序・残業終わりの鳥晩餐
少しだけ昔の、街の片隅から。
何やら大人気ご家庭用の据え置き型ゲーム機もいよいよ5回目の更新という発表がメーカーから有った、今から少しばかり前の話。
俺は仕事終わりに適当にお惣菜を買い込むと、週末の楽しみを思ってニヤつきを押さえ切れないまま家路を急ぐ。
仕事からの帰り道なので、仕事の事なんか考えない。
しかも週末だ。
いつも以上にゲームに没頭できる、駄目な大人を心ゆくまで満喫できる、そういう事なのだ。
……は? 彼女?
居ませんが、何か!?
そんな存在が居たらアレだ、ゲームなんぞに引きこもる休日なんぞ選ぶ訳がない、そうだろう? 泣いてねえよ?
そんな訳で、帰りにスーパーで買ったお惣菜と飲み物を意気揚々と振り回し――きっと後で後悔するだろう――土手の上の遊歩道をふらりと歩く。
そんな時間も自宅が近づけば終わる訳で。
突然の鉄砲水や謎の堤防決壊等が有るわけもなく、居眠り運転のトラックが入ってこれる場所でもないので、何の問題もなく自宅……っていうか自室に辿り着き、狭い玄関――室内保管の自転車のせい――へと身体を滑り込ませるのだった。
ご飯だけは出勤前に炊いて出る。タイマー機能は偉大だ。
お惣菜を、もう面倒なのでトレイのまま食卓代わりのPCデスクに並べる。
キーボードは収納してあり、邪魔にはならない。
余談だけど、トレイって字面、ぱっと見でトイレに見えちゃうよね?
俺だけっすか、そっすね。
一応、彼女が居た時分には、1人の食事の時にも、お惣菜であってもちゃんとお皿に並べ、なんか人並みに食事気分を高めて食事してたモノなのだが。
独り身となると、もう本気でどうでも良いのだ。
……理解ってる。
そんな事だから振られるし、それ以降浮いた話のひとつも無いのだ。
考えるとどんどん悲しくなってしまう。
だ、大丈夫だ、まだ俺は27歳。
まだ余裕はある、ある筈なんだ。
焦る必要は無い。
ゲームを始める前に現実逃避を開始し、PCで適当に動画を見ながらのご飯で逃避を加速させる。
何か見ながらご飯というのもあまり行儀は宜しくないが、ゲームしながらご飯、よりはマシという……言い訳だって完備している。
ちなみに、ゲーム中のポテチは食事では無い。それは救済である。
まあ、ごちゃごちゃ考えている風で実は何も考えていない、そんないつものムーブでご飯のお供動画をチョイス。
お好みはゲーム実況系か、MV系。
いつもの飯時にはこの辺を眺めながらご飯をかっこんで居るわけで、今日だってそれは変わらない。
特に理由もないが、今日のチョイスはネット発歌姫の人気曲のカバー、ただし海外勢。
一昔前(大げさな表記)に比べると海外の歌い手も選別された感があり(謎に偉そう)、安心して見られるのだ(何様)。
……俺の一人称の筈なんだが、なんで俺に対して刺々しいんだろう。
それはさておき、今日の動画も決定。
食事時にいちいち再生操作をしたくない、オススメのたまにスカタンなチョイスも時には味になる。
食事を飾る環境もまた、スパイスなのだ。
お惣菜なのにって?
俺じゃ手の込んだ物は作れないから、こういうのも十二分にご馳走の範疇だ。
手が込んでいなければ、なにか作れるのかって?
焼くのと炒めるの。あ、魚介系は無理。
カレーとシチューは市販のルーが有れば作れる、というかあれは誰でもいけるだろう。
要するにまあ、その程度の自炊能力と言う訳だ。
……イカン、我が事ながら、情けなくて泣けてきた。
よし、気分を変えてご飯だ! いい加減ハラが減った!
今日は豪勢に唐揚げにチキン南蛮、グリル焼き風チキン。
……鶏肉ばっかだな。
好きで買ったんだけどさ。
こうして並べてみると……こう……自分の浅はか……愚か……。
うん、勢いだけで生きてるって感じがして心配だね!
あ、ちゃんとサラダも有ります。
はい、バンバンジーサラダ……! なんで今日に限って売れ残ってたかな……。
見掛けたら買っちゃうでしょうが!
い、いつもはシーザーサラダなんだからね⁉
期せずして鳥三昧を堪能し、いっそ焼き鳥でも買ってこようかと壁の時計を見上げると時刻はもう22時30分。
21時までの残業を終えて、帰宅して一息つくと大体いつもこんな時間だ。
まあ、それも今週は終了、週明けまではお休みさんだから、今はとても広い心で構えて居られる。
それは良いが、この時間ではご近所の焼き鳥屋さんも今日は店仕舞いしている。
あと20分も早ければ、閉店作業中の大将が「なんだ、またこんな時間を狙って来やがって」とか言いながら残り物をそこそこお安く売ってくれるのだが、今日は流石にもう遅すぎる。
あ、一応言い訳するけど、休日とかにはちゃんと営業時間中に、ちゃんと表示の販売価格+税で買ってるからね?
ご近所に旨い焼き鳥屋さんが有るって幸せよね。
あの店、唐揚げも有ってしかも美味いんだ。
……明日の昼は、焼鳥と唐揚げにしようかな。
翌日も鳥かよ、ってな事を考えながらの食事も終わり、此処からはそう、ゲームのお時間である。
今日も、仕事のアレコレで軋んだ心に潤滑油を。
この週末こそ、念願の深階層、具体的には階層100到達の悲願を!
かれこれ1年そこそこのプレイ時間で、色々試して漸くたどり着いた階層97。
挑むのはソロ。
いざ。
国民的どころか、世界で大人気のゲーム機を立ち上げ、ゲーム用のモニターに光が入ったその刹那。
室内は暗転し、俺は意識を唐突に刈り取られた。
――それが、俺と「異世界」との……まあ、そんなものとの出会いになるとは、この時はまだ知る由もなかったのだ。
日常の終わりは睡眠か、それとも?
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