PURGEー88 醜悪!!
突然黒葉が部屋に飛び込んできた事態に、音尾も精道も大きく驚いた。
「お前は誰だ? どうしてここにいる!?」
「春山君……」
困惑する精道に、隣にいる音尾が呟く。精道は彼女が口ずさんだ名前から、目の前の青年の正体に勘付いた。
「春山……そうか、団体戦で賭けの商品になっていた奴か」
黒葉は部屋の中に音尾の姿を確認し、反射的に声を出していた。
「いた! 木花さん。俺が当たりを引き当てたって事か。でも……」
黒葉は同じ部屋に精道がいることに罰が悪い顔になっている。欲を言えば音尾単独での発見、からの救出が理想的だったのだろう。
実際、精道は黒葉に対し早速敵意を向けていた。
「この女が求めていた男。ここに来たのは私情か? いや、私情だけではここまで辿り着けないな。引き当てたって事は、ここに来たのは偶然か」
精道は音尾から離れて立ち上がり、寝室の後ろのある襖を広げる。襖の奥には棚があり、そこに鞘に収まった達が一つ、用意されていた。
精道は太刀を手に取りつつ振り返ると、黒葉の顔を見て問いかける。
「お前だけの単独犯ではないな。首謀者は? 仲間は何人だ?」
「教えない」
黒葉はあくまでも口を閉ざす。精道は彼の返答に少し口角を上げていた。
「そうか、分かっているようだな。これが下手すれば、御伝流と次警隊で対立を生んでしまいかねない事態であることに。
だからあくまでプライベートを装う。言い訳作りは結構だが、生憎俺達は夫婦の営みを先んじてやろうとしただけだ。お前はそこに無許可で突撃した。どちらが黒かは明白だろう」
精道は太刀を鞘から引き抜き、刃を光らせて黒葉に睨みつけた。
「つまり、ここで俺が君を叩きのめしたところで、何の問題もないわけだな!」
精道は前に飛び出し、躊躇なく黒葉を切りつけにかかった。
「<御伝流 牡丹>!」
精道は太刀を振り下ろすも、その攻撃は団体戦で音尾が見せたものよりも速度は遅く、初見の黒葉でもあまり苦も無く回避することに成功した。
(脇に隙がある。ここに!)
黒葉は太刀の振り下ろしで隙が出来た精道の左脇腹に手を伸ばした。だがこの行動を見た音尾は黒葉に叫んだ。
「ダメ! 罠よ黒葉君!」
音尾の言葉は一足遅く、黒葉は突如見えない壁にでも阻まれるように、手の動きが止まってしまった。
「え? なんで……」
黒葉が困惑している間に、逆に達から手を放した精道の右手が触れられた。
「触れて発生の異能力なんだな。こっちにとって都合が良い」
直後、黒葉は突然自身の全身に重りを付けられた感覚に陥り、その場に手を突き、四つん這いの姿勢から動けなくなってしまった。
「なんだ、突然身体が重く……」
「急に重りを付けられたら、対応出来る生物はそうはいないだろう」
起き上がれない黒葉を横目に、精道は余裕の表れか、床に落ちた太刀を拾いながらゆっくりと立ち上がる。そして身動きの取れない黒葉に対し、その刃を突き付けた。
「ましてや、刃物を回避する余裕なんてとてもない!」
黒葉の喉元を狙って振るわれる精道の刃。黒葉は迫る刃物に危機を感じ、偶然からか更に倒れることによって紙一重で回避した。
だがこんなものは気休め。。寧ろ次の一撃を回避する余裕がなくなってしまった。
(重い! 何かが身体に張り付いているようだ……)
自身の身体の異常な重さに起き上がろうにも身体が動かない黒葉。音尾は彼の姿を見て伝えようとした。
「春山君! その人の異能力は、触れた相手の身体に!」
「黙れ!」
音尾が精道の異能力について黒葉に伝えかけたその時、彼女の身体も重くなり、口に塞がれたように閉じて動かせなくなってしまった。
「くだらないことを。お前は俺のおもちゃなんだ。黙って奉仕だけしていろ!」
抵抗の出来ない黒葉を余所に言いたい放題の精道。黒葉は彼の音尾に対するあまりに失礼な言葉に眉間に血管が浮かび上がった。
「お前……木花さんのことを、そんなふうに!」
何とか視線を上げて睨みつける黒葉に、精道は鼻で笑って返答した。
「何だ? 高々子を孕ませるための存在に気を遣えとでもいうのか。冗談じゃない。血迷ったジジイが隠居した今、御伝流は俺のものなんだ。
俺のものを習った奴らもみな俺のもの。どうこうしようが俺の勝手だ。ま、こんなくだらない剣術、本当はどうでもいいんだがな」
「どうでも、いいだと? お前は御伝流の後継者なんだろ?」
黒葉の声色にますます怒りが籠って来る。これに精道は調子に乗るまま言葉を続けた。
「あ? あぁ、後継者様だ。だがこんな技、異能力も使えない雑魚がしがみつく為のものだ。俺のような異能力という才を持つ奴からすれば、実にくだらない、ゴミのようだ」
精道の口から次々と吐き出される御伝流への心無い罵倒の数々。全てを近くで聞いている音尾は、そのあまりに醜悪な性格に。
「ふざけるな……」
精道は近くから聞こえてきた声に顔を向ける。すると倒れて動けないはずの黒葉が、殺気立った目で精道を睨みつけていた。
「ふざけるな! お前が、お前なんかが御伝流を……木花さんの努力を、笑うな!」
「負け犬はよく吠えると言うが、本当らしいな」
精道は太刀を再び構え、黒葉の真上の一に立つ。振り下ろせば首を飛ばしかねない位置だ。
「床に這いつくばっている奴が、何を言おうが意味ないんだよ!」
「春山君!」
精道は音尾の声も一切聞かず、動けない黒葉の首を飛ばそうと太刀を振り下ろした。
血飛沫が飛ぶ。黒葉の首から……ではなく……
「ナッ!」
起き上がり、太刀の刃を握り締めている黒葉の右手からだった。




