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CGD4-③

「それよりそっちはどうなんだ? 一条さんがエースなのは知ってるが、例の問題児二人、彼女らは普通にやれてるのか?」

「まあ、まとめるのは多少は苦労していますが、それでもやはり彼女らのポテンシャルは凄いです。琥珀さんは守さんとも遜色ありませんし、哀華さんも中衛としての能力は抜きん出ていると思います」


 別に二人をフォローするつもりはなかったが、彼女らの能力自体が高いことは間違いないので、私は彼に対しそのように答えた。


「そうなのか。確かに能力が高くなければ早々に除隊になっているだろうしな」


 三笠さんは合点がいったのか、ふむふむと一人頷く。


「ですね。あと、まとめる方はあずさが……あ、羽岡さんが手伝ってくれていますし、なんとかやれると思います」

「そうか。彼女も色々と苦労しているだろうが、ホントによく頑張っているよな」


 三笠さんの口からあずさの話題が出たことは驚きだった。私としては、幼馴染が褒められるのは素直に嬉しいと思えた。

 

 それにしても、私はあずさが入隊してからどんな経験をしてきたのか実はあまり知らないことに今更ながら気付く。意図してロイエの話を避けていたこともあるし、あずさも私の気持ちを知っていたので、話題にあげなかったというのが大きい訳だが、彼女に関することを私が全然知らないというのも具合が悪い。私はもう少し三笠さんにあずさのことを尋ねることにした。


「三笠さんも、彼女が頑張っていると思いますか?」

「ああ。『人類の希望』とまで謳われた羽岡あおいの妹だし、相当苦労しただろう。それでも、周りの声など気にせずここまでしっかり実績を作ってきているのは俺は凄いことだと思う。俺にもかなり優秀な姉がいたから、比較される辛さは良くわかるよ」

「三笠さんにもロイエにお姉さんがいらっしゃるんですか?」

「ああ。まあ、正確には『いた』だけどな。だが優秀とは言っても実力は羽岡あおいとは雲泥の差だったし、かかってくるプレッシャーの大きさも全然違った。もし俺が羽岡さんの立場だったら、ロイエになんぞ絶対に入らなかっただろうな」


 確かに、私があずさと同じ立場だったら、もしかしたらロイエに入ることをもっと躊躇ったかもしれない。その重圧を払いのけたあの子は、私が思っている以上に凄いのかもしれない。あとで褒めてあげることにしよう、うん。


 しかしこういった話を聞いていると、あずさも凄いが、誰に聞いても例外なく話題に上がってくるあおいはやはりとんでもない能力を誇っていたのだということを改めて実感する。


 数多の噂話も耳にしてきたし、テレビ番組でも取り上げられるほどだから、彼女が尋常ならざるレベルであったことは以前からよく分かっていた。それでも、私は実際にあおいが戦っているのを見たわけじゃない。しかし、三笠さんは前線に出ていた訳ではないだろうが、それでも彼女の訓練の様子くらいは見ていたはずだ。彼ならあおいについて私の知らないことを知っているかもしれない、私はそう思ったのだ。


「あおいの実力は、三笠さんからはどんな風に見えていたんですか?」

「そんなもん言わずもがなだ。ありゃ正真正銘の化け物だ。あんな速さで動ける人間を俺は他に知らない……」


 三笠さんの表情は、そのままあおいの凄さを物語っているように思えた。


「羽岡あおいの所属は第三小隊の第七分隊。ポジションは前衛。武装は刀。話によれば、前回のエリア奪還作戦は彼女を中心に据えて練られていたとか」

「あ、あおいを中心にですか? いくら強くても、一人の隊員を中心にするなんて……」

「あくまで噂だがな。だが実際、作戦に投入されれば一人で八割方のエーテルを沈め、時には作戦開始から十分程度で作戦を完遂するという離れ業を成し遂げたほどだ」

「十分ですか? そんなこと、本当に可能なんでしょうか……?」


 エーテルの出現数にもよるだろうが、守さんたちから聞いている限りでは、どんなに早くとも、最低でも三十分は時間を要するとのことだが、それをほんの十分なんて、まさに人間業とは思えない。


「俺も直接見た訳じゃないから、もしかしたら話に尾ひれでもついてる可能性はあるが、実際早かったことは間違いない。そんな逸材を作戦の中心に持っていこうと思ってもなんら不思議じゃないだろ?」


 もしかしたら、上層部はあおいの戦闘力の高さに賭けたのかもしれない。百戦錬磨の少女の力をもってすれば多少無謀な作戦でも上手くいくかもしれないと、夢を見たのかもしれない。


 その時ふと、私の頭の中にあの頃のあおいの様子が想起された。あの笑顔であふれていたあおいが、最後の方はほとんど笑うこともなくなった。あおいは直接私に愚痴を言うことはほとんどなかったから、詳細までは当時は理解できていなかったが、今なら彼女の苦悩の正体がわかる気がする。


 いくら人類を救う為とはいえ、高校二年生の女の子に「人類の希望」としての役割を担わせる。それは信じられないくらい、残酷なことではないか……? この作戦を決めた人間は、彼女のことをいったいなんだと思っていたのだろうか……?


「……おい、小鳥遊さん?」

「……え?」

「どうしたんだ? 気分でも悪いのか?」

「あ、いや、なんでもないです! ちょっと考え事をしてしまって……」


 そんな言葉とは裏腹に、いつしか私の心はドス黒い感情に覆い尽くされそうになっていた。あおいは追い詰められて、あれだけ苦しい思いをさせられたのに、最期まで彼女が報われることはなかった。


 彼女は悲痛な思いを抱いたままあの戦いに参加し、そして、もう二度と私の元へ戻ってくることはなかった。最期の日の明け方まで、私の腕の中で震えていた彼女のことを思うと、はらわたが煮えくり返りそうになってしまう。


 ……ダメだ、冷静になれ。ここで三笠さんに怒りをぶつけたって何の解決にもならない。ここで他の隊の人に余計なことを言って、第三分隊のみんなに迷惑をかけていいわけがない。

 あの時は、きっと他に選択肢などなかったんだ。もし私が無関係な他人として戦うあおいの姿を見ていたら、きっと私は彼女に希望を抱いたに違いない。

 エーテルの攻撃が激化しどんどん隣人が死んでいくような世界では、皆何かに縋らなければ平静を保ってなどいられなかったんだ。仕方がなかったなんてことは絶対に言いたくはないけれど、私が誰かを責めることもまた違うのではないかと思えてならないのだった。


「すみません、ご心配おかけしました」

「いや、何でもないならいい。さて、そろそろ戻るか。なんか分かんないことがあったら遠慮なく言ってくれ。俺の経験値なら大概のことは答えられるからな」

「あ、ありがとうございます」


 ホントに、この人はそういう余計な一言さえなければ周りの目も変わるだろうに……。そう思いはしたが、冷静さを取り戻していた私は、もうそれを表情に出すことはなかった。そして私たちは、各々の分隊に戻っていったのだった。

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