CGD4-②
軍団長より作戦が発令された後、私は小隊長の執務室へと呼び出されていた。私が部屋に着くと、既に見慣れた一人の男と、初めて見るボブカットの女性の姿がそこにはあった。
「遅くなりました初さん」
「小鳥遊か。まだ大丈夫だ。集合時間にはまだ七分ある。3人とも十分優秀だ」
そう言って、初さんは車椅子を漕ぎながら私たちの方へとやって来た。この前この部屋に来た時にはデスク越しだったから分からなかったけど、初さんの両足は膝より先が完全に失われており、特に義足などをつけている様子も見られなかった。
「お前たちをここへ呼んだ理由は分かるな?」
初さんの問いに対し、件の三笠泰斗が答えた。
「もちろん、『エリア奪還作戦』の件ですよね?」
「ご名答だ三笠。無論、軍団長のあの宣言を聞いた後なのだから当然と言えば当然ではあるが」
初さんは改めて私たち3人に順番に視線を向ける。私も三笠さんも指揮官であることを考えると、向こうにいる女性もやはり指揮官なのだろう。
「今日お前たちをここへ呼んだのはほかでもない。本日付で発令された『第二次エリア奪還作戦』にお前たちの分隊が投入されることが正式に決まった」
やはりそうか。あの時初さんが私に期待していると言った以上、可能性はゼロではないと思っていたが、まさか指揮官就任から2週間も経過しない内にこんな大事な作戦に投入されるとは……。すると、私の隣で三笠さんが声を弾ませてこう言った。
「やはりそうですか! 確かにうちのメンバーは優秀な子が揃っていますし、順当と言えば順当ですね」
彼の表情からは心から本作戦への参加が決まったことへの喜びが感じられる。やはり、この作戦に投入されるということは非常に名誉なことなのだろう。私としても人類をエーテルから救う為の戦いに参加できることは目標でもあったし、あおいと同じ舞台に立てたという意味においても、この作戦に指名されたことは喜ばしいことであると思えた。
「これから一人ずつ辞令を渡す。そこに一列に並んでくれ」
「はい!」
初さんの言葉に従い、私たちは横一列に並んだ。ちなみに私たちが所属する第五小隊の中に分隊は八つあって、私が第三分隊所属、そして三笠さんが第四分隊所属であり、私が列の中心、三笠さんが私の右側、そして例のボブカットの女性が私の左側に立っていることからも、彼女の分隊が第一か、第二分隊であることが推察することができる。
「……」
女性は緊張しているのか、少し強張ったような表情で初さんのことを見つめている。
初さんが辞令を読み上げている間、その女性が硬い表情のままであったことが、なぜか私にはひどく印象的に思えたのだった。
辞令を受け取り部屋を出る。ちなみに先ほどの女性は第一分隊の指揮官で、名前は伊集院美也といったが、彼女は特に私たちと言葉を交わすでもなく、歩き出しそのままどこかに行ってしまった。すると三笠さんが、
「まさか新任でいきなりエリア奪還作戦に指名されるとはな。それだけ上層部の期待が高いってことだな」
と、若干おちょくるような口調で私にそう言った。恐らく先日のことを根に持っているのだろうが、あれは別に私が悪いわけでもないし、お門違いも甚だしいと言えるだろう。だが、そんなことで今の私はいちいち腹を立てたりしない。ここは学校じゃない。面倒な人間との付き合いなんてこれからいくらでもある。ここはやはり、大人な対応をとってしかるべきであろう。
「いえ、私じゃなくて凄いのは守さんたちです。私はあくまで新米ですし、経験値ではほかの指揮官の方には遠く及びませんよ」
これでもかと装った作り笑顔を三笠さんに向ける。もちろん凄いのは守さんたちであるという事実に偽りなどないのは当然ではあるが。
するとそんな私の対応が功を奏したのか、三笠さんは表情を崩して言った。
「まあそう謙遜しなさんな。君らの戦果は聞き及んでいるけど、指揮官の実力がなけりゃ戦果などあげられないからな」
フォローするような三笠さんの物言いに、この人は思っていたよりもまともな人なのかなと一瞬思う。しかしその矢先、
「能力はあっても戦場で最後に物を言うのは経験だ。経験を積み重ねないことには実力は身につかない。まあ小鳥遊さんも、俺みたいに経験豊富になればもっと自信もつくさ」
と言って、彼は実に楽しそうに笑ったのだ。
やはり彼が面倒な人物であることは間違いないようであった。
その後、彼は私とお昼ご飯でも食べないかと提案してきた。できることなら全力でお断りしたいところではあったが、ここで断って後々面倒なことになっても嫌なので、私はやむなく三笠泰斗と二人で食堂に向かうことにした。
私がハンバーグ定食を頼むと、三笠さんは「子供っぽいな」と実に余計なことを宣ったが、その後お会計で彼は「今日は俺のおごりで」と言ってくれたので、私のフラストレーションは相当量解消されるに至った。
「ありがとうございます。ごちそうになっちゃって」
「いいってことよ。俺の方が先輩だからな。入隊祝いってことにしといてくれ」
なんと言うか、彼は嫌味とかではなく、単に見栄っ張りなだけで、それほど害のある人間でもないような気が私はしていた。面倒臭いのだけ目を瞑れれば、話ができないこともないのではあるまいか。
私は作戦室へと戻る道中、隣を歩く三笠さんに尋ねた。
「三笠さんはいつロイエに入隊されたんですか?」
「二年前の今頃だな。当時は『第一次エリア奪還作戦』の真っ只中にいたんだが、俺はまだ経験不足もあって作戦には出られなかったんだ」
しかし作戦には出られなくても、当時の緊迫した雰囲気だけは嫌でも感じられたのだとか。日に日に仲間が死んでいき、人類のエリアを奪還するどころか逆に更に奪われていくその日々は、彼にとっても地獄のような日々であったと言う。
「末端ですらあんな有様だったんだ。前線にいた魔術師の恐怖は筆舌に尽くしがたいものがあったはずだ」
そんな経験をしたのなら、今回の作戦に参加することは怖くないのかと、私は尋ねた。すると彼はこう答えた。
「怖さがないかと言われたら嘘になるが、今回に関しては自信があるんだ。俺自身指揮官としての経験を積んだし、第四分隊の面子も粒ぞろいだ。俺たちが負けるはずねえ」
こういう時に彼のようなポジティブシンキングは功を奏すのかもしれない。無駄にネガティブな性格よりもこっちの方がよっぽど生き残る可能性が高そうだ。




