、町の周辺ウロウロするだけなら、セリーナ1人でもお釣りが来るだろうけど。



「よしっ! ユノとリヴィの顔合わせも終わったし、さっそくギルドに登録よ!」


 グッと拳を握りこみ、そう息巻くのは、言うまでもなくセリーナだ。

 4人仲良く、広場のベンチに座り、周辺の屋台で買って来た戦利品をあぐあぐ食べつつ、どうでもいい会話をしていた最中のことだった。


 ちなみに、僕が知る限りじゃ、こっちの世界に昼食を取る習慣はない。

 作業の合間に、ちょっとした間食(おやつ)を食べる程度だ。

 それでも、育ち盛りの4人である。

 目の前においしそうなものがあったら、食べない理由はないのだ。


 キリッとした顔で、ギルド会館を見やるセリーナの口には、タレが付着したままになっていたし、手には、串焼きの串がしっかりと握られたままだ。

 なんかイロイロと面白いのでそのままにしておく。


 僕らの先頭を颯爽と歩くセリーナに、そのまま1人だけで行かせたら、ちょっと面白いことになりそうだなと、思ったものの、さすがに可哀想なのでやめておいた。




 ギルドのエントラスホールは広かった。床は恐らく大理石製で、よく磨かれており、僕の姿が逆さに写り込みそうなほどだ。

 2階へと続く大階段に、エントランスの左右にはカウンターが据え付けられている。

 入って右手にあるカウンターは依頼者受付のようで、商人風の男が1人、獣皮紙に羽ペンで何かを記入しているのが見えた。


 セリーナは入って左手にあるカウンターへと向かい、いささか緊張した面持ちで受付に座るギルド職員へと声を掛けた。


「あ、あのっ! ギルドに冒険者登録したいのですがっ!」


 声が上ずっている。

 勢い任せに受付に突撃したはいいが、すでにちょっと緊張気味らしい。


 受付にいたお姉さんは、声に反応して、顔を上げるとセリーナへと目を向け、一瞬なにか言いたそうにしてから、表情を引き締めた。


「あ、はい。パーティーでのご登録ですね?」


 営業スマイルを浮かべて、そう言う。

 おおー。相手が顔ベタベタのお子様集団でも、丁寧に対応してくれる。

 アクーラじゃ、あり得ない。接客だなー。

 何だココ? 日本か?


「では、こちらに必要事項をご記入の上、2階の登録者専用窓口にて、お待ちください。

 あと、文字が書けないようでしたしたら、代筆も行いますが、その際には大銅貨8枚を頂くことになります。どうなさいますか?」


 受付のお姉さんの、立て板に水な説明に、本格的に緊張してきたのか、セリーナの表情が見る間に固まって行く。


「だ、大丈夫です!」


 最早、ガチガチに緊張したセリーナは人数分の獣皮紙を受け取ると、ちょっと離れてたところに待機していた僕らの元へと戻ってくる。

 早くもゲンナリしているセリーナに、リコが「セリーナ、君。顔にタレが付いてるよ?」と、ダメ押しをした。


「ええ!」と、泣きそうな顔をしたセリーナは自分の頬を手の甲で拭おうとして、自分で装備していた丸盾(バックラー)で鼻を強打した。


 その衝撃に「あう」と、呻くと「もうイヤ」と半泣きでそう言うセリーナだった。



 早くも心挫けたセリーナに代わり、後の登録手続きは、僕とリコが中心になって行うことになった。

 セリーナは終始、落ち込んでおり、リヴィはにこにこと笑顔を浮かべるだけで、特に何もしようとはしない。

 ついでにこの二人、文字は辛うじて読めるものの、書く方は自分の名前と幾つかの単語だけだと判った。

 獣皮紙に必要事項を代筆する際に、リヴィの年齢が16歳であることが判明する。

 いや、普通に登録できるじゃないのリヴィさん?


 結果だけ言うと、ギルドへの登録はつつがなく終了した。

 とはいえ、仮登録だったが。

 本登録のための試験は、僕らの他に2パーティを加えた合同で行うらしい。





 僕ら4人はギルドのエントランスホールに行くよう指示された。

 いい加減、あちこちの窓口をたらい回しにされ、うんざりしていた僕らは、もはや脊椎反射的に指示へと従っていた。


 なんでこんな複雑な手続きが必要なのかは知らないけど、もうちょっと簡略化出来ないのかなぁ?

 精神的に疲れ果てた僕たちは、大階段を、ノソノソと下りて行く。

 と、そこにはすでに、2組のパーティが集結していた。

 僕ら4人を入れて、総勢16人。


 んん? なんかオッサン率高くね? それに、あの揃いの革鎧(レザーアーマー)に身を包んでる連中の、肩に付いてる識別紋って、確か二尾狼傭兵団(クー・フルシェ・ヴォルフ)のものじゃないか?


 識別紋とは、主に戦場において、敵味方を識別し、同士討ちを防ぐために付けられる紋章のことで、自分がどこの国のどの部隊に所属するかを明らかにするためのものだ。


 二尾狼傭兵団(クー・フルシェ・ヴォルフ)って言えば、大陸中、あっちこっちの戦場や紛争地帯を渡り歩き、先の戦争でもジグルディア帝国と、その敵対国であったイプロシュアの両方に与し、(いたずら)に混乱を助長したとかで、父カフドは忌み嫌っていた。


 そんな連中がなんでギルドに?

 それにコイツらも試験受けるのか?


 ああっ! そうか。なるほどね。コイツら雇われてるんだ。

 ―――ってなると、あの見るからに貴族丸出しの、金持ってそうなボンボンが雇い主ってことになるのか?

 でも、金に困ってなさそうなお貴族様が、何でギルドに登録なんかしたがるんだ?

 流行(ハヤ)ってんのか? 上流階級の間で?

 どっちにしろ、遊びでやるんなら、元服するまで待てばいいのに。

 そんことよりも、うちのアクーラ領に近い、金持ってそうな貴族って、何家だったっけな?

 揉め事に発展しないといいんだけど・・・・。

 ―――って、さすがに考え過ぎか?


 そして、もう一組は、まー僕らと同じような、少年少女達だった。

 とはいえ、僕らとは違い、装備品も体に馴染んでいるみたいだし、どこか、こなれた雰囲気がある。

 もしかすると、ギルド生まれの子供かもしれない。


 ギルド生まれの子供とは、両親、もしくは片親が冒険者で、特定の国籍を持たない子供たちのことだ。

 そういった子供達を、ギルドは幼い頃から養育し、生活の目処が立つよう支援したり、ギルド職員に採用したりしている。




「よし。全員揃ったようだな?」


 という声と共に、エントランスに姿を現したのは、1人の女性だった。

 金髪碧眼の、ガリガリに痩せた女。眼の下の隈がひどい。

 耳の先端が大きく尖っており、どうやらエルフの血が混じっているようだ。

 その女性はメリッサと名乗った。


「早速だが、本題に入る。君たちには、シュナイゼス坑洞の地下5階にある、黄銅鉱床からアゼル黄銅を採掘して持って来てもらう。

 期日は明日から数えて4日。明朝に、ギルドからシュナイゼス坑洞まで馬車で輸送してやる。シュナイゼス坑洞に着くまでは合同だ。着いてからは好きにすればいい。他のパーティ同士協力しようが構わない。帰りの馬車は坑洞に着いてから二日後に出発する。それに間に合わなかったら、黄銅を手に入れていても失格になるので気を付けるように」


 そう一気に説明すると、メリッサは「以上だ」と、一方的に宣言する。


「なお、質問は一切受け付けない。出発までの時間、各自好きに使え。解散」


 もう言うことはない、とばかりに去って行くメリッサ。

 なんか、元軍人の人?

 僕ら以外の登録希望者が、三々五々に散って行く。


「僕はイヤだぞ?! 三日も屋根のないところで過ごすなんて野蛮人のすることだ!」


 歩きながら、貴族丸出しの坊ちゃんが駄々をこねる声が妙に場違いだ。

 その後をゾロゾロと着いて歩く、二尾狼の内、歴戦の傭兵っぽい片目の潰れたオッチャンが「ケッ!」と、雇い主に聞こえないよう、忌々しげに舌打ちしているのが見えて、


「まーまー。抑えて下さいっス。フリューゲルさん。こんなやっつけ仕事でも、実入りはいいんスから」


 と、青い髪した小柄な女が宥めている。




 取り残された僕たちは、しばらく気が抜けたようにっていた。

 その後、気を取り直したリコに促されて、僕たちは、明日の準備に一度家へと戻るのだった。






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