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“夏の虫”

“夏の虫”


“ぉい、ちょっと付き合え”

ぇ……。な、なに、初っ端っからこの展開……って。Jさん、勝負つける気になったのだろうか……?心の準備が……ま、まだ。

“な、なんでしょう?”

“ぇえ?なんの話?俺らに云えない話なんっすか?”

そんな、NTさんの話を余所に、Jさんは先に歩き出す。皆の位置からは見えるが……声があまり聞き取れないくらい距離のあるところまで僕は誘導された。

“お前さ、”

“?”

――――――――

“ところでさ。皆、老後のこととかどう考えているの?”

“な、なに?いきなりNさん、今この状況で老後っていわれても”

“え。何も無いよな、俺らただ遊びにいってメシ喰ってきただけじゃね?”

“私は眠らせていただきましたがね”

“ねねね、その老後の話のあとでいいんだけどさ、関係ない話だけど聞いてよ”

“俺は老後なんて決めてないっつか、精々今の仕事しながら金貯めてホームに入るかなって”

“Nさんそれって、結婚した老後も視野に入ってのこと?”

“俺結婚しないんじゃないかな……想像つかんわ。したくない、ってんじゃなくさ”

“う~ん、判る気がする……その上、J氏の話きかされたあとじゃ尚更”

“俺がどうしたって?”

“話、すんだの?……まさか、俺らに云えない話ってプロポーズでもした?”

“はっはっは、妬くな!”

“されてないです、ちょ、Jさん、なんてことを;”

あー、本当に相変わらずこの人は。まったく、放置しておくと何を云いだすかわかりゃしない。

“?なに?されていない、という反応はなにか?もしか、期待くらいはしていたと、お、俺は受取るぞ”

“は、はぁ???”

“相変わらず、仲のよろしいことで;妬けます妬けます”

“じゃ、老後の心配はいらないっすね、J氏”

“俺もホームに入るつもりだから”

“ぇ?俺らが入る頃にホームが存在していると思っているの?”

“な、なにそれ?また、いつもの陰謀説?”

“ないなら、造ればいいんじゃないの?”

“ど、どうかな;ただ、若者が居なくなる=ホームだけの存在ってことじゃん”

“ホームってより、各々の共同生活ってのなら有りかもしれない、ってこと?”

“そそ。誰も好き好んでやらないんじゃないかな。中にはいないこともないだろうけどさ、そういう特別な人は特別な偉い人のところで高級扱いだと思う”

云われてみれば、そうかもしれない。人でなきゃ出来ない人へのサービスって限られてくる。空世なんかは僕らと違うだろうから全然機械dも可能だろうけれど……普通世はどこまで機械を信頼できるのだろう。ましてや、誤作動が起きない保障など、どこに信頼に値するものが存在するのだろう?その、空世の普通世からの移住組でさえ、そんな介護の必要性があれば出戻ったりしているという話をきいた事がある。

“私は今のところで暮らして余生を過ごしたいかねぇ”

“で、あれ?なんでそんな話なんだっけ”

“Nさんがいきなり話始めたからさ”

“あれ、で、関係ない話ってなんなん?NTさんの”

“あー。う~ん、腹いっぱいだとさ、細かいこと色々考えなくなるじゃないですか。逆に云えば、考えなくさせるのには……食事をさせることだと思うんですよね”

“ま、まぁ、一理あるかな。説によれば束の間の幸せに浸れるらしいし、な”

“で?”

“ぁあ。ここじゃ除菌ウエットが手に入らないから私は幸せにはなれない”

それを聞いた、というより聞かされた;マスターの野太い声がKKさんのその声に反応した。

“あるよ、そこの扉開けて勝手につかいな”

云い終わらないうちにシンク下の扉の取っ手を引っ張り中を探り始めた。どうやら、そこが彼の除菌ウエットの定位置らしい。流石です、マスター。そういえば、KKさんは他にも何かを切らしたと云っていた気がする。それが何だったのかはもう遠い昔過ぎて、要領の狭い僕の脳では記憶出来なさ過ぎて憶えていないけれど。

“で。何故、あのとき、あの屋敷の主であるソーさんは俺らに食わせたんだろう?と疑問に思ったわけ”

“ぇ?俺らが腹が減っては戦ができぬ、とか何とか云ったからじゃね?”

“それはそうだとしても、それだけかね”

“なにか……引っ掛かるんですか?”

……そう、それは彼の考える理由とは違えど僕もそう感じていた。違和感が払拭できずにいたんだ。

“俺らを引き止めた、ってのが本当の理由じゃね?”

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