第1話 「旅立ち」
青年は日課の自主訓練を終え、自宅へと続く林道を歩いていた。今日は筋トレをしてから、村を何周も走った。訓練を始めた頃と比べれば、できることも随分増えた。以前ほど息も上がらない。
木々に囲まれた道を抜けると、自宅が見えてきた。そこには、木と畑しかない田舎の村には不釣り合いな装飾が施された馬車が止まっていた。
青年は訝しく思い、足を止めた。少し近づくと、その特徴的な装飾には見覚えがあった。同時に、子どもの頃にいつも隣にいた彼のことが頭をよぎった。青年は訓練後ということも忘れて駆け出した。
――彼が帰ってきたのだろうか。
玄関前に着くと、馬車は丁度動き出した。御者は道に立つ青年に見向きもせずに走り去った。
それを見送ってから急いで扉を開けた。
「ねぇ、シオンが帰ってきた?」
「おかえり、カイル」
両親が揃ってテーブルにつき、苦い表情をしていた。
「……何かあったの?」
カイルが問いかけると、父は重い口を開いた。
「……シオンが行方不明らしい」
「…行方不明?」
一瞬、父が何を言っているのか理解できなかった。
幼い頃、魔法の才能を認められて養子に出たカイルの双子の兄弟。都会に連れて行かれたきり、もう何年も会っていない。
「いつから?」
「一年ほど前かららしい…」
「一年前?何でそんな前のことが今頃になって、連絡されてくるの?」
「こっちが聞きたいくらいよ。養家からの手紙には、この家に迷惑かけたくないから今まで黙っていた、って書いてあったわよ。どうせ、あの家は世間体を気にして、こんな田舎の実家に頼りたくなかったんでしょう」
母は苛立ちを隠さず、吐き捨てた。
「…シオン、どこにいるんだろう」
カイルが呟くと、母がこちらに顔を向けた。
「カイル、シオンのことを探しに行きなさい」
「オレが?どこに?」
「最後にシオンが確認されたのは水の街らしいって書いてあったわよ。それに、あの子のことだから、誰かが連れ戻そうとしても『嫌だ!』って逃げるでしょ。あんたなら双子だし、ずっと金魚の糞みたいに、お互いくっついてたんだから大丈夫でしょう」
父も隣で頷いている。カイルは最後に見た片割れの、不安そうな顔を思い出した。
「…わかった。行ってくるよ」




