第33『僕・坂木透太による犯人隠避/エピローグ』
春が過ぎて、梅雨の季節がやって来た。
あれこれと事件が相次いだのでもう一年くらい経ったような感覚でいたが、まだ僕の高校生活は始まったばかりだ。
本当に濃密な春だった。
中学までの僕は、ヤバい子の奇行をただ黙認してきた。詭弁や手管を弄して煙に巻くことすらせず、ただぼんやりと見過ごしていた。
その在り方を少し変えただけで、日々の流れ方はこれだけ違うのだ。自分がいかに楽をしていたか思い知る。
といっても――僕の現状は未だ誠実とは程遠いけれど。
(さて、どうしたものか……)
今日もまた、長い一日になりそうだった。
僕が「モテなくてストーカーをでっち上げた」という悲しい顛末が事実として採用されたため、この日は和原さん・織川さん・小宮山さんの三人と一緒に、隣町の大きなショッピングセンターで「モテるための女子慣れ訓練」をすることになっていた。
もちろん何かしらの企みはあるのだろうと覚悟していたが――最初の事件は彼女たちも想定していない形で発生した。
ショッピングセンターに向かう電車の中。乗り合わせていた地元の中学生らしい女の子が、別に混んでいるわけでもないのに僕のそばへと近づいてきて――背後からこわごわと尻を撫でてきたのだ。
同乗していた和原さんたちは予想外の闖入者にフリーズしていた。まさか僕の誘因力がここまでとは思わなかったのだろう。
(昔の僕なら好きなだけ触らせてあげたところだけど……)
それはダメだ。こんな癖をスクスク成長させてしまったらこの子の未来が危うい。もちろんスリみたいな他の犯罪として誤魔化すのも論外。ならば――
「気を遣ってくれてありがとう」
僕はそう言って背後を振り返る。
そこにいた幼げを残す中学生の女の子は、はっと我に返ったような顔で震え始めた。
「ご、ごご、ごめんなさ……」
「いや、悪いのはこっちの方だよ。僕も今気づいたんだけど、お尻の破れた古ズボンをうっかり履いてきちゃったみたいだ。手で隠してくれたんだよね。分かってるよ」
「え……?」
僕はそう言いながらポケットを漁る。ショッピングセンターで何があってもいいように小道具はあれこれ忍ばせてきた。手指の感触でミニサイズのマイナスドライバーをつまみ上げる。
本当に相手のことを想うなら、もっと別の誠実な道があるのかもしれない。ただ、僕にはまだその道を歩ける自信がない。だからもう少しの間だけ、こんなやり方でいくのを許して欲しい。誰にともなくそう詫びる。
後ろ手に握ったマイナスドライバーで、僕はズボンの尻を躊躇いなく引き裂いた。
これにて本作『僕の検尿が盗まれた』は完結となります!
楽しんでいただけましたら、☆評価・感想・レビューなどで応援いただけると嬉しいです!




