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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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14話:見飽きた顔

 入学式の次の日、蒼は友達を作ると決意して登校した。

 結果、隣の席の少女に声をかける事はできた。しかし、下手くそなナンパのような形になってしまったせいで会話は弾まなかった。

 話しかけられた少女を困っていたし、話しかけた蒼も困っていた。


 しばらくの間は午前中のみで下校するので、今日はクラスでの自己紹介と下手くそなナンパで学校が終了した。


 友達作りって難しい!

 この鬱憤をモンスターで発散してやる。蒼は今日もダンジョンに潜ることを決意した。


 これまでに蒼に殺されてきたゴブリンの数は十五体。

 それらのゴブリンたちの怨念が、突然蒼に襲いかかってきた。

 飽きという形で。



 ゴブリンに飽き始めてきた蒼は、少し遠くのダンジョンに行ってみることにした。

 目的地は電車で2駅乗った先にあるゴーレムダンジョン。ネット情報だとウッドゴーレムが主に出てくるらしい。


 電車に揺られること10分。

 目的駅についたので、降りて自販機で水を買っておく。水筒持って来るの忘れた。

 装備をしっかりと確認して、ダンジョンへいざ行かん。

 水筒を忘れるくらいに緊張している。学校で隣の席の少女に声をかける時の緊張がまだ少し残っているのもあるが、ダンジョンに対する緊張も少しはある。


 組合の建物に入り、受付に向かう。受付嬢は人当たりの良さそうな好青年。

 微笑を浮かべて冒険者免許を見せ、あらかじめ決めていたダンジョンに入りたいという内容の言葉を詠唱する。

 詠唱に思考リソースは一切使用されていない。空いているリソースで『男性の受付嬢はなんと呼ぶのだろう。受付坊?』そんな事を考えながら詠唱を続ける。

 自分が誰なのか、何層まで潜るのか、何時まで潜るのかなども伝える。聞かれることを先回りして答えることで、会話数を少なくしてスムーズにコミュニケーションを進めることができるのだ! これは限界人見知りの蒼がつい最近生み出したテンプレコミュニケーション。

 ゴブリンダンジョンの受付の人には慣れてきたのでこんなことをしなくても良いが、それ以外の受付の人にはこうやって乗り切る所存。クラスでの自己紹介はこれで乗り切った。


 一通り終わったかなと受付の人を見ると、何かの処理をしているらしい。微笑しつつ周囲の様子を眺めていると、ゴブリンダンジョンよりも圧倒的に繁盛している。職員の数も冒険者の数も圧倒的にこちらのほうが多い。

 ウッドゴーレムの方が高い素材を落とすのかな。そんなことを考えていたら受付の処理は終わったらしい。受付の男性が「気を付けて」と言ってくれる。


「ぁ、ありがとうございます!」


 少し恥ずかしさを感じたが、お礼は言えたので良し。



 ダンジョンの入り口、組合の設置した入場ゲートの前まで来た。

 ダンジョンの入り口は、空間と空間が無理やり繋がれたような形になっている。

 ちなみに、組合が設置した入場ゲートのことをゲートと呼ぶが、空間の繋ぎ目自体をゲートと呼ぶこともある。ややこしい。


 いつも潜っているゴブリンダンジョンとは違う雰囲気のダンジョン。新鮮な気持ちでゲートを通る。


 ゲートの向こう側は森だった。木々が生い茂り、虫も鳥もいない森。

 ゲートの背には高層ビルもかくやといったサイズの巨大樹。これのおかげで迷っても帰ってこれそう。


 あらゆる緊張の種から解放されて、完全にリラックス状態の蒼。森の中だから、マイナスイオン的なのが関係しているかもしれない。



 §



 静かでちょっと不気味だな。

 森を歩きながらそんなふうに考えていた蒼は、その後すぐに安心することになる。また、安心するとともにがっかりすることにもなる。


 思ったより人多いぞ、この森。

 他の冒険者がゴーレムと戦っている様子をすでに3回見た。

 ゴブリンダンジョンの中ではまだ一度も人と出会っていないのに。

 そんなにウッドゴーレムのドロップアイテムが高く売れるのだろうか。



 モンスターでストレス発散するつもりが、全然モンスターと戦えない。

 

 後ろで物音がする。

 ようやく来たか私のターン。ナイフを構え、振り返る。


 現れたのは、デフォルメされたデッサン人形。

 顔には目と口を模した窪み。胸にはどう見ても弱点なクリスタル。


 まずは様子見として、五頭身の体から繰り出される攻撃を避ける。

 掴み、殴り、あとは蹴り。そのくらいの単調な攻撃しかしてこない。

 所詮こいつもダンジョン最上層のモンスター。ゴブリンとなんら変わりない。


 右腕で殴りかかってくるので、掴んで左に流す。

 引っ張られたゴーレムは、バランスを崩して倒れかかってくる。

 そしたら後はもう簡単。明らかに弱点なクリスタルに向かってニーキック。

 蒼の膝がゴーレムのクリスタルをぶち割る。



 雑魚だったけれど、意外と楽しめたぜ。

 光になって消えていくゴーレムに対して、心の中でハードボイルドに呟く。

 今日の蒼はそんな気分。


 時間にして一分も無い戦闘。

 魔石を拾い上げた蒼は、次のゴーレムを探そうと――。


 ふと肩を叩かれる。


「ねえ」


 垂直に飛び上がる蒼。飛び上がる蒼に驚く少女。


 驚き振り返った蒼と、驚き動きを止めた少女が見つめ合う。


 蒼に声をかけたのは、蒼より一回り身長の低い少女。

 おそらく地毛だろう、綺麗な茶髪がサラサラと肩の上で踊る。


 手を降ろした少女が口を開く。


「ごめんね、驚かすつもりはなかったんだけど――」


 話し始めた少女。

 今の蒼は、リラックスしている状態に急に人とのコミュニケーションが挟まれたせいで思考が停止している。そんな蒼の脳内を知らずに、少女は話を続ける。蒼は外面を取り繕うのは得意なのだ。


「二週間くらい前から冒険者をやってて、そろそろパーティ組みたくて。あなたもひとりで活動してる感じでしょ?」

「エッ……アッまあ……ハイ」


 61。


「よければ一緒にパーティ組まない?」


 ようやく思考停止から復帰した蒼。

 少女から放たれる圧倒的コミュニケーション強者のオーラを感じ取り、少しばかり気後れする。


 第一声から敬語じゃないし、自己紹介すらしてないし、すぐに距離感を詰めてくる彼女に少し距離を取ろうとしてしまう蒼。


 友達いっぱいいそう。

 友達を作れるようになりたい蒼からすると、彼女に少し憧れる。住む世界が違うようにも感じられる。


「きゅ、急に言われても……。ナマエモシラナイシ」


 79。


 途中までは上手く喋れてたよ。ナイスファイト。

 脳内の応援団が蒼を鼓舞する。


「ああ、ごめん。私は伊波伽代(いなみ かよ)。カヨって呼んで。今年で高校一年生。あなたも同じくらいに見えるけど……もしかして年上? 敬語使った方が良いかな」

「アッいえ、私も一年です……」


 96。


「もしかしたら同じ学校かもね。私は隣町の学校なんだけど」

「わ、私はここらへんです」


 109。

 緊張で上がり始めた心拍数。普段は58、ゴブリンと対峙している時の心拍数は61。桁違いの緊張感に心臓にかかる負荷が増す。ゴブリン相手にもう少しストレス感じてもいいのに。


 自己紹介……、自己紹介しなきゃ。自己紹介って何を言えばいいんだっけ。年齢? 住所? それとも渾身のギャグ?


「ごめんね遮っちゃって。あなたの名前は?」

「あっあっ……あぅ」


 あうあう言い始める蒼。脳内は思考の迷路。ここまで狼狽えるのも珍しい。外面を取り繕う能力が低下中。


 慣れた様子で自己紹介を終えた彼女を見て、自身との圧倒的なコミュニケーション能力の差を感じる。確実に生きている世界が違う。


「名前、名前は――」


 友達ができるかもしれないチャンス。できれば逃したくない。


 しかし、できるのか? この神楽坂蒼が、面と向かって自己紹介を。

 ダンジョンで後ろから肩を叩かれてパーティに誘われた時用のテンプレートを用意しておくべきだった。


 自己紹介って何を言えばいいんだっけ。年齢? 住所? それとも渾身のギャグ?

 思考は迷路で堂々巡り。


 そうして蒼が導き出した答えは……。


「名前は――湾中村山笹錦一ノ瀬」

「えっ? アッ……いい……名前だね」

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