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結局こっちでも、派遣会社やってます  作者: 明日やります
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派遣会社の憂鬱

今、俺の目の前には、一人の労働審判官と二人の労働審判員がいる。

そして、俺の隣には会社の上司と法務担当者がいる。


いわゆる労働審判というやつだ。


労働審判は、労働者の解雇や賃金不払いなど労働問題を裁判ではなく、調停という形で解決を試みる制度だ。

労働審判での協議は最大3回までと決まっているので、通常の裁判よりも迅速な解決、結論を導き出せる。もちろん、内容に納得がいかなければ、訴訟に踏み切っても構わない。。。


と、俺の心の声をかき消すように迫力のある女性の声が響く。


「あんたたちは、人の心がないの!」

「あんたたちのせいで日本の経済が破綻しているのよ」「派遣会社なんて百害あって一理なしだわ!」


彼女は、うちの派遣会社で働いていた元・派遣社員だ。

去年から続く、世界的ウィルスの蔓延により彼女の派遣先であったアパレルショップが人員の削除に踏み切ったのだ。

まずは派遣社員、次にアルバイト、次に契約社員と、非正規雇用従業員から契約を終了していった。

もちろん、俺も必死に出勤日数の調整や企業へ請求額を下げたり一生懸命雇用を守ろうとしたが、結局雇用を守ることは出来なかった。


しかし、それは派遣社員の宿命である。


派遣社員は、人手不足をローコストに補う社員のインフラ的役割を果たしている。

今の日本では、仕事にありつけなかった時のセーフティーが限られている。


まぁ、社会情勢はこの辺にして、話を戻すとこの元・派遣社員の方はこちらの努力不足で就業ができなくなったと、地方裁判所に訴え出たわけだ。

こちらも、派遣先との契約が終了になった後も次の就業先を提案したが本人が拒絶した。


「あたしはこのブランド好きじゃないからできないわ。」

「もっと、給料のいいところないの?」


などなど。


ここで今回の争点のひとつになっているのが、”自己都合退職”なのか”会社都合退職”なのかだ。

”会社都合退職”であれば、待機期間なくいわゆる”失業保険”を受け取れる。

しかし、”自己都合退職”になると、待機期間が発生し”失業保険”を受け取れるのは約2ヶ月以上先だ。


うんうん。そうすると今回のケースは”会社都合退職”だな。よし!

と、いかないのが世の常で。

今回は、派遣会社側から再就業先を提示されたのにも関わらず”自己都合”で”拒否”したわけだ。


もうお察しかと思うが、これは”自己都合退職”扱いになる。

これが、派遣会社の努力不足だ!と訴訟になるわけだ。


「えー、弊社では再就業先は提示したのにも関わらず、拒否したのは訴えを起こされました川崎明美(かわさき あけみ)氏、当人であり、弊社ではこの世界的パンデミック禍で派遣先も少ない中、派遣先探しに苦慮しました。担当営業であったここにいる矢口(やぐち) (わたる)氏も大変だったでしょう。」

「弊社としましては、現行の労働者派遣法にのっとり、適当な方法で川﨑氏と契約満了したと認識しており、その過程において一切の違法性はなかったと認識しております」


「あんた!なにわけのわからないことを言っているの!有給休暇だって」


今月に入って労働審判や不当解雇訴訟は、もう5回目だ。

あちらこちらから、元・派遣社員のに労働審判や裁判を起こされ、罵声を浴びている。


なんで世間はニュースにしてくれないのだろう。


今日も俺は、裁判所にいるだけで何も話さない。

役員に話さないよう釘を刺された。


派遣会社の営業は思ったよりも大変だ。


「では、本日の審判はここまでで、次回の日程を決めたいと思います。次回が最終日となりますので双方スムーズな進行ができるように準備をお願いいたします。」


「ふー」


ようやく終わった。


裁判所というところは人の恨み、妬み、嫉み、悪い念の集まるところだ。

お世辞にも居心地がいいとは言えない。


「矢口くんお疲れ様。今日は直帰かい?」

「いえ、一度会社に戻ります。」


今は、夕方の5時半だ。


「労働審判をしていると通常の業務が溜まって遅れが出るので、その日のうちに処理できるものは処理しないと。」

「そうかい、まぁこんなご時世だ、いちいち気にするんじゃないよ。ほら深呼吸だ。」


「「スーーーはーーー」」





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