プロローグ
雪のように白い肌、艶やかな黒髪は腰あたりまで伸びており、ほんのり赤く色づいた唇、スラリと伸びた足は季節関係なく黒いタイツで覆われている。また容姿だけでなく、勉学、スポーツにも秀でており、彼女が歩けば人は目を奪われ道ができる。この学校で彼女を知らない人間を探す方が難しい。
そんな完全無欠な天才美少女の名は——————
白雪 琳
超進学校に通う檎赤高校2年の至宝である。
そしてそんな至宝になぜか呼び出しをくらった俺は、同じく檎赤高校に通う2年の
真継 織。
科学部所属のただの陰キャである。
今は呼び出された校舎裏に続く廊下を、時速カタツムリで歩いているところだ。
彼女とは同じクラスではあるが、席が近いわけでもない。ましてや、よく喋る仲でもない。
ではなぜ呼び出されたのかは今朝に遡る。
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今日の部活ではヘビイチゴという植物について研究してみようと、ぼんやり考えながら校門をくぐった。
部活といっても部員は自分だけなので、引退までに部員が増えなければ廃部である。まさに危機的状況にある部活だが、きっと増えることはないだろう。なぜなら、コミュ障すぎて勧誘できず、科学部の存在自体知っている人がいないからである。ちなみに科学部創設者は俺だが誰にも知られることなく密かに終わっていくだろう。
頭の中で終わりの見えている部活のことを考えながら下駄箱を開け、上靴を取り出そうとしたところ、見覚えのない白い封筒が一枚入っていた。宛名を見ると綺麗な字で真継君へと書かれており、人生初のラブレターではないのかと、少し期待してしまう自分とどうせ悪戯だろうと、その期待を潰そうとしている自分がいる。
とりあえず、差出人を確認しようと封筒を裏に向けると、右下にこれまた綺麗な字で白雪琳と名前が。
一瞬思考が止まってしまったが、周りにも他の生徒がいるため、鞄に封筒を突っ込んで男子トイレの個室に駆け込む。予鈴まで約10分ほどあることをスマホで確認してから、先ほどの封筒を取り出す。差出人をもう一度確認するが、変わらず至宝と呼ばれる彼女の名が。
これがラブレターではないことは100%確定しているも同然だが、接点のない彼女がなぜ俺に手紙をよこしたのか、内容が予測できなさすぎて怯えてしまう。左手を心臓あたりに置き、大きく深呼吸をし、意を決して二つ折りにされた紙を広げる。そこに書かれていたのはただ一文。
『今日の放課後、校舎裏に来てください。』
それだけだった。
「俺、護身術習ってない……。」
きっと存在が鬱陶しいとかでボコボコにされるのだろうと、護身術くらい習っておけばよかったと後悔。
そんな後悔を抱えたまま、あっという間に放課後になり、冒頭のカタツムリに戻る。
ゆっくりと進んではいるものの、目的地にはいずれ到着してしまう。彼女は武術を得意としており、柔道大会を総なめにしている実力者である。そんな人に敵うことも逃げることもできそうにない。ならば、一思いにぶっ飛ばされる他ない。
本日何度目になるかわからないため息と、朝から冷えた心臓で体調不良になりそうだ。そうしているうちに校舎裏に出入りする扉の前まで来てしまった。
2、3分ほどその場で立ち尽くしていたが、意を決して扉を開ける。そこには既に到着していた彼女が。風に靡かれた髪を抑える姿はまるで映画のワンシーンのようで、思わず見惚れてしまう。あまりに引き込まれた姿を見すぎたのか、こちらに気づいた瞳と視線がかち合う。
「あ、あの……遅くなってごめん。」
かち合った視線を逸らしながら謝罪を入れ、彼女の言葉を待つ。相変わらず表情を見ても何を考えているのかはわからないが、お腹にはどんな威力の衝撃が来てもいいように、力を目一杯込めておく。
「こちらこそ突然呼び出してごめんなさい。実は科学部の真継君にしか頼めないことがあって……。」
声までも綺麗だなぁなんて呑気に聞いていたが、俺が科学部であることを知っていることに驚いてしまう。しかもあの至宝にだ。実は実験してみたいことがあったりするのだろうか。少しの期待を込めて彼女を見てみるが、俯いている。
「私、りんごが大好物で……。」
「は、はぁ。」
「だからっ。」
顔を勢いよく上げた彼女とまた視線がかち合う。突然の大好物紹介は意味わからないが、吸い込まれそうな瞳から目が離せない。
そして、意を決した表情から紡がれた言葉はこれである。
「私に毒林檎を作ってくれませんか!?」




