天使と父と母
暗い。暗い。暗い。
明るい。
視界は、ぼやけて何も見えない。
ぼーっと遠くで聞こえる笛の汽笛のような音がする。
ちょっと高い汽笛と低い汽笛。
視界は、ぼやけて何も見えない。
眠たい。
〜1年後〜
「はーい、よいしょよいしょよいしょ」
俺は今、バンザイをし、無理やり歩かされている。
「よいしょ、よいしょ、よいしょ!」
「あーうーー、きゃーーーー」
俺は話せなくなっていた。いや、違う。これから話すようになるのだ。
俺はまだ、赤ちゃんなのだ。
「どーーしましょう、もう足を自分で動かそうしてるぅ!」
母である。とてつもなく明るい母である。
銀色のロングヘアー、すらっとしている。出るとこ出てて締まるところ締まってるといった、セクシーねぇちゃんである。
しかし、ギャルっぽさはなく、品性を感じる。
素晴らしい。
そんな母は、俺をバンザイさせ歩かせている。
「よいしょ。よいしょ。よいしょ」
「ちょ、ちょっと、体に負担にならないか?」
「大丈夫よ、半分は魔族の血が入っているのよ。目からビームだって出てもおかしくないんだから。」
「そ。そ、そうなのかぁ。」
気の弱そうな男だ。
男は、品の良さそうな格好をしてる。似合っていない。
似合っていないジャケットときて似合っていないマントを羽織って、猫背でいる。
どことなく、対人恐怖症のようなもの感じる。
彼の目がそれを物語っている。
男は俺の父である。
良くもこんなに綺麗な嫁さんを見つけたもんだ。
父の顔つきは、日本人の感覚で見れば、イケメンの部類だろう。
声も低く、落ち着いて話せば大手企業の人事部長みたいな感じにも見える。
しかし、あまりにもコミュ障チックな立ち居振る舞いだ。
花瓶を触るにしても、指で突っついた後に手で入念に触ってから持ち上げている。
その様子を見ていると、こっちまでその花瓶が超危険物質に見えてくる。
花瓶が爆発しそうなくらいに。
「子供の上に落ちたら、危ないから僕の部屋に持って行くよ、もう歩いてるんだし。」
いやいや、俺はまだ歩けない。
母に歩かされているんだ!
「あーーーうーーーー、うううう」
「んぅぅぅぅん!どうしたのワルちゃん?可愛いいいいい」
俺の名前は、ワルキューレ。
男ですよ。父、母。
もう少し成長したら、名前の由来を聞こう。このキラキラネームの真相を!
父が部屋を出て行こうとする。花瓶を持っているので、扉を開けられない。
パニックになる父。
「ど。どうしてだ!どうしてなんだ。」
知らん。
「もう、」
母が、指を動かす。扉が開く。
「ありがとう」
父の安堵のスマイル。
「開けたままでいいわ〜」
「ありがとう」
父が出ていく。
「ワルちゃん、ちゃんとお父さんのこと見ているのよ。学ぶことはたくさんあるわ。」
母な真剣な顔だ。
きっとこんなに美人な母を射止めた父だ。何かきっとあるのだろう。
父の勇猛果敢な姿を見るその日に向け、精進しよう。
「ど。どうしてだ!どうしてなんだぁ!!」
遠くで聞こえる。
自分の部屋の扉が開けられないらしい。




