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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第三章 冒険者の分かれ道

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37話:埋葬中止

「穴掘るね」


 想像もしていなかった状況に、考えるよりも手を動かしていた法が良いとの判断だろうか。蒼は穴を掘り始めた。


 ここ掘るワンワン。犬もモグラもびっくりの手捌きであっという間に埋葬できるだけの穴ができた。

 流石にのびのびと永眠するだけのサイズはない。もし埋めるとしても屈葬になるだろう。


「蒼ちゃん? 埋めないよ?」


 ダンジョン内で死体を発見したら、発見場所を組合に報告しなければならない。懇切丁寧に蒼に説明すると、ようやく冷静さを取り戻したのか穴を埋め始めた。


 伽代は落ち着いている。冒険者をやるならいつか同業の死体を見ることもあるだろうと思っていたからだ。さすがに発見したときはパニックになりかけたが、慌てている蒼を見ていたら逆に冷静になった。

 この子を守らなければ。そんな母性が芽生えかけている伽代。その心を知ってか知らずか、女性を肩に担いで持ち運ぼうとする蒼。


「えっ、えっ、え? 何してるの?」

「地上に持って上がらないと。ここに置きっぱなしは可哀そうだよ」


 モンスターに食べられてしまうかもしれないし――と続ける蒼に、伽代は言い聞かせる。


「モンスターは人間の死体は食べないんだよ。ただただ生きた人間を襲うだけなんだから。それにこの人がゴブリンダンジョン以外から潜ってたんなら、私たちじゃ中層より上に持っていけない」


 そうかと蒼。


「とりあえず今蒼ちゃんが動かしたから、しばらくの間はダンジョンに吸収されないと思う。ささっと帰って報告しちゃおう。ほら、その仏さんはそこに置いておいてさ」

「わかった」


 ドサリと投げられた仏さん。ちょっと雑すぎる取り扱いに伽代はあわあわ。さすがにもう少し丁寧に扱わないと。



「いっ……たぃなぁ」


「「ッ!?」」


 唐突に聞こえた第三者の声。

 驚いた二人は抱き合って仏さんを眺める。ピクリともしない。


 流石にそんなわけないかと、抱き合い解除。


「死体が喋るわけ、ないもんね」

「そうだよ。流石に聞き間違――」


「死んで……なぃってぇ」


 抱き合う二人。

 さながらゾンビ映画の名脇役。


「ぃきてるって」


 か細い声で喋る仏さん、もとい生きてる女。

 胴体の3割近くを欠損してもなお生きている。これが人体の神秘。


「これでも生きてるんだね。人体の神秘」

「人体ってかダンジョンの神秘じゃないかな。――って、それより生きてるならポーションが効くはず!」


 慌てて鞄からポーションを取り出す。二人して同時に取り出して、二人して同時に開封。傷にかけようとしたところで譲り合いが発揮されてしまい、どうぞどうぞで時間を取られる。


 一旦落ち着いて、蒼がポーションをかけることに。


「えいっ」


 傷口にびしゃしびしゃとふりかける。

 揉み込もうかとも思ったが、傷口に触ったら痛いだろうからやめておく。


 直接かけると経口摂取よりも即効性がある。しかし効果は弱くなる。

 弱まった効果が効くかどうか怪しい大怪我だが、どうせ開封してしまったのだからと、1本は直接かけ、もう1本は経口摂取させることにしたのだ。

 蒼がよっこらせと彼女を背負う。このまま中層から上層に上がる魔法陣の場所まで移動するのだ。


 移動しながら、背負われている女性に伽代がチビチビと少しずつポーションを口に含ませ始めた。

 怪我人に一気にポーションを飲ませたら胃がびっくりするかもしれないとの配慮によるものだが、この怪我人の胃が機能しているかどうかは怪しい。



 §



 この階層にあるいくつかの魔法陣の内、最も近い場所にやってきた。

 上層から中層へ潜るとき、中層にいくつかある魔法陣の場所に繋がる。中層から上層に帰るときはどの魔法陣を使っても上層の同じ場所に繋がる。

 伽代はこの現象に可能性を感じていた。地上で似たようなことを再現出来たら便利だろうなと。まあそんなことは置いておいて、怪我人を魔法陣のある部屋で寝かせる。


 ひらけていて、モンスターが近寄ってこない。怪我人を寝かせるにはうってつけの場所。

 蒼が魔法陣に手を触れて上層に通じる扉を呼び出そうとしたので、慌てて止める。

 中層から上層に通じる扉は、中層に降りてくるときにくぐった扉と通じている。蒼と伽代はゴブリンダンジョンから潜っているわけで、二人はゴブリンダンジョンの上層へと帰ることになる。

 目の前で横たわっている女性がどのダンジョンから潜ってきているのかが分からない。もしゴブリンダンジョンであれば良い。しかし違ったのなら、背負って上層に上がった瞬間に彼女はゴーレムダンジョンかドラゴンダンジョンの上層に一人置き去りにされてしまう。上層とはいえ怪我人ひとりでは危険だろう。



 か細い唸り声、荒い呼吸。熱に浮かされたうわ言、喘ぎ声。

 一瞬静かになると、今度はびしゃびしゃと黄緑色の液体を吐瀉する。

 吐瀉液はタオルで拭いておく。横を向いた女性の口元もついでにゴシゴシ。


 しばらくして体が痙攣を始める。

 お喋りしていた二人もこれは無視できず、女性の近くに寄った。

 震える体はミチミチと音を立て始めた。

 人体から出るはずのない音に慌てる伽代。蒼はというと、どこかで聞いたことがある音だなとぽけーっとしていた。


 怪我人は安静にするようにと冒険者は必ず習う。だから伽代は、女性を動かさないようにして異音の発生源を突き止めようとする。一方蒼はぽけーっとしている。


「「あっ!」」


 ここで二人、同時に答えを見つける。


「内臓が再生してる!」

「ゴブリン誕生の瞬間.mp3だ!」


 伽代は気がついた。女性にあいていた風穴、そこになかったはずの内臓が再生し始めていた。

 蒼が思い出したのは、ダンジョンの壁からゴブリンが発生するときの音だった。あの時も同じようにミチミチと何かを押し除けて発生するような生々しい音がしていた。


 内臓が再生し始めてからは、痙攣が頻繁に起きるようになった。痛みに耐えようとしているのか、唸り声もあげる。


 新しく内臓が生成され、乱れる呼気。そんな女性の近くで看病する蒼。気分は助産師。


「ひっひっふーだよ。ひっひっふー」


 生死の瀬戸際で頑張っている相手に対して話しかける蒼。助産師気分によるその場のノリなので、相手に通じているかどうかは関係ない。


「急にどうしたの蒼ちゃん?」

「知らないの? マヨネーズ奏法だよ」

「マヨネーズ奏法は知らないかな」

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