心配
第八話 城の外へ
畑の枠から、カイの名前を外した。
生産量が下がる。
分かっていたことなのに、少し惜しくなった。
その名前を、部隊の指揮官へ入れる。
兵数、二十。
行き先は、城に隣接する等級一の平地。
画面の下に、行軍時間が表示された。
「隣なのに、こんなに掛かるのか」
俺が言うと、カイが地図を覗いた。
「歩くんだろ」
「そうだけどさ」
地図では近い。
ただ、それは一つの区画を小さく表示しているだけだった。
城門から出て、道を進み、土地へ入る。
そこに着いてから、守備兵との戦いがある。
終われば、同じ道を帰ってくる。
決定を押した瞬間に結果が出るものだと、どこかでまだ思っていた。
*
出発までに、思ったより時間が掛かった。
兵を部隊へ編成する。
装備と食料を確認する。
目的地を設定する。
それぞれの画面に、別の決定があった。
一つ終わるたびに出発できる気がして、周から次を説明された。
カイは兵舎の前で待っていた。
俺が近づくと、顔を上げる。
「行ける?」
「たぶん。……周さん、これで全部ですか」
「編成は完了しております」
俺はカイを見た。
普段の服の上に装備を着け、槍を持っている。
見慣れない姿だった。
「重くない?」
「重い」
「大丈夫?」
「歩ける」
カイは槍を持ち直した。
俺はその手元を見た。
「扱えるんだよな」
「扱い方は分かる」
それ以上は言わなかった。
俺も聞けなかった。
*
城門まで、一緒に歩いた。
二十人の兵が続いてくる。
何も言わないまま、足音だけが重なった。
門の外には、土の道が伸びていた。
遠くに草地が見える。
その向こうには、低い丘があった。
地図で何度も見た場所なのに、実際に眺めると、どこが区切りなのか分からない。
「あの辺?」
「目的地は、もう少し先でございます」
周が道の向こうを示した。
俺には見えなかった。
「俺も一緒に行った方がいいかな」
言うと、カイが振り向いた。
「来て何するんだ?」
責める口調ではなかった。
だから余計に、答えに詰まった。
「……分からない」
「じゃあ、ここにいてくれよ。帰ったら、どこにいるか分かるし」
俺は門の柱を見た。
ここで待つだけでいいのかと思う。
ついていけば何かできるのかと考える。
できることは、思いつかなかった。
「分かった」
出兵の画面を開いた。
最後の確認が出る。
指揮官の名前も、兵数も、目的地も合っていた。
「無理そうなら、戻ってきて」
「うん」
「取れなくてもいいから」
カイは少しだけ首を傾けた。
「取りに行くんだろ?」
「そうなんだけど」
説明しようとして、言葉がまとまらなかった。
カイは道を見てから、頷いた。
「危なかったら帰る」
俺は決定を押した。
*
列が動き始めた。
先頭にカイがいる。
その後ろへ兵が続く。
門を出ても、すぐに小さくはならなかった。
しばらくは歩く姿がはっきり見えた。
カイが一度だけ振り返り、手を上げた。
俺も上げた。
そのまま見送っていると、道が少し曲がり、列の前半が木々の向こうへ隠れた。
最後の兵が見えなくなるまで、長かった。
表示を開く。
【行軍中】
残り時間が減っていた。
「出ましたね」
俺が言うと、周は頷いた。
「はい」
城門の外からは、もう足音が聞こえなかった。
俺は表示を閉じた。
すぐに、もう一度開いた。




