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第1話:王太子に婚約破棄されて地下牢にぶち込まれましたが、前世の記憶を取り戻したので実質バカンスです

数ある作品の中から本作を見つけていただき、ありがとうございます!


「婚約破棄」「ざまぁ」「溺愛」「転生」の爽快ピュアラブコメディをお届けします。


スマートフォンでもサクサク読めるテンポ感を意識して執筆しております。

まずは第1話、理不尽な夜会の場面からどうぞ!

「サクラ・コ=フォン・ブラウエン! お前との婚約を破棄する! 身の程を知れ、この希代の悪女め!」


きらびやかな夜会会場の真ん中。

頭上にある巨大なクリスタルのシャンデリアが、痛いほど私の目を刺す。


婚約者である王太子、ジークフリートが冷酷な笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

その逞しい腕には、可憐に震える男爵令嬢のマイアがこれみよがしに寄り添っている。


「私が……悪女、ですか?」


ドレスの裾を握りしめた。

指先が白くなるほど強張る。


(……なんで私ばかり責められるの? 何も悪いことなんてしていないのに、誰も私の言葉を信じてくれない)


「白々しいぞ! マイアのドレスにワインを浴びせ、挙句の果てには階段から突き落とそうとしただろう!」


ジークフリートの怒声が、ホール全体をビリビリと震わせる。

周囲を取り囲む貴族たちは、まるで汚い害虫を見るような目で私を指差し、ひそひそと嘲笑っていた。


マイアは怯えたように王太子の胸に顔を埋める。

しかし、その口元が、一瞬だけ勝ち誇ったように歪んだのを私は見逃さなかった。


「サクラ・コ様……どうか私を恨まないでください……っ」


わざとらしい震え声。

彼女の胸元で怪しく不気味に輝く、血のように赤い宝石が視界に飛び込んでくる。


『おい、聴いてくれよ! この女、自分でドレスに泥を塗ったんだぜ!』

『そうだそうだ! 階段からも自分で転げ落ちて、全部このお嬢様のせいにしたんだ!』


私の耳には、確かに聴こえていた。

マイアのブローチに嵌められた、ルビーたちの怒りに満ちた叫び声が。


けれど、周囲の人間にはただの「石」にしか見えない。

私がどれだけ真実を訴えても、ジークフリートは「不気味な妄想を吐くな」と一蹴するだけだった。


「言い訳は聞かん! 衛兵、この女をただちに最下層の地下牢へ連れて行け!」


容赦のない命令。

屈強な男たちに両腕を乱暴に掴まれる。


冷たい大理石の床を引きずられながら、私はジークフリートとマイアを睨み据えた。

悔しさと理不尽さで、視界が涙でぐにゃりと歪んでいく。


貴族たちの冷酷な嘲笑に見送られ、私は豪奢な夜会会場から引きずり出された。


---


カラン、カラン、と重い鉄格子が閉まる。

王宮の最下層にある地下牢は、陽の光も届かない、しんと静まり返った暗闇だった。


「うっ……!」


衛兵に突き飛ばされ、私は冷え切った石の床へと乱暴に転がされる。

その瞬間――頭の芯を、パキィンとガラスが割れるような強烈な衝撃が駆け抜けた。


(あ、頭が割れそうに痛い……! 何、この濁流みたいな映像は……!?)


脳内に、見たこともない景色が津波のように押し寄せてくる。

天を突くような高いビル群、満員電車、そして「社畜」として毎日死に物狂いで働いていた、日本人としての記憶。


私の名前は、佐藤桜子さとうさくらこ

二十五歳の事務職で、締め切りに追われてデスクで過労死した、前世の記憶。


(ちょっと待って……思い出した! ここ、私が前世でドハマりしてたクソ乙女ゲームの世界じゃない!)


頭を抱えたまま、私は驚愕のあまりガタガタと震えた。

サクラコは、ゲームのヒロインであるマイアをいじめた罪で婚約破棄され、国を追われる哀れな悪役令嬢。


でも、本当のサクラ・コは、この国を支える魔力鉱山の位置をすべて言い当ててきた大功労者だ。

私には生まれつき、不思議なチート能力があった。それは、この世界に存在するあらゆる「鉱石や植物の声」を聴くことができる力。


それをジークフリートは「石と喋る不気味な無能」と蔑み、私の手柄をすべて自分のものにしていたのだ。


「……ははっ、あはははは!」


暗い牢屋の中に、私の乾いた笑い声が響き渡る。

前世の記憶を取り戻した今、王太子への未練なんて微塵も残っていなかった。


(……あの馬鹿王太子、本当に見る目がなさすぎるわ。私の能力がどれだけ国家の利益になってたか、これっぽっちも理解してなかったのね)


すっと立ち上がり、汚れたドレスの埃をパンパンと払う。

奴隷のように働かされた前世の社畜ライフに比べれば、この静かな地下牢はむしろ天国に思えた。


「お嬢さん、ずいぶんと面白い顔になったね。さっきまで泣きそうだったのに」


足元から、低く落ち着いた声が響く。

それは人間のものではない。地下牢の壁を形作る、古く大きな花崗岩の声だった。


「ええ、ちょっと目が覚めたの。ねえ花崗岩さん、ここ、少し冷えるわね。私、冷え性なのよ」


私が微笑みながらひび割れた壁にそっと触れると、石たちは嬉しそうにブツブツと震えた。


『俺たちの隙間に、地下深くから繋がる魔力の脈があるんだ』

『そこを少し叩けば、ほら、あったかい熱を分けてあげるよ』


ゴゴゴ……と、かすかな振動。

石たちの教え通りに壁をなぞると、じんわりと、心地よい温かさが床全体へと広がっていった。


冷たいはずの地下牢は、石たちの加護によって、まるで高級旅館の岩盤浴のように快適な温度に包まれる。

私は破かれたドレスの裾を丸めると、それをクッション代わりにして床にごろりと横たわった。


「最高……。上司の怒鳴り声も聞こえないし、残業もないなんて。実質バカンスだわ」


(……明日からのことなんて、明日考えればいいわよね。まずはこの快適な床で、泥のように眠らせてもらおうかしら)


クズな婚約者から解放され、静寂に包まれた極上の空間。

私は前世の疲れを癒やすように、深い眠りへと落ちていった。


まさか数時間後、この鉄格子を文字通り叩き斬って、隣国の最強で最恐と恐れられる「氷の皇帝」が誘拐しにやってくるなんて、この時の私は知る由もなかったのである。


(第1話おわり)

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