チャプター4
「そんで、もう行くのかね、ジャス?」
「ああ、いつまでも世話になりっぱなしはシャクでな」
夕暮れの砂漠、採掘場の入り口で車椅子のマッコイが佇んでいた。
砂漠を背景に、ジャスが立ち尽くす。灰のくたびれたツギハギコートに、ズタ袋のようなカバンを肩にかけている。
プレイヤーの襲撃から一週間、マッコイはマヘリアからレアメタルの場所を吐かせるための拷問を受けたが、軽傷だったようでもうすぐ車椅子はいらなくなるそうだ。
採掘場と工房では人や設備を含めけして少なくない被害がでたが、活動が出来ない程ではないらしい。
「しかし、プレイヤーに会いに行くってのは本当にかね?」
マッコイが心配そうにジャスの顔を覗く。
「何か俺について知っているやつがいるかもしれないからな」
それがこの一週間で出したジャスの結論だ。まだプレイヤーがいるなら、マヘリア以上にこの世界やジャスについて知っているヤツがいてもおかしくはない。
「……それがあんたの決めた生き方ならワシはなんも言わん。男の決めた事に口出しはヤボじゃからの」
「迷惑をかけたわりには大して恩を返せずに悪かったな」
マッコイは豪快に笑いながら首をふる。
「返せないのはワシらのほうじゃ。お前さんは恩人というのにのう」
「……別に大した事じゃないさ」
なんだかんだで、ジャスはこの老人の明るさに救われている。
あの時もっと早く自分が動いてれば、多くを救えたかもしれない、そんな自責がジャスの胸を今なお締め付けているからだ。
「じゃあ、そろそろ行くな。所で、」
ジャスの視線の先には小山のようなリュックサックがある。
「なにやってんのよ、ジャス? 早く行くわよ!」
リュックに隠れながらも、旅姿のエルリアが明るく呼びかけた。
「……あの小娘はなんだ?」
「いやー、お前さんが旅に出るって言ったらついていくって聞かなくてなぁ。ほら、女の決めた事に口出しするのもヤボだし」
「いや、そこは保護者として口出ししろよっ!」
「なによ! 文句あんの!」
エルリアがジャスを見上げる。身長差がかなりあるため今にもひっくり返りそうだ。
「遊びじゃないんだ! 爺さんの所に戻ってろ、小娘!」
「あんたには父さんと母さんの仇取ってもらった恩があるからね、ドワーフの男は義理堅いのが自慢なのよ!」
「……お前女だよな?」
「今は男女同権の時代よ!」
頭痛をこらえながら、ジャスはエルリアを食い止めようと思考を巡らした。
「大体、あんた貨幣とか物価とか役所の手続きとかわかってんの?」
いきなりかなり現実的な質問をエルリアにされ、動揺する。
「え、いや俺は記憶喪失だし……」
「そんなんで旅できるとか本気で考えてんの? 九割り野垂れ死によ!」
「ジャス、エルリアは勘定や商談はかなり上手いんじゃ。採掘場で取れた金属の卸もエルリアが決めておるからのう」
すかさずマッコイが孫娘を援護射撃。
「爺さん、それでいいのか経営は……」
「だから、あたし連れて行ったほうが絶対得よ!」
実際、旅慣れた人間を連れて行ったほうがいいのは当たり前だろう。最悪、ある程度ノウハウを吸収したら逃げ出せばいい。
「……しょうがねぇ、行くか小娘」
「そうこなくっちゃ! 足引っ張んないでよね、ジャス!」
「そりゃ俺のセリフだよ!」
太陽が砂漠へ沈んでいった。
砂漠から、彼らの旅が始まる。
自らを知るための旅は、やがてこの世界の「人とは何か」という問いへと繋がっていく。
世界の中で人らしく暮らすNPC達と、
欠けた感覚で異邦者として刹那的に生きるプレイヤー、
どちらがこの世界の「人間」なのか、まだ答えはでていない。
だが、まだ彼らの旅は気楽な物でしかない。
旅路の果て、彼が勇者と呼ばれるのか、魔王と呼ばれるのか、それはまだわからない。
今はまだ、わからない。
どうも読んで下さってありがとうございます。
とりあえず物語はここまででひとまず終了、また続きを考えた時は完結を解除して続きを乗っけたいと思います。
それではありがとうございました。