そのじゅうに
「黄金の街道を襲う山賊……と言っても、これは推定で山賊じゃない可能性もあるのよね?」
「ああ。帝都の正門と帝都から最も近い都市タルメルを結ぶ街道の途中でいくつかの隊商が行方不明になってる。それが始まりだ」
俺とフェルは黄金の街道を歩きながら、今回の任務の確認をしていた。出る前にやれという意見もあるが、別に今更追加で準備するものはないので、移動時間にやってしまった方が時間の節約になるのだ。
ちなみに、今回は俺もフェルも騎士、そして帝研の正装ではなく、ごく普通の旅人の格好をしている。俺は軽装鎧に両手剣、フェルは浅黄色(浅葱色ではない)のショートローブをバンドで留め動きやすくし、やはり動きやすくするためだろう、ズボンを穿いている。無論、発動体である腕輪と長杖を身に着けている。
この世界、男尊女卑の傾向があり、女性はスカートをはくのが当然とされる。激しく動くことを想定している女性はズボンをはくことがないわけではないのだが、一般的に男勝り、慎みがない、みっともない、などのイメージをもたれるため、そんな恰好をするものはほとんどいないそうだ。かくいう俺も、初めて見た。
どう見ても美少女なのだが、背が高く――とはいってもエルフの女性としては平均的なのだが――スタイルの起伏がないため、こんな恰好をすると美少年にも見えてしまう。
とにもかくにも、事件の復習だ。
俺たちが住む帝都は帝国の中心であり、同時にこの大陸の中心である。これは大陸に存在する国家間のバランスという意味もあり、同時に地理的な要件でもある。
当然、その帝都には世界中からたくさんのものがやってくる。物品としての商品から、人材まで。だが、当然その中には帝国にとって都合の悪いものも含まれる。禁制の品、犯罪者、他国のスパイなど。それらの出入りを防ぐため、帝都は正門のみを一般へと開き、そこに関を立てて出入りをチェックしている。
その正門から続く街道が黄金の街道。帝国で最もにぎわう街道だ。黄金の街道は無数の村の間を縫って進み、交易都市タルメルへと至る。タルメルから先にも黄金の街道は続くのだが、タルメルはそれ以外に2つの主街道の交差点にある都市であり、大陸中の品々が集まると言われている。
そのタルメルを発ち、帝都へ向かうと言っていた隊商がいくつか行方不明になっている、というのが今回の事件の発端である。
これが猛獣の仕業であるなら、街道沿いには襲われた隊商の残骸が残っているだろう。だがそのようなものはなかった。ということは、恣意的に対象の積荷や馬車ごと持ち去る何者かがいた、ということになる。
「ふ~ん、でもさ。隊商の気が急に変わって街道を外れてどっかいっちゃったって可能性はないの?」
……フェルはおそらく凄腕の魔法使いだと思うが、こういったことにはあまり頭が回らない人のようだ。
「行方がわからなくなった隊商はすでに4組。全員が全員、それまでの予定を急に変えていなくなったと? それに、馬車は整地された街道じゃないと走れない」
荒地を無理やり走ったら転倒し車軸がへし折れるのが関の山である。なので、せいぜいが証拠隠滅のために持ち去り、人目につかないところで壊れたまま放置されている、といったところだろう。
「なるほど……それじゃあ私が言ったのはないかー。ま、いいけどね。山賊の群れなんて私の魔法でちょちょいと倒してあげるわよ。ふっふっふ。これで功績立てたら、一気に昇進よ!」
ぐぐっと握りこぶしで燃え上がるフェル。……そういえば、故郷で未熟者扱いされるのがいやで出てきたって言ってたっけ。周囲に実力を認めさせたいってことか。
「そういえば、フェルの腕前を聞いてなかった。どれくらいの腕なんだ?」
「ローブの色でわかると思うけど、まだ下級魔法使い。魔術師にはなれてないわ。魔力量は並みのエルフより高い自信があるし、魔法も中級攻撃魔法は修めてる。特に炎系が得意かな。って、大抵の攻撃魔法使いは炎系がメインだけど」
魔法はその内容によって下級から上級までの分類分けがされる。
種火を熾すとか水を作るとか、主に日常で使うような魔法を下級魔法と呼ぶ。この中にはいわゆる攻撃魔法と呼ばれるものは存在していないが、もちろん喧嘩や威嚇程度には使えるので、魔法の才能があるチンピラなどはよく利用するんだとか。
一方、直撃すれば人間が大怪我をするような攻撃魔法や、剣や矢を防ぐことができる防御魔法などは中級に分類される。その方向性によって中級攻撃魔法だの中級防御魔法だの言われるわけだ。
そして上級となると、気象現象に近い規模の魔法が行使できるらしい。が、このレベルの使い手は国に一人いるかどうか位のようだ。曰く、魔法自体を習得できても魔力が足りない、だとか。
その中級攻撃魔法の中で最も使い手が多いのが爆裂火球である。使用者が込める魔力量にも寄るのだが、一般的には握り拳大の火球を投げ飛ばし、着弾点で直径数mの規模の爆発を起こす。密集地帯に打ち込めば数人は戦闘不能になる魔法だ。
この魔法に限らずすべての魔法にいえることなのだが、いわゆるある魔法の上位互換の魔法、と呼べるものは基本的に存在しない。なので爆裂火球をもっと強く、もっと広範囲に、と思うなら、相応の魔力を消費するしかなくなるのだが、ここで問題点が2つ発生する。
ひとつは、魔法使い個人の才能によって一度に放出できる魔力量が変わってしまうという点。人間が肉体に込められて耐えられる魔力量は万人共通だが、外部へ放出できる量は個人差があるらしい。なので、どれだけ魔力量があってもこの最大瞬間放出量が低いと小技しか使えなくなってしまう。
もうひとつが、魔法は発動してしまえば、基本的に物理現象に過ぎなくなってしまう、という点だ。爆裂火球は生み出した火球が数十倍の範囲まで広がる爆弾である。で、ある以上、規模をあげるなら最初の火球のサイズを大きくする必要がある。当然、大きくすればするほど発射までに変なところにぶつかって自爆する可能性が増えるし、火球がでかくなって顔に近づいたりしたら熱い。火力を上げるなら当然炎自体の温度を上げる必要があるが、そしたら今度は炎から放射される熱が熱い。
そんなわけで、意外と使い勝手がいいともいえないのだが、それでも攻撃魔法としては使いやすい部類になるのだ。
何せ、前世のゲームで攻撃魔法といったら氷だのかまいたちだのいろいろあったが、どうもこの世界の魔法だとかまいたちは作れないらしい。
この世界もいわゆる『属性』の概念がある。それぞれの魔法を属性という単位でくくり、最も得意とする属性をその魔法使いの属性、と呼ぶ。
たとえば俺が使う身体能力の強化は中級補助魔法で火属性とされる。理由はよくわからないが、確かに使用中は全身の体温が高くなったように感じている。
で、風属性の攻撃魔法は存在しているのだが、突風で吹き飛ばすとか、上級のもので竜巻を起こすとか。そんな感じであって、かまいたち現象は起きないらしい。謎だ。
とはいえ、前世のフィクション知識があるからこそ不思議に思うのであって、この世界の人からすれば、「風の刃で物を切る? 何のおとぎ話だ?」としか反応されないだろう。文献どころか物語にすら書かれていない発想なのだから。
で、氷の魔法は存在するのだが、こちらは属性どころか苦手でも使える人、すらめったにいないレアな魔法になるらしい。また、使えるものも氷の塊を飛ばす、という魔法がメインとなるため、その威力は単純な物理的な衝撃であるし、何より広範囲の敵をまとめて倒す魔法が存在しない。自然現象レベルの吹雪を起こしたとして、人が倒れるまでにどれだけ時間かかるのか。
そのような事情から、攻撃魔法の使い手は9割以上が炎使いとなるのだ。だからフェルが炎使いなのは至極当然と言えたが……。




