そのよん
さて、大学に行く、と言われたが、なぜ大学で魔法なのだろう? 前世的には大学なんて勉強をする場で魔法を使う場では……魔法を学ぶ場ってことか?
いずれにせよ、3歳児がそんなことを突っ込めば気味悪がられるに決まっている。一昨日漸く簡単な文が読めるようになったので、一人で絵本を読んでたら、両親に天才扱いされたしな。下手に自慢話の種にされて問題を引き寄せてもあれなので、知能的には自重する予定。
……どうせ、3歳児に大人の頭脳がついてるだけで、成長のリミットが3歳児並にあるわけじゃなし。
大学は、乗合馬車に乗って小一時間といった場所にあった。どうやら帝都(ここは帝国でその帝都在住なんだよ)の面積の1割に相当する土地が、大学に使われているらしく、大学地区、などと呼ばれている。
我が家はどうやら中流層の住宅街にあるらしい。……あれ? 貴族なのに?
大学でお袋が受け付けを済ませると、小さな部屋に通された。神秘的な……などということはなく、なんかの研究室か病院の診察室を連想させられる。
部屋には40過ぎと思しき青いローブを着たおっさんがいた。
「クリスティア君か、久しぶりだな」
「ネザール先生もお元気そうで」
知り合いか。
「ママは昔この大学に通ってたのよ。で、その時の先生」
ふ~ん。
「ふむ。息子さんか、調べたいというのは」
「はい。息子が魔法を使いたい、と言い出したので、適正だけでも見てもらおうかと」
「なるほどな。ええと、ウィル君だったか。魔法使いになりたいのなら、おじさんのいうことを聞いてね。まずはこれを飲んでくれないかな」
ネザールなるおっさんに渡されたのは、カップに注がれた青くてどろりとした液体。100cc位。まずそうだが、適性を見るとやらに必要なのだろう。グイッと飲む。
マズッ!?
吐きそうだったが、我慢してなんとか飲み込んだ。
「お、えらいね、我慢して全部飲めたなんて、凄いぞ。それじゃあ上を脱いで裸になってくれるかな」
服を脱ぐと、ネザールの手が胸に当てられ、ネザールは目を軽く瞑り、ぶつぶつと呪文を口の中で唱える。
何かの魔法だろう。胸に触れる手から淡い光が漏れている。……これ、相手が女性でもやるのか?
数分ほどそうしていただろうか。ネザールの手から光が消え、ネザールが目を開いた。
「ウィル君、よく頑張ったね。もう服を着ていいよ」
服を着る間に、ネザールはお袋へと向き直った。
「さて、クリスティア君。結果だが、精製炉の質はかなり高い。純粋に魔力量だけを言うのなら、鍛えればかなりのものになるだろうね」
「本当ですか!?」
よくわからないが、才能があるようだ。異世界に転生して、天才とは。なんか物語の主人公みたいだ。お袋も喜色満面である。
「落ち着きなさい。君も母親になったと思えば、まだまだ子供だな。話はおわっとらんよ。
精製炉の質は高かったが、接続路の方に問題がある。頑丈なのはいいことだが、外へのつながりが全く見えん。これでは種火一つ作れんわい」
……あれ? 俺の華々しい天才魔術師デビューはどこへ?
「それって……」
「うむ、事実じゃよ。珍しいがいないわけではないしの。まあ、訓練を積めば自分自身に掛ける魔法なら習得できるじゃろう。身体強化、自己回復魔法、後はレジスト系か。じゃが肉体にかかる負荷を考えれば危険で効率が悪い。学ぶな、とは言わんが、よくよく見てやることが肝要じゃ」
えーと。誰か俺にわかるように説明してください。
間違いないのは、俺の魔法使いデビュー物語は消えた、ということか……。