表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/29

街への到達、そして・・・・・・・

トモがやっと街に着きます。

ぼくと真帆ちゃんを乗せたまま、コウタローはひたすら走り続けた。


さすがに追手の姿が見えなくなってからは若干速度が落ちたが、ぼくが降りようとするとそれが分かっているかのようにまたスピードを上げた。コウタローは決してぼくが戻ることを許さなかった。最終的にぼくたちを背に乗せたまま街の入り口まで走り抜け、門の前で力尽きたように膝をついた。


逃げ始めてから街につくまで半日というところだろうか。雨は上がり、既に日が昇り始めていた。


この街は村よりは都会的な様子ではあるが、所詮は田舎町の類であり、立派な門や門番というのはいないようだった。ただ、一応モンスターに備えてか、街の入り口には見張り番のような者が一人立っていた。ひょろりとした小柄な老人で、腰に差した木製の棒のようなもの以外は武装らしい武装もない様子だけど。


「ああ、おはよう。ずいぶん早いな、坊やたち」


見張りの老人がぼくたちに近寄り、人のよさそうな笑顔で声をかけてくる。ぼくはコウタローの背から降りてちょっと頭を下げた後、真帆ちゃんに肩を貸した。


「見たことのない顔だが、村からのお使いかい?感心だね」


老人が牛馬の背から降りる真帆ちゃんの萎えた足に気づき、少し同情するような目を向ける。真帆ちゃんはそれを気にもせず、ぼくの肩のあたりを強く握りしめながら訴えた。


「あの、ここに来る途中、盗賊が出たんです……」


真帆ちゃんの青ざめた顔色にただならぬものを感じたか、老人が息をのむ。


「わたしの家族がつかまっています。殺されるかもしれません。助けてください」


ぼくたちは街のことはほとんど分からない。元の世界なら警察に行くところだが、この世界ではそういったものが存在するのかどうかも不明だ。少なくとも村にはそういう組織はなかった。だからぼくたちは、ひとまずこの気のよさそうな老人に今までの経緯を簡潔に説明し、どうしたらよいかを相談することにした。透さんがぼくたちを逃がそうとして捕まったことを話すと、老人は親身になって心配してくれた。


「この街には兵士などはおらんが、自警団ならある。街の近くだということだから、すぐに連絡を回し、人を集めてもらおう」

「出発できるまでどのくらいかかりますか」

「……連絡を取って装備をととのえて、早くても半日ぐらいはかかるか」

「今も捕まっている人がいるんです。すぐにでも助けに行きたい」


老人は申し訳なさそうな顔で、首を振る。そして、期待はあまりできないが、と前置きして続ける。


「酒場に行けば、中には金次第で荒事を受けてくれるような者もおるやもしれん」


老人によれば、街の酒場は流れものや荒くれ者なども多く集まる場所であり、酒場の主人はそういった者たちに関わる情報のやりとりや仕事の仲介をすることがあるのだという。街の古株だという酒場の主人に相談すれば、金次第では賊の退治をしてくれる者を紹介してくれるかもしれないとのことだった。


「分かりました、酒場にも行ってみます」


ぼくたちは老人に自警団への仲介を頼んだ上で、酒場の場所を教えてもらい、その場所へ向かった。




……結論から言えば、ぼくたちの依頼を受けてくれるような人は酒場では見つからなかった。


老人の話通り酒場には早い時間にも関わらず酔っ払いに混じって腕に覚えのありそうな男たちが何人かいたのだが、話を聞いても賊退治をしてくれようという人はいなかったのだ。ぼくたちの手持ちでは提示できる報酬が少なく、またその賊には賞金などもかけられていない為だった。


気の毒ではあるが、そういう不幸話は世の中にいくらでも転がっている。いちいち同情して慈善事業などしてやれない、と言うのはそのうちの一人の返答だ。ぼくたちがいくら熱心に訴えても、彼らはしょせんはあかの他人にすぎなかった。


自警団への相談もあまりよい結果ではなかった。見張りの老人の紹介で自警団のリーダー格の人に会ってはもらえたが、がっしりした体つきのその男はやや横柄な態度でぼくたちの話を聞き、途中まで話を聞いた時点で協力を渋り出した。


彼曰く、賊が出た場所というのは街から遠く、規模も小さい。放っておいても大した被害はなく、街の責任で対処するほどの問題ではないということだった。最終的には老人がとりなしてくれたが、今は別の仕事で人が出ているとのことで出発は結局明日の朝まで見送ることになってしまった。




「………くそ…っ」


しみだらけのシーツがかかった硬いベッドの上に、腹立ち紛れにどさりと荷物を放り投げる。ここは街の端にあるつぶれかけの安宿だ。明日の朝まではここで無駄に時間を潰していなければならない。


同じ部屋の中で壁にもたれかかって座っている真帆ちゃんもやはり苛立ちをあらわにしていた。彼女の場合は明日になってもここで待っていなくてはいけない。何もできないもどかしさはぼく以上なのだろう。ぎゅっとこぶしを握りしめ、唇を強く噛んで扉の方を睨んでいる。目じりのあたりが時折ぴくぴくと動いて、涙をこらえているようにも見えた。


-----透さんはまだ無事だろうか。


なぜあの時コウタローの背から飛び降りてすぐにでも引き返さなかったのか。誰も助けてくれないとしても、一人ででも助けに行くべきなんじゃないか……そんな考えが浮かんでは消える。


ぼくは無力だ。一人で行ったとしても、透さんを助け出せる力はない。ぼくができるのは、自警団の人を速やかに賊のところへ案内すること。そんなことは分かっている。分かっているが、じっとしていることが苦痛だ。


透さんはぼくたちを助けてくれた。ぼくたちを助ける為に透さんは捕まってしまったんだ。透さんを助ける為に、ぼくたちはどうしたらいい……?


ぼくは少しでも冷静になれるように、目を閉じる。優しく笑う透さんの姿を思い描くと、自然と昔のことが思い浮かんできた。



ぼくは小さい頃は真帆ちゃんの家をよく訪れていたけど、成長するにつれてだんだん彼女の家にいかなくなった。だから、しばらくは透さんとも疎遠になっていた時期があるんだ。透さんと再び親密になったのはぼくが中学2年に上がった頃だ。


その頃、ぼくはクラスメイトからいじめを受けていた。ターゲットにされた理由はいろいろあると思うけど、よくは分からない。とにかくある日、放課後に校門前で絡まれて、服が泥だらけになったことがあった。


うちの母さんは専業主婦でずっと家にいるから、目を盗んで家に帰るというのは容易ではない。そして、母さんは何かあればすぐ大げさに騒ぎ立てるタイプだ。面倒なことにはしたくなかったから、見つかったら「転んだだけ」というつもりだったけど、背中に足型がついてしまっているのは言い訳が難しくなりそうだった。


そんな事情だったものだから、家の前までは帰っていたけれど家の扉を開ける勇気がなくてぼくは家の前でウロウロしていたんだ。しばらく家の前で逡巡して、ふと顔を上げると、隣の家の窓のカーテンが少しあいていて、そこから透さんが手招きしているのが見えた。


その時、お隣の家には透さんしかいなかった。彼はぼくを見て何も聞き出そうとせず、ただ制服を洗って乾燥機にかけてくれた。「母さんには言わないで」といったら、「心配しなくたって話す相手がいないよ」と返って来た。彼の入れてくれたほろ苦いインスタントコーヒーを飲んだら、涙が出てきて……


ぼくが透さんの家に再び行くようになったのはそれからだ。真帆ちゃんの両親は帰るのが遅かったし、真帆ちゃんも塾に行って昼間はあまりいなかったから二人でゲームをやったりして、気楽に遊ぶことができた。学校で嫌な思いをした日も、透さんのところに行くとなぜかほっと安らぐ気持ちになれた。


今は姿が変わってしまった透さんだけど、あのふわっとした笑顔とぼくたちへの優しさは変わらない。彼は真帆ちゃんのお兄さんだけど、ぼくにとってもお兄さんのようなものだと思っている。ぼくはひとりっこだから、兄弟というのはよくわからないけど……



いつの間にかすでに夜も更けている。今朝から街の中を歩き回り一度も食事をしていないが、まったく食欲がない。胃のあたりに鉛の塊が詰まっているような気分なんだ。真帆ちゃんも似たような気分なんだろう。先ほどと同じところを睨んだままで動こうとはしなかった。


ぼくらは夜が明けるまでまんじりともせず過ごした。


そして、夜が明けて自警団の人たちと合流し、街を出ようとする直前……ぼくは思わぬ形で透さんと再会することになったのだった…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ