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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第一章 新人冒険者ひっそりと爆誕

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12/16

10話:驚くほど

 転移能力を使えるようになり、我が世の春を実感した蒼。


 今日は昼まで寝ていた。

 ちょうど父も母も弟も家を空けていたからできたことだ。今家にいるのは蒼一人。


 両親はともかく、弟がいたら無理矢理にでも起こしに来ただろう。

 それ以外にも口うるさい弟は、今日は家にはいない。友達と遊びに行ったから。


 そういうわけで、友達のいない蒼は朝食を兼ねた昼食を取り、ふたたび自分の部屋に舞い戻ったのであった。



 今日はダンジョンには行かずに、家で過ごすことにする。


 ベッドに横になり、キッチンから持ってきたポテチの袋を開く。

 壁にスマホを立てかけて、昨日ダンジョンで撮影した動画を見ながらポテチを食べる。


 正直、あまり面白くなかった。

 動画の中の自分は真面目な顔をしているが、しかし何も起きない。

 転移が発動した様子は、充電切れで撮れていない。


「一体、何の録画なんだろう」


 つい自分でそう言ってしまうほどの内容だった。

 転移能力の実験の様子の動画である。


 しかし、何の意味も無かったわけではない。ある気付きを得ることができた。


 驚くほどポーズがダサい。

 脳内イメージではもっと不敵な感じだったのに、動画の中の自分は凄いへっぴり腰だった。

 あと掛け声もダサい。

 改めて聞くと、非常に気の抜ける掛け声だ。何も言わない方が断然良い。


 過去の自分からの予想だにしない攻撃を受け、本格的に気力が削られた。

 何もやる気が起きない。


 元からなかったやる気がさらに削がれ、今の蒼はスライムにでもなってしまいそうだった。



 §



 スマホで動画を眺ることで気力を回復した蒼。

 きゅうりに驚く猫ちゃんが蒼のことを癒やしてくれた。


 ダサいポーズが嫌なら、カッコいいポーズをすればいいじゃない。

 カッコいいポーズなら、漫画にたくさん転がっているじゃない。


 これは蒼の脳内に住むアントワネットの名言。蒼は感銘を受け、本棚からお気に入りの漫画を引っ張り出す。



 漫画のカッコいいポーズと自分のダサいポーズを交互に眺めて、あるひとつの結論が出る。

 映像とイラストでは違いがよう分からん。

 似ているポーズなのに、自分のポーズは致命的にダサい。


 漫画がダメならアニメを見ればいいじゃない。


 脳内のアントワネットが名言を連発。蒼は再び感銘を受けた。



 アニメを見ながら、自分がカッコよく戦う姿を妄想していた蒼。

 気付くと家族がみんな帰ってきていた。


 もうそんな時間かと思いつつ、カッコいいポーズ習得計画は次の段階へ。


 鏡の前でいざ実践、である。

 えっちらおっちらと姿見を出す。

 夜中に鏡を見るとちょっと怖いので、いつもは押入れの中に仕舞っている。


 予習と妄想のおかげか、それなりに見れるポーズになってきた。

 蒼はそれから、鏡の前でカッコいいポーズを取ることに夢中になった。


 どのくらい夢中になっていたかというと、夕食だと呼びに来ていた弟の声が聞こえないくらい。


「夕食だって呼んでん――」


 扉を開けた翠の前にいたのは、姿見の前で珍妙なポーズを取る自身の姉。

 その光景を見たときの翠の脳内に広がる感情。恐怖、困惑、いや――呆れ。


「ごゆっくりどうぞ~」


 いつも通り変なことやってんな。

 そう思った翠は、何事もなかったかのように扉を閉めて出ていった。



 弟と鏡越しに目があった蒼は、暫くの間硬直して、そののち赤面。



 §



 夕食後、蒼は姿見を記憶とともに封印することにした。

 えっちらおっちらと押入れに片付けて封印完了。

 これで先程の恥はなくなったことになった。あとは弟が言いふらさないように口止めをする必要がある。


 弟の部屋に行き、口止め交渉を行う。

 最終的に、ポテチを生贄に交渉成立。弟の好きなお好み焼きソース味を2袋だ。


 2袋で320円。

 前までの蒼であれば、少し負担に思ったかもしれない値段。


 しかし今は違う。

 ゴブリン三体くらいの命と等しい値段なので、ダンジョンに潜れば稼げる。


 魔石は買い取ってもらうのが面倒で放置していたが、これからは集めておいて一度に買い取ってもらおう。



 自室に戻ってきた蒼は、そのままベッドにダイブして漫画を読み始めたのであった。

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