第二第三
第百三十五話 白馬の止まる時
「行け」
宗吾からの返事を確認し、俺は言った。
カイが走り出した。
レンは半歩後ろにつく。
その前へ、沈烈の部隊が出た。
趙雲を守る騎馬は、まだ残っている。
数は減っていても、一騎ずつが強い。
巨嶽が正面へ圧力をかける間に、沈烈が槍の列を進めた。
敵の馬が向きを変える。
そのわずかな隙間へ、カイが入った。
*
趙雲の槍は、速かった。
遠くから見ていた時には、一度突いているようにしか見えなかった。
近づくと違う。
一度目で剣の位置を確かめ、二度目で退路を塞ぎ、三度目が身体を狙う。
カイは最初の突きを弾いた。
二度目を避けるために踏み込む。
そこへ、三度目が来た。
俺は息を止めた。
横から、レンの槍が入った。
受け止めるのではない。
穂先の向きを、わずかに逸らす。
カイの肩を槍がかすめた。
革の胴衣が裂ける。
それでも、カイは足を止めなかった。
剣が白馬の横を走る。
趙雲が身を引いた。
初めて、こちらの攻撃を避けるために。
*
表示に、格上殺しの補正が重なっていた。
数字を見る余裕はなかった。
カイが打つ。
レンが、次の槍を出させない位置へ入る。
趙雲が二人をまとめて離そうと馬を動かすと、カイは追わず、レンの横へ戻った。
そこへ沈烈の兵が進む。
白馬の走れる幅が狭くなる。
誰か一人で、ここまで持ち込んだわけではなかった。
巨嶽が削った正面。
各同盟の波状攻撃。
退く味方を守り、次の隊を送り出した盾の列。
そのすべてが、今、趙雲の足元を狭めていた。
「右、空けるな!」
宗吾の声が飛んだ。
別同盟の槍兵が、崩れかけた列を埋める。
趙雲がそちらを見た。
その一瞬に、レンが前へ出た。
*
カイは、レンが何をするか分かっていた。
槍を深く入れる。
相手に払わせる。
払った刃が戻るまでの、短い間。
そこが自分の場所だった。
昔、そうしたことがあるのか。
最初から、そう動くためにできているのか。
今は、考えなかった。
趙雲がレンの槍を弾く。
レンの腕が跳ね上がる。
その下を、カイの剣が通った。
鎧へ届く。
趙雲の身体が揺れた。
だが、倒れない。
槍が返ってくる。
カイは下がろうとして、足が遅れた。
肩が痛んだ。
レンが背中の革を掴み、引いた。
穂先が、目の前を抜けた。
「欲張るな」
「分かってる」
「今、欲張っただろ」
カイは返さなかった。
代わりに、もう一度剣を構えた。
*
趙雲の周囲に残った兵を、後続が押し込んだ。
白馬が、門の手前で横を向く。
巨嶽が前へ出た。
重い一撃を、趙雲が槍で受ける。
音が響いた。
そこへカイとレンが、もう一度入った。
レンの槍が、相手の武器へ絡む。
カイが踏み込む。
今度は、退かなかった。
剣が届いた。
趙雲の槍が下がる。
白馬が二歩、石畳を踏んだ。
その背から、武将の姿が崩れた。
俺は、何が起きたのか一瞬理解できなかった。
表示が開いた。
『内門守将・趙雲 撃破』
隣で晴が叫んだ。
「倒した!」
その声で、ようやく息ができた。
*
歓声の中でも、宗吾は手を止めなかった。
「門前を確保。負傷した隊を下げろ。残った守備を追って、奥へ入るな!」
沈烈が兵を整える。
後続の隊が、空いた場所へ入る。
カイはその横を、レンに小言を言われながら戻ってきた。
「肩」
俺が言うと、カイは傷を見た。
「少しだ」
「少しかどうかは、手当てする人に決めてもらえ」
レンが言った。
俺は頷いた。
「その通りだ」
カイが不満そうな顔をする。
いつもの顔だった。
それを見て、胸の奥の緊張がようやく緩んだ。
「よく戻った」
俺が言うと、二人は一瞬、黙った。
カイが先に目を逸らした。
「まだ、三つあるぞ」
「ああ。でも、まず一つだ」
*
開いた門の向こうを、岳が確認した。
さらに奥へ道が続いている。
だが、四つの内門が囲む中央区画は、まだ閉ざされていた。
残る守将の名が表示されている。
関羽。
張飛。
呂布。
俺は、その三つの名を見た。
初めて、残り三つだと思えた。
四人とも倒せないかもしれない、ではなく。
宗吾が次の記録を取った。
「兵の補充を。守備隊も交代する」
真砂から、物資が届いたという知らせが入る。
後方では律が、戻った隊と新しく着いた隊を振り分けていた。
城主一人ひとりの仕事が、止まらず続いている。
俺は次の門へ顔を向けた。
「行こう」




