PURGEー90 ちょっと!!
戦闘の負傷とここまでの疲労により意識を失っていた黒葉。再び目を覚ました彼が目を開くと、目の前に映っていたのは二やついた顔をする入間のドアップの顔だった。
「ウワァ! 疾風隊長!?」
「起きたか。よく寝とったなぁ」
「寝てたって……そうだ、木花さんは!」
意識からワンテンポ遅れて思い出した直前の光景に、思わず黒葉は入間に質問を飛ばす。これを聞いた入間は予想していたと言わんばかりの様子で黒葉から離れて答えた。
「信頼出来る部下に保護させた。にしても驚いたで。他の候補をしらみ潰しに当たって到着したかと思えば、ビキニ姿の女の子のお胸の上で眠っとんねんやから」
「お胸の上……って、それ俺が!?」
黒葉は入間に言われた事にまたしても妄想が膨らんでしまう。
我に帰れば、ただでさえ際どい格好をしていた音尾に対して思うところがあった。そこに入間の言葉を聞いてしまえば、より際どい姿を浮かばせてしまうのだった。
(木花さんの胸に俺が……いやいやいや、今はそんなことを考えている場合では!)
黒葉が自覚のないラッキースケベをしてしまった事を妄想してしまうと、入間は彼の顔色を楽しそうに見ながら話を続けた。
「ま、お熱なのはええねんけど、状況的にそのままほっとかれへんかったし、お前は私が抱えたって訳や。ここらも二番隊の片付けを入れてる。精道の阿呆も、既に拘束済みや」
「でも……」
淡々と説明する入間に対し、黒葉の表情は何処か曇っていく。いくら音尾を助けるためだったとはいえ、今回のこれは個人的事情で次警隊と御伝流との間に、いざこざを生みかねない事だからだ。
「結局争いごとになってしまった。これは」
「争いごとなんてなっとらん」
「はい?」
入間からの返答に困惑する黒葉に、彼女は言葉を付け加えた。
「だから何もなかった事にしとくねん。大丈夫、二番隊は忍者だらけの隠密、諜報が得意な部隊や。この程度の事件、揉み消したるわ」
ウインクをしながら黒葉を励ます姿勢の入間。黒葉が根拠はないながらも少し安心していると、入間の後方から聞き覚えのある声が、異様な圧を放ちながら耳に入って来た。
「ほう、揉み消しですか……だからと言って隊内でこれは大問題ですよ疾風隊長」
この声に黒葉はもちろん、入間でさえ血の気の引いたような顔で相手を見る。声の主は駆けつけて来たクオーツだ。いつもの優しい笑顔はそのままながら、何処か顔からも感じられるほどに怒りに満ちていた。
「やってくれましたね。御伝流との問題はデリケートであるというのに、渡しに一言の許可もなく部下の隊員を巻き込むだなんて」
「あぁ……クオーツ隊長、その辺についてはこの子たちの為をとも思いましてなぁ……」
「言い訳無用です!」
「ハイィ!」
同じ隊長格でありながら、入間は完全にクオーツに怯み切っており、ひょうひょうとしていた背筋をシャンとさせられた。
目の前の光景に、黒葉は目を丸くして開いた口が塞がらなくなってしまう。
(同じ隊長なのに何だこの状況。クオーツ隊長、どれだけ恐れられているんだ?)
直後にクオーツは入間の服の襟を掴み、彼女の身体を引きづって連行していった。
「さあ、色々お話をさせてもらいましょうか。最近の貴方の仕事のさぼり癖の件も含めて一緒に」
「そんなぁ! ご勘弁くださいなクオーツ隊長ぉ!」
同じ隊長格を手玉に取る自分の上司の姿に、黒葉は唖然となって何も言えなくなってしまった。
入間とクオーツが去ってすぐ、入れ替わるようにリドリア達女性陣五人が黒葉の元にやって来た。
「黒葉!」
「黒葉君!」
「皆、レジアさん、シャウさん……どうにか、音尾さんを魔の手からは救えた……のかな?」
黒葉の締まり切らない台詞に、女性陣は全員ずっこけかけてしまう。
「何よ、その中途半端な言い方」
「アハハ、ごめん。結果的には暴力沙汰を起こしてしまったから」
「いいですのよ、それで」
「え?」
レジアからの返答に黒葉が彼女達を見ると、シャウも含めた二人で話を進めた。
「大方の話は分かってますわ。私達の尊敬する小隊長をそんなひどい目に遭わせようとする奴など、誰であろうと許せません。一発殴って貰ったと聞いて清々しましたわ」
「レジアさん……」
「そうだよ! アタシ達だって、多分同じことをしていたと思うから。代わりにやってくれたってだけ」
「シャウさん……」
二人からの言葉に黒葉の気持ちが少し楽になった。そんなとき、後ろから声が聞こえて来たのだった。
「とはいえ、勝手な行動をしたのは事実ですよ」
場の全員が静まり返った。いつの間にか真後ろに移動していたクオーツの存在に恐怖を感じてしまう。
「く、クオーツ隊長?」
「疾風隊長は……」
「お話なら済ませましたよ。ちょ~とだけ、キツイ言葉を口にしてしまったかもしれませんが」
「ちょっとだけ……」
「ええ、本当にちょ~とだけです」
ほんの少しながら闇を抱えた様子で言葉を口にするクオーツに、その場にいる他全員が口を閉ざされる。
沈黙した状況下。出来る事ならこのままこの場から逃げ出したくなった黒葉達だったが、そんな彼等の身上を見透かしたかのようにクオーツが語り掛けて来た。
「皆さんもまた、お話することはたくさんありますからね。ね!」
「は、はい……」
結局この日、黒葉達は音尾を救出するまで以上の時間をクオーツとのお話に費やすことになったのだった。




