王の祝福
「………」
静まりかえった室内でシアは緊張する自分を落ち着かせようと何度も深呼吸をする。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
アステリア様は緊張など微塵もしていないようで、椅子に深く腰掛けて寛いでいる。
「お前は少し神妙にしろ」
父はそんなアステリア様に苦言を呈する。
ここは王宮の一室。シアが緊張しているのも、父が殊勝にしているのもそのためだった。
ただ一人、アステリア様だけは家にいるときと変わらぬ様子でいる。
「だいたいお前は―――」
父がさらに注意をしようとしたときに従者から入室が告げられる。
「呼び立ててすまなかった」
まず部屋に入ってきたのはグレイ様。そしてその後ろから壮年の男性が入ってくる。王冠などは着けてないが、この方が国王陛下だとシアは確信する。
威厳に満ちているというよりは穏やかに人を包み込むような優しさを感じた。
「国王陛下よ」
アステリア様がシアに耳打ちする。
「そちらがシア殿かな? なるほど、かわいいお嬢さんだ」
自分に目が向いて、シアは慌てて頭を下げる。ちらりと見えた微笑みに少し緊張が解けた。
「まずは謝らなければな。 この度はグレイが迷惑を掛けた」
父に向かって国王は謝罪の言葉を述べた。慌てる父にグレイも頭を下げる。
「臣下にそのような…」
国王の謝罪に父はしどろもどろになっている。会議などでもいつもこのような感じなんだろうか。娘二人は密かにそう思った。
グレイからすべて話を聞いた国王は短く、一言だけシアに言った。
「これからもグレイを頼む」
その一言にシアは思わずグレイ様を見た。そこに浮かぶ微笑みに、シアの瞳が潤んでいく。
ふたりの様子を見守って、国王は鷹揚に微笑んだ。
「カロル卿には色々不満もあるだろうが、承知してやってほしい。
流れている噂については―――」
「噂のことは僕がなんとかしますよ」
突如声が割り込んできた。
声の方を見ると一人の少年がいる。
父、陛下、グレイ様。三人は侵入者を見て驚いている。少年のことを知らないシアは首を傾げ、アステリア様は状況を楽しむように薄く笑っている。
「兄上のためなら噂の一つや二つ消してみせますよ」
「ブラン…。お前、いつから隠れていた」
グレイ様が低い声で問う。少年はまったく臆するようすもなく、朗らかに答えた。
「最初からですよ、兄上の婚約者が見えるというのに呼んでくださらないものですから、勝手に見物していました」
グレイ様が兄上と呼ばれたのを聞き、シアもその正体を知る。
「お初にお目にかかります、シア嬢。兄上を伴侶として選ぶなんて貴女はなかなか見る目がありますよ」
ありがとうございますと答えるのもおかしな気がする。シアが言葉に困っているのを見てグレイ様が割って入る。
「ブラン…。聞きたいことがある……」
「兄上の噂なら流したのは僕ですよ」
「「「「………!」」」」
ブラン様とアステリア様を除く全員が驚いていた。
アステリア様を見てシアはひとつの推測を口にしようとした。
「お姉様……」
「ブランにシアとグレイ様のことを教えたのは私よ」
王子を呼び捨てにしてアステリアは笑ってみせる。
謀を成功させて笑うふたりを見て周りの者はあらかた事情を飲み込んだ。父を除いて。
「ど、どういうことだ…?」
混乱する父に王子とアステリア様は容赦なく事実をぶつけていく。
「未来の伴侶の妹と兄上の手助けをしただけですよ」
「これだけ派手に噂が流れたら、お父様も無視出来ないでしょう?」
「お姉様…。 その辺で止めたほうが…」
父の顔が青くなって、また赤くなってきた。ものすごく身体に悪そうだ。
見かねた国王がその場を収めた。
「カロル卿、少し休みなさい。 顔色が悪い」
陛下が父を伴って出ていくのを見送って、部屋の中はさらなる喧騒に包まれた。
「何を考えているんだ!」
「お姉様、さすがに無茶だったと思いますよ…」
グレイ様、シア、二人の抗議にもブラン様とアステリア様は涼しい顔をしている。
「こうでもしなければ、兄上の縁談は早々に決まっていたかもしれませんよ」
「そうよ。シアが身を引かざるを得ない相手が選ばれたかもしれないでしょう」
結局、グレイ様とシアのためにやったことだと説き伏せられてしまった。




