ビター・バレンタイン・ガールズ
「ど、どお?」
って、ありさが聞いてくるけど、私の腕掴んでたら冷蔵庫開けられないんだけどな。
その後ろでは可織が難しい顔して腕を組んで立っている。
こわーーーーー。
ありさの腕をゆっくり解いて冷蔵庫の中のアルミカップがいくつも入ったステンレスのバットを取り出す。
アルミカップの中には色々なトッピングが施されたチョコレートがしっかりと固まっていた。
小学生の私達のとって好きな人のいるバレンタインはテストよりも重大なイベント。
気合いも入りまくるけど、技術的に子供だけど作ることが出来るのは溶かして固める程度。
それでもそれぞれが思い思いのものに仕上がった、はず。
「なんかさぁ、可織のってトッピング多過ぎない?」
「そお?これくらいいいんじゃないの?」
ありさの問いかけに冷たく可織が答える。
うわーテンパってるよ可織。
「まっ体力バカの海次なら『はらへったー』とか言って気にしないで食べちゃうか。」
ありさの台詞を聞いて「プチッ」って音がした。
可織キレたよ。
「あ、ありさに言われたくないわよ。チョコの上にチョコのトッピングって何よ。神経質な天禰から突っ込みくるわよ。」
「しっ失礼な。これは彩のを考えたの!それに天禰は神経質じゃなくて頭が良くて鋭いのっ!!」
「だったら言わせてもらいますけど、海次は体力バカじゃなくて運動神経が抜群過ぎるの!」
可織とありさがヒートアップしている。
二人とも~チョコに唾飛んでる気がするんですけど
って言える雰囲気ではないな。
お互い好きな人が違って、「友達と一緒に作った」というけど、うちの台所を一緒に使っただけで実際に渡すチョコは自分が作ったヤツなんだからなんでもいいじゃないって思いながら黙って見てたら
「「泰だって大人しいだけじゃないっ!!!」」
ってこっちに飛び火した。
「・・・チッチッチ・・・」
人差し指だけを左右に振って名探偵でも気取りながら私はゆっくりと言った。
「泰はねー。ただ大人しいってわけじゃないの。寡黙なの。寡黙。勉強だって天禰みたいに塾に行っているわけでもないのに出来ないってわけじゃないし、運動神経も悪くないわ。その証拠に今やっているポートボールだって熱くなり過ぎず、でも結構いいプレーしてるでしょ?」
・・・・ってあれなんで私泰のこと褒めまくってるの?
「って言うか別に泰のことすごい好きとかじゃなくて、これは普段お世話になっているお礼よ。お礼。」
ありさと可織とは目的が違うということを慌てて説明するけれど、一大イベントを目前にした二人の耳には届いてないようで
「いいわよねー。泰はなんでもほどほどに出来て。」
うわー可織言い方が怖いんですけど。
「ほんと、泰なら『えっそんなことも知らないの』とか言わないしね。」
ありさもかなり来てるみたい。
「あれ?ありさこの前さそんなそっけないとこがいいって言ってなかった?」
私も聞いたよそれ。
「まっまあね。そういう可織だって一つだけ得意なことがある方がいいって言ってたじゃない。」
「そ、そうよ。」
お、二人とも復活してきた。
全く扱い難いったらありゃしない。
早くバレンタイン終わらないかな~。
「ねぇねぇ操は泰のどんなところが好きなの?ほどほどに色々出来るところ?」
きらんとした瞳で興味深々に聞いてくるありさ。
「だからぁ、ありさ達みたいに好きってわけじゃ・・」
ないって言おうとしたら可織が
「えーっ全部好きとか考えてる。」
今言いかけた台詞をどうするとそこに繋がる。
天禰と1位2位を争う秀才がそんなんで大丈夫なの?
「違うわよ!泰にだって嫌なところはあるわよ!!!」
「えっ?操、泰のここが嫌だなって思う時あるの?」
「あ、あるけど」
ありさと可織の瞳が「それってなあに?」って問いかけるようにじっと私を見ている。
「・・・や・・泰って、さぁ」
「「・・うん?・・」」
「・・・・宿題の答え絶対教えてくれないの・・・・」
「「・・・・・・・」」
ほんとあれだけは困ったものだわ。
特に算数、式の作り方を説明するだけで、こっちが立てた式が合ってるかどうかは答えてくれるけど、間違ってたらもう一度自分で考えなきゃいけないし、出来た式も自分で計算しなくちゃいけないのよ。
「み、操。前から気になってたけど、宿題は自分でやった方がいいよ。」
「そうだよ。可織の言う通りだよ。」
「えっ?だってもう泰答え分かってるんだよ。電話してても問題の解き方の話しばっかりになっちゃうんだよ。」
二人の肩がピクリと動いた気がした。
多分気のせいなんだろうけど。
「へー電話・・・」
「泰と電話でも話したりするんだ。泰からかかって来るの?」
「んー私がかけたり泰がかけてきたり色々。」
「ふーん。それに教えてはくれるんだから問題ないんじゃない。」
そっけなく言うと可織はラッピングを始めた。
それを見たありさもラッピングを始めた。
なので私も用意した子箱にチョコを詰めた。
「「「出来た―♪」」」
「後は当日渡すだけだと思うと緊張しちゃうね。」
緊張という割には呑気そうなありさ。
「・・・・・」
「どうしたの可織?トイレ?」
黙って下を見る可織の顔を覗き込むようにありさが聞いた。
可織は返事はしないで私の方を見た。
「な、何?」
「操ー。さっきのことは謝るからやっぱりグラウンド一緒に行ってー」
「嫌よ。私お父さんのいるクラブには顔を出したくないんだから。情報はあげたんだからありさに一緒に行ってもらいなよ。」
「私はダメだよ。天禰にクラブに好きな人がいるって勘違いされたら嫌だもん。」
告白のある人は大変ねぇと思いながらラッピングの完成した箱を再び冷蔵庫に閉まった。
「なーんか他人事のようなカオしてるけど、もし泰が『いらない』って言ったら操どうする?」
「えぇーっ可織何言っちゃってるの。泰が操からのチョコ受け取らないわけないじゃん。」
「・・・・・」
私は冷蔵庫をじっと見た。
「食べるわよ。折角美味しいと評判のチョコを使って作ったんだもん。もったいないじゃない。」
「そうじゃなくて」
可織のいいたことは分かる気がしたけど、そのことには触れずに言葉を続けた。
「だって私泰に告白するわけじゃないもん。2学期、算数の成績上がってたからそのお礼なだけだもん」
そうよ。
ただの、お礼なんだから・・・・
「・・・というわけで可織とありさと一緒に作ったんだ。あ、溶かして固めただけなんだけどね。算数の成績上がったから泰にお礼にプレゼントしようかなって」
「ありがとう。遠慮なくもらうね。」
泰が静かに笑って私が差し出した小箱を受け取った。
その姿を見たらホッとした。
ん?あれ?何今ホッとしてるの?
「あ、じゃあ私こっちだから」
って泰は知ってるし、何言っちゃってるの私。
「うん。気をつけて帰れよ。」
軽く片手をあげて私を見送る泰。
「ばいばい」
後ろにいる泰を見ながら手を振り返す私。
なんで泰にチョコを渡す時ドキドキしたんだろう?
なんで今ホッとしているんだろう??
まぁ、いいか――――――――