いえい
第百五十二話 最後に集まる場所
統合準備の案内には、これまでと違う一文があった。
『移行前待機地点 王城』
全城主が、指定された時刻までに集まる。
所属する武将や兵、持ち越す資源の確認は、その前に済ませる。
俺は最後まで読み、地図を開いた。
北西から王城へ向かう道。
ほかの地域から合流する道。
王城を攻めるために確かめた経路を、今度は全員が通ることになる。
「また、あそこか」
玄が言った。
誰も、すぐには笑わなかった。
城を取った喜びもある。
そのあと、何が起きたかも覚えている。
晴は案内を読み終えると、少し考えた。
「じゃあ、ご飯を用意しよう」
俺は顔を上げた。
「王城で?」
「うん。皆が来るんでしょ」
当然のような声だった。
「何もないところで、時間まで待ってるのは嫌だよ」
*
最後の土地の奪い合いは、しなかった。
今期が終わる前に、少しでも順位を上げる。
空いた土地を取る。
以前なら、そんな動きがあってもおかしくなかった。
だが、今回は各同盟が、兵と人を王城へ無事に届けることを優先した。
道を塞がない。
移動のために空けた土地を、横から取らない。
出発が遅れた城があれば、近くの者が声をかける。
十同盟の代表へ相談すると、返事は早かった。
最後まで戦わずに終えたい。
同じ言葉が、少しずつ違う文面で届いた。
俺は、それを読み終えてから宴の提案を書き加えた。
*
真砂は、必要な量を計算していた。
紙が何枚も並んでいる。
その向こうで、千景が参加人数を確かめていた。
「全員分となると、一度に席へ座らせるのは難しいですね」
「食事の場所を分ける。到着した人から食べてもらって、最後に集まる時間だけ揃えましょう」
巌は鍋の数を数えていた。
「料理の教室で使ってるやつ、借りられるか」
「返却先が変わるので、持ち主と一緒に運ぶ形なら」
真砂が答える。
正臣は、広場へ置く卓の図を持ってきた。
奈緒たちは、遠くから運ばなくても作れる料理を考えていた。
焼く。
煮る。
温かいまま、小分けにして渡す。
凝った一皿より、たくさんの人が座って食べられることを選んだ。
準備を見ているうちに、俺もようやく楽しみになってきた。
同じ王城へ行く。
今度は、食事を持って。
*
桃の枝を飾ろうと言ったのは、杏だった。
「王城の庭に、植わってたでしょう」
探索の時、壁沿いに並んでいるのを見たという。
花の残る枝もあったらしい。
晴が頷く。
「あった。あそこなら、広いよね」
「皆で、何か約束をするのはどうかな。次の世界へ行く前に」
俺は、庭の位置を思い出した。
四つの内門より奥。
戦いの時には、ゆっくり見ることもできなかった場所だ。
巌が口を開いた。
「桃園の誓いか」
その言葉に、何人かが顔を上げた。
玄が少し笑った。
「全員で義兄弟になるのか?」
「そこまで一緒にする必要はないだろう」
俺も笑った。
「同じ日に倒れよう、という約束はしたくない」
律が隣で頷いた。
「誰かが危なくなったら、助けを呼んでほしい」
晴が続けた。
「違う場所に着いても、返事をしようよ」
葉が、その言葉を書き留めた。
大きな誓いを作ろうとしていたはずだった。
紙に残ったのは、俺たちが何度も頼ってきた、ごく普通の約束だった。
*
王城へ向かう日、城門の前で立ち止まった。
兵の確認は済んでいる。
持ち越すものも、周と一緒に確かめた。
荷車の一つには、料理に使う鍋が載っていた。
その隣には、律が買った卓の敷物がある。
全部は持っていけない。
それでも、選んで持っていくものがあった。
「忘れ物は?」
律が聞いた。
「ないと思う」
「じゃあ、行こう」
カイが先に門を出る。
レンが荷を確かめ、澪はその後ろで欠伸をした。
俺はもう一度、庭を見た。
晴たちと魚を食べた場所。
律と婚姻の祝いをした場所。
兵が訓練し、武将たちが装備を試した場所。
門を閉じる音を聞いてから、前を向いた。
*
王城へ近づくと、風に混じって料理の匂いがした。
入口には、いくつもの旗が並んでいる。
門前で槍を構えていた兵は、道案内をしていた。
荷車が詰まると、違う同盟の城主が一緒に押した。
到着した者へ、水が配られる。
遠くから声が上がった。
「北西が来たぞ!」
晴が、荷車の上から手を振った。
俺も手を上げる。
門をくぐる時、足元を見た。
戦いで傷ついた石畳の上に、今日は踏まれた花びらが一枚落ちていた。




