06
中身は、短編と比べて色々と変わっています。今回で最終話となります。ご迷惑をおかけいたしました。
初めて体育館に呼び出しされた時、美少女が待っていた。
栗色のユルり波打つ腰までの髪に、思わず「あ、この間林檎が話してた人だ」と心の中でそっと呟き、そして生暖かい目で彼女を見た。彼女の背後には私を睨み付ける女生徒の大群。林檎がこの場に居たらきっと「来た!私の時代来た!」と言っていた所だろう。なので私は、彼女が何か言う前に、その場で膝を折り、地面に手と額を付けて、土下座した。
「お願いです。私の彼を誘惑して私と彼を引き離させてください」
と。プライド?誇り?何それ諭吉さんと関係あるんですか?
彼女はどん引きした後数分間私を見下ろし、そして言った。
「ふ、ふんっ!いいわ。あんたみたいなブスなんかよりこの美少女の私の方が彼に相応しいものね!」
皮肉るのはどうでもいいのでさっささと誘惑してきてください。それから自分で美少女とか言うのはどん引きするんで言うの辞めてもらっていいかな。
とかそんなやりとりをして、家に帰ると当たり前のように一夜が居て、家族団欒をしていた。ふ、ふんっ!寂しくなんかないんだからね!これも今日までだもんっ!強がりじゃないし!
そして次の日の昼休み、彼女は私のクラスまで来て、私の黒く染まった机にツッと指を這わせたかと思えば、
「あなたって愛されているのね」
と儚い微笑を浮かべて、たったそれだけを言って帰っていきました。その後のクラスの男子のアホ共が一様に「やっべぇ!!!さっきのめっちゃ可愛かった!!」「お、俺、明日告ってみよう!」と騒いでいた。その中に我が親友である林檎が混ざっていたのは気にしない事にした。あれはもう手遅れだ。
それからすぐに一夜がやってきて。物凄い笑顔で私を引き摺って、えぇ。比喩とかではなく文字通りに引き摺って一夜のバカデカい家の地下室にポイっとまるでゴミでも捨てるように部屋に入った私は、見事な開脚前転で着地をした。余談だが一夜は金持ちのボンである。
「私すっげぇー!」
今の今まで開脚前転ができなかった私はスカートだという事も忘れて悦に入っていた。私も相当なアホだった。
「いつもM字開脚してるから股関節が柔らかくなったんじゃない?」
「……………」
心中察してください。
「ところで一体今日のは何?」
「今日のは、と言いますと?」
心当たりがありすぎて困る。果たして彼は一体何の事を言っているのだろうか。一夜が制限したお菓子の量よりも少し多めに食べた事だろうか。それとも男子と一緒に腹踊りしたのがいけなかったのか。いや、してないけど。女子高生がそんな事してたら大問題だろう。
それとも、
「あの女子の大群」
「…………大群…」
団体で行ったんかい。
私はそっちに驚いた。
「なんかその女共が口を揃えて音の口から俺を誘惑しろって言ってたんだけど?」
彼の目に並々ならぬ殺気が込められた。
「あの、すいません。お仕置きはぜひ、監禁二週間でお咎めください」
「何言ってんの。婚姻届出したから、このまま家に住めよ。大丈夫。絶対に家から出してやらないから」
にっこりと笑った彼の口からは、表面上からでは全く想像も付かない言葉。でも、私は聞きなれているから今更。ていうか、今まだ昼休みのはずだよね。
「今夜どころか明日も離してやれそうにないな」
「ニッタリ笑って言う事が不吉…。ていうか、結婚?よく親は納得したね」
「今更だろ。音の親と俺仲良しだし」
そういえば。一夜とうちの両親は最近旅行に行く計画を愛娘を差し置いて、一夜と一緒に話し合っている。
その前に、だ。一夜も私も十八の高校生だといのに、普通なら親が許可しないんじゃないか?と、今度は一夜の両親に期待をした。
「音の親なら、『娘をよろしくお願いします』って頭下げてきた。俺の親は『まぁ音ちゃんなら問題ないだろう。むしろ変な子、いや音ちゃんも十分変な子だけど、権力に群がる女共よりはいいだろう』って言ってた」
「へ、変な子!?私って一夜の親公認の変な子なの!!?」
「気づかない方がおかしいだろ。とにかく高校卒業したら子が孕むまで頑張ってセックスしないとね」
今から楽しみでならない子供のように無邪気に笑う一夜に、絶望しか生まれなかった。
「それと、今日は制限以上のお菓子、食べてたみたいだから、その分運動しないと」
バッチリそっちもバレていた。
その日から二週間、私は一夜の家から出してもらえなかった。泣いて縋っても一夜は喜ぶだけだった。
「学校はどうしたんだ」そう一夜に問えば、「俺、先生達からも信頼されてるから」という素晴らしいセリフをいただいた。つまり、「一夜は頑張っているし、家の都合なら仕方ないよね」という事で二週間の長期間の休みをいただいたわけだ。
私?一夜に私の事を尋ねると、ニコリと笑うだけだったのだが、二週間ぶりの久々の登校で、驚愕した。
「あ、音ちゃーん。食あたり起こして入院とか、流石音ちゃん。近い未来いつかやると思ってたよ!」
という親友の言葉で、なるほど。と頷いた。確かに私はがめつい。食にもがめつければ、金にもがめつい。
つまり、その嘘を誰一人として疑う事なく、信じたという訳だ!
「私は、これほど人を信用できないと思った事はなあーい!!!」
がーっと叫んでいると、肩をポンと叩かれた。
「小野木、事情はなんとなくわかってる。ほら、これやる」
そう言って渡された物は、胃腸薬のドリンクとスッポンの生血ドリンクだった。
あまりに笑えなくて、教室の隅で泣こうとした所に、一夜登場で、男子トイレに清掃中の看板を立てて、個室に連れ込まれて、朝食にされた。
朝食=もちのろんの音です