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ラストウィザード  作者: 森戸玲有
エピローグ
40/40


 青空と白い建物。

 緩やかな坂の下には、宝石よりも鮮やかな煌きを放っている海がある。

 サンセクトの町は一見今日も変わりはない。

 あの騒動は何だったのかと、ティルが思うほど表通りは活気に満ちていて、裏通りには貧しい人たちがひっそりと暮らしている。

 そうすぐに、町が変わるわけではない。

 だが、これからはウィラードも目を光らせるだろうし、それなりの生活が町の人全体に保証されることは間違いないだろう。

 ティルはいまだこの町に滞在していた。

 そろそろ出て行こうと思ってはいるが、なかなかそれが出来ない。

 昔、この町にアイリーンとウィラードと共に来たことがあった。それをいまだに懐かしんでいるのだろうか。

 分からない。

 ただ、ティルは今日も目的のない買い物に出るだけだった。


「お客様、その色はどうかと思いますよ」


 店員の声に、ティルは頷きを返す。ここは町一番の化粧品店で、今ではティル御用達の店となっていた。色とりどりの貝殻が並んでいる。ティルは桃色の貝殻を手にしていた。  

 中身は、真っ赤な口紅である。

 店員に指摘されるまでもなかった。似合わない。そんなことは知っていた。

 ……でも。

 ティルは結局、その口紅を買い、代金を若い女性店員に支払って店を出た。紙袋を抱き締めながら、ゆったりとした足取りで歩き出す。


 ――――その時だった。


「見つけたぞ。ティル=フォーレスト!」


 耳に馴染んだ、中性的な声が緩やかな坂道に一杯届いた。

 息を切らした全身黒ずくめの騎士。潮風に漆黒の髪をなびかせながら、一歩一歩こちらに近づいてくる。

 そして、ティルはこの瞬間をずっと待っていたことに、その時はじめて気が付いた。


「あんたはウィラードのもとに帰ったんじゃないのか。今頃正式採用になっているか、他の役職を押し付けられているものだと……、私はてっきりそう思ってたのに」

「俺が戻ってきたのは、陛下のご命令だ。イサと女将にも礼を言っておくように、仰せつかったしな。幸い、すぐに女将からお前の居場所を聞きだすことが出来て、手間が省けた。都に行くぞ、ティル。陛下はこの際、お前の性別は問わないとおっしゃっている。今一度きちんと会って、旧交を温めたいとの仰せなのだ」


 ティルは溜息をついた。


「その程度の命令で、追ってきたんだ」 

「せっかくの陛下の御心を蔑ろにするつもりか。さあ、今すぐ俺と一緒に来い」


 なぜ、ウィラードは彼女をひとりでここに寄越したのだろうか。

 いくら考えてもティルには分からなかった。

 ……しかし。


「それで、その命令をこなしたら、あんたは晴れて私から解放されるというわけだ」


 そうだ。

 ウィラードの本心など分かりもしないが、これがエリーとの接点には違いない。


「――――ああ。まあ。……そうだな。そういうことになるな」


 エリーもさすがに気付いていたらしい。わずかに心が揺らいでいるように感じるのは、ティルの思い違いだろうか。

 二人の間がしんと静まった。

 微妙に隔たりのある距離が現実の二人の距離のようでもあった。

 ティルはおもむろに後ろを向いた。良いことを思いついたのだ。

 突如、ティルは何も言わずに駆け出した。


「ティル! お、おいっ! ちょっと待て!」


 背後で響く彼女の声が心地良かった。

 長い髪が真横からやってくる風に大きく揺れる。


「絶対に逃がさないからな!」


 ……望むところだ。

 ティルは石畳の坂道を全力で疾走する。


「やっぱり嫌味に思うかなあ……」


 腕の中にある紙袋を抱えなおしながら、ティルはいつこれをエリーに渡すべきか、迷っていた。


【 了 】


ここまでお付き合い頂き、大変ありがとうございました!

途中、国名が違っていたり、文章が色々と問題があったりと、沢山ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません。


実は、この話こそ、私がちゃんと書いた初の長編でした。

ここに上げたどの話より、古い話です。

文章は、この話の以前から書いていたのですが、ちゃんとした体裁で書いてはいなかったと思います。

……それにしても、今と随分文章も違いますね。

多分、今ならこういうふうには、書かないと思えるフレーズと台詞が多々ありました。余りに違う点は、少し修正させて頂きましたが、ベースは当時とほぼ同じです。

一人で書き上げたものではなく、第三者の方の目が入ってて、それなりに時間もかけているので、他の過去の話に比べれば、危険度はマシな方かなって思っておりますが、誤字脱字等、ありましたら、適宜直していきたいと思います(もはや、お約束です。ごめんなさい)

思えば、この話が原点でした。

人様と協力して書いた話なので、ごく身内にしか見せたことがない話です。

今回、その方にお話しして、ここに出していくことを決めました。

涙が出るほど、懐かしかったです。

エリーが駆けている様は、当時の原稿を書きまくって、いつか一攫千金!とか夢見ていた自分を見ているようでした。

しかし、この話を読んで「少女的妄想趣味者~」を読み返すと、何とも言えない感慨を抱くのは、どうしてなんでしょうね。

同じ、風呂場でばったりでも、まったく違うようです。

一体、この××年の間に、私に何があったのでしょう。


書いている時、エリーとティルのカップリングと共に、ウィラードとアイリーンのカップリングの悲恋話を考えていた私です。

もちろん、エリーの女装で決闘シーンとかも、考えていました。

元婚約者との再会とティルとの謎の四角関係とか。諸々……。

こういう続きを考えられたりするのは、とても幸せなことですね。

そして、こんなふうにそれをどなたかと共有できるなんて、こんな有難いことはないと思います。


いつも、楽しく、話をあげさせて頂き、感謝いたします。

長編ばかりを駆け足で上げていて、本当にお付き合い頂いている方には、申し訳ない限りなのですが(他の話をちゃんと修正してから出せ……と思います。はい)


手持無沙汰の時でも、ちょっとした待ち時間にでも、ここに来ればなんかあるってことで、ふらっと立ち寄って頂けたら嬉しいです。

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