そのぜろ
ここから第二章です。
さて。騎士になるためには騎士団入団試験に受かる必要がある。この試験は、身分を問わず受けられるが受験資格は存在する。
一つは既に士爵以上の地位を持っていることである。これは生まれついてのコネがほぼ全てで、男爵以上の貴族なら、枠数に限りはあるが無条件で士爵を与えることが可能だからだ。更にこの場合試験の審査が非常に甘くなる。要するに貴族が箔を付けるためだからだ。
いやまあ、そういうパターンはすぐに予備役になるんだが。無論、この方法は俺には採れない。
もう一つは推薦を得ることである。
推薦は伯爵以上の貴族が出せるが、自分の血族には出してはならないと決まっている。勿論枠数も決まっており、さらに自分が推薦した者が試験に落ちると、推薦者にとっても大層な不名誉となるらしい。そして騎士団の質を維持するためだろう、推薦枠は審査も厳しく、10人受けて7人は落ちるため、並大抵の事では推薦を出そうとは思わないそうだ。
実際に推薦を得る方法として、一つはやはりコネが上げられる。血族には出せないが、例えば貴族が我が子を別の貴族に“個人的に”紹介する。紹介された方は貴族の子を見定め、才能があると踏めば推薦をする。この場合、大抵はまず数年間他家に騎士見習いとして奉公に出て、そこで試験に受かるだけの実力を得ることになる。
それも叶わない平民や騎士見習いになるほどのコネもない下級貴族の場合――要するに俺の場合だ――毎年春の頭に行われる馬上試合に出場し、よい成績を残す、と言う手がある。
実際のところ、成績だけで推薦が出るわけではない。総当たり戦ではなくトーナメント形式であるため、1回戦負けの戦士と準優勝の戦士を比べたとき、後者が必ず強い、とは言い切れないためだ。もちろん優勝者は最強の称号を得ているといってよいので、国王自ら推薦を出す決まりになっている。……それでも落ちることがあるのが現実だが。
優勝者以外の場合、予選を通過し本選に出る選手はその戦いが多くの観客のもとにさらされる。これを貴族が見学し、これはと思った相手に推薦を出すことになる。貴族としては、推薦を出したものが合格すれば、自分の見る目を証明するだけでなく、彼に対して貸しを作ったことになる。当然、彼は推薦者の傘下に入り、名目だけの騎士ではなく実力ありきの騎士を抱えることができるため、多くの貴族がこの馬上試合を見物に来るのである。
と、いうわけで、コネらしいコネもない俺は馬上試合に出る以外、騎士となる道はないので、これに参加するべく登録をしに来たのである。
「ウィリアム・マイスターさん、15歳ですね、かしこまりました。
予選の時間やルール、注意事項などはこちらに記載されています。見落として何か問題が発生しても当人の責任となりますのでご了承ください」
受付のお姉さんに書類をだし、要項を纏めた羊皮紙をもらい、建物を出る。……そうか、受付嬢ってメイドと並ぶこの世界でのまともな女性の働き口だったのか……。
などと今にして知るこの世界の事実に思いを馳せていると、背後から声をかけられた。
「おい、貴様マイスターと言ったな。トーマス・デア・マイスターの身内か?」
他者を見下した口調で声をかけてきなのは20台半ば程度の大柄な男であった。180セメルトを優に超えている。
「トーマスなら父ですが、お知り合いの方でしょうか?」
「息子か。俺に許可なく質問するとは親同様無礼者だ。だがまあいい、下賤な平民上がりに礼儀を求めるだけ無駄だからな。今回は特別に答えてやろう。
直接の面識はない。だが下賤な平民上がりが騎士団の馬上試合で昨年準優勝したと聞いた。貴き青き血を持つ貴族が平民上がりに負けるなどまぐれか不正行為に決まっているが、俺が騎士になった暁にはそれを証明してやろうと思っていただけだ」
いや無礼千万なのはお前の方だろう。まあ、こういう態度からして貴族、それも男爵以上の血統相続の歴史がある貴族なんだろうが……にしても、それなら士爵なり推薦状なり貰えると思うんだけど……いや男爵家の3男とかならそこまでのコネはないか。そうすると、貴族というだけで大して権力もない貴族のガキが中身そのまま大人になって見当違いの誇りだけ持ってる、ということだろうか?
まあ、筋肉の盛り上がりが服の上からでもわかるし、隙も少ないし。実際のところ親父より強いと言われても納得できる風格はあるんだが。
「そうですか。それではどうぞ、この大会でよい結果を残して騎士団に入り、証明してくださいませ。
私のような下級貴族にすらカウントされない士爵の息子、しかも成人したばかりの子供相手にそのような貴族の誇り以前に大人の貫録すら疑われるようなことをして、恥をさらす必要はないかと存じ上げます」
「貴様……! その台詞、ターニア家にケンカを売っているとみて……いや、待て。成人したばかりの子供といったか?」
「はい。先日15歳になりました」
「15だと……? その体格で?」
13歳あたりから、成長期に入ったのかぐんぐん背が伸び始めたからな。すでに178セメルトに達している。ついでに、過度な筋トレは成長を阻害するというが、適度な筋トレはむしろ成長を促進させる、と聞いたので、適度にやってきた恩恵か、俺も目の前の人物と比較して、そん色ない筋肉を得ているのであった。そりゃあ15歳には見えないだろう。実際、よく18くらいに思われる。
「ふん、まあいい。確かに毛も生えそろわぬガキ相手に横柄に出たのはこちらの落ち度だった。ああ、道理もわきまえぬ子どもの戯言程度、流してやるのが大人の度量というものだ」
失礼な。もう生えているというのだ。
「ではな。如何に貴様が子供とはいえ、大会に出場すれば歳など関係はない。せいぜい死なぬようにするのだな」
「お気遣いありがとうございます。あなたにも御武運があることをお祈りいたしましょう」
お互いに言葉とは裏腹の毒を混ぜて挨拶をし、お互いにその場に背を向けた。




