PURGEー91 復帰!!
事件解決後、こってりとクオーツ隊長によるお話を受けた黒葉達。その日は酷い疲労から家路についてすぐに泥の様に眠り、しばらくの休日が与えられた。
数日後、寝ぼけ気味に目が覚めた黒葉がデバイスを開くと、そこには一通のメールがあった。さっそく開いてみると、差出人の名前に黒葉は飛び起きた。
「木花さん!」
黒葉がすぐにメールの内容を確認すると、騒動の中心の人物である音尾からの呼び出しがあったのだ。黒葉は慌てて身支度を済ませると、すぐに玄関に走っていった。
「あ、おはよう黒葉君」
「おはよう信乃さん! 俺ちょっと出かけて来る!」
「お出かけ? 何処に?」
信乃の質問が耳に入るよりも前に、黒葉はシェアハウスを飛び出してしまった。信乃が困惑していると、同じく起床して来たリドリア達が彼女に問いかける。
「今の、黒葉?」
「なにやら急ぎの様子でしたけど」
「気になるね」
「シャウさん、個人の事情に横入りするのは失礼ですわよ。まあ、確かに気になりますが」
下世話な心で一致団結した女性陣は、黒葉を追いかけることにした。
一方後ろから追われている事になど気付いていない黒葉は、指定された場所に息を荒くしながら到着した。そこにはすでに音尾の姿があった。
「ごめんなさい木花さん、メッセージ気付くの遅れて」
「いえ、ワタシの方が突然送ったので、来てくれてうれしいです」
黒葉は顔を上げて見た音尾の姿に目を奪われた。これまで見た道着姿とは違う、女性らしい清楚な白いワンピース姿。頭にはハットも被っており、いつものかっこよさとは違う、女の子らしさが出ていた。
「その、似合ってなかったでしょうか?」
「え? あ、いや、そんなことは! 可愛いです……」
「可愛い……」
音尾はふと言われた台詞に頬を赤くしてしまう。黒葉も釣られて赤くなりかけたが、我に返って彼女に質問した。
「それで、俺をここに呼び出してどうかしたんですか?」
黒葉の問いかけに、音尾は少し表情を暗くして返答する。
「少し、お話がしたくなったんです。子供の頃の話から、これからの話について」
二人は近くの公園にまで移動し、ベンチに座った。周辺には、安っぽい変装をしたリドリア達が茂みに隠れている姿がある。
「何よあの二人、なんだかギスギスしてるわね」
「お互いに小学校時代の同級生とはいえ、二人でじっくり話すのは本当に久しぶりだもん。多分、何て話を切り出せばいいのか分からないんだと思う」
五人がそれぞれの感情で見ている中お茶をしている二人。沈黙が続く二人だったが、ここで勇気を振り絞ったように音尾が切り出して来た。
「この前は、本当にありがとうございました」
「え? あぁ、それは全然……ただ、大丈夫だったんですか。俺達、結果的に御伝流との仲が……」
「それについては大丈夫です。クオーツ隊長、及び疾風隊長が頑張ってくださったみたいで。隠居なさっていた師範も、精道坊ちゃまの勝手が過ぎたからだと許していただけました」
黒葉は一安心した。だが次に音尾が口にした台詞に、黒葉の安心は消え去ってしまった。
「そうして今日は、お別れを言いに来たんです」
「お別れ!?」
「「お別れ!?」
黒葉はもちろん、後ろにいる音尾の部下二人も大きく反応してしまう。黒葉と音尾が後ろを振り返ると、残り三人二よって二人は隠され、見つかる事はなかった。
「何か声が聞こえたような」
「気のせいだったのかな? いやいや、そんなことより! さっきの話は」
黒葉が話の内容を元に戻すと、音尾は事情を話した。
「はい、次警隊を辞めようと思ってます」
「どうして!」
「この度の騒動、団体戦から全て私のせいです。縁談から逃れる口実として春山君を利用しようとした。その上、助けてもらって……情けない事です」
「木花さん……」
膝の上で拳を握り締め、自分を戒める音尾。黒葉はそんな彼女の様子に、ふと関係ないとも思える話をし始めた。
「小学生の頃、俺が木花さんを助けた事があったよね」
「それは……はい」
「人助けをしたのに変態扱いされて。そこからいじめられたし、誰も助けてくれなかったし……本当、毎日が辛かった。自分の異能力を恨んだ事もあった」
音尾にとって耳の痛い話。彼女が更に自分を責める言葉を口に仕掛けたその時、黒葉は台詞を付け足した。
「でも、今は良かったと思っているんだ」
「え?」
音尾は黒葉の言葉に戸惑った。彼はふと思いふけったように言葉を続ける。
「確かに最初は嫌だった。でも今は違う。この力で人を助けられるって知って、こんな俺と仲良くしてくれる仲間と出会って……もしあのとき木花さんを助けていなかったら、今の俺はなかったかもしれない」
「春山君……」
黒葉は目線だけ上げた音尾に微笑みかけた。
「それに、木花さんは俺を避けていたわけじゃなかった。あの時自分がやった行為は、人のためになれたんだと、気が付けたんだ。
だから、木花さんとまたこうして話が出来て、俺は嬉しい。利用されたなんて思ってないしね」
音尾の目が潤んだ。
「俺だけじゃない。レジアさんだってシャウさんだって、二人共木花さんの事を大事に思っている。だから団体戦を仕掛けたんだし、今回も俺達に力を貸してくれた。
二人も俺と同じ、木花さんに感謝しているんだ。だから、何も情けない事なんてない、むしろ、もっと甘えてもいいんじゃないかな」
黒葉の言葉に、後ろで見ていたレジアとシャウも笑みを浮かべていた。
一方の音尾の方は涙を浮かべてしまい、黒葉は慌てた。
「木花さん! その俺、何か失礼な事言っちゃったかな?」
「いえ……嬉しいんです……」
「嬉しい?」
音尾は涙が止まらないままに溜まっていたものが吐き出すかのように声を出す。
「みんなに迷惑をかけて、もう戻ってはいけないと思っていた……でも、私は……皆さんと一緒にいていいんですね……」
「ああ……最低でも俺は、これからも木花さんと仲良くしたいから」
涙の意味を理解した黒葉が声を優しいものに戻すと、音尾は顔を背け、また俯いた。
「木花さん?」
「すみません……じゃあ早速、わがままをしても良いですか?」
「え? もちろんいいけd……」
黒葉の言葉は言い終わる前に止まった。彼の唇が、音尾の唇が重なって塞がれたためだ。
「「「ナァッ!!」
突然の事に固まる黒葉。音尾は黒葉に触れた事によりワンピースがはだけていき、ピンク色の下着を晒してしまう。
そんな格好になりながらも、唇を放した音尾は涙の晴れた満面の笑みを向けたのだった。
「私、次警隊に戻ります! これからも、よろしくお願いします。黒葉君!」
音尾が復帰の決意をしたそのとき、リドリア、信乃、レニの三人は気が気でなくなってしまうのだった。




