PURGEー85 道場!!
入間の手引きもあり、問題なく道場に入ることが出来た黒葉達一行。扉を開けてくれた女性は玄関にて礼をし、挨拶をしてきた。
「ようこそお越しいただきました、入間隊長。私はこの道場の門下生が一人『我部 羅花』といいます。縁談のお祝い、ありがとうございます」
「お世辞の挨拶なんて別にいいのよ。それで、当の結婚するお二人さんが何処にいるの?」
入間の問いかけに、羅花は頭を上げて素直に答える。
「精道様と音尾さんでしたら、二人の共こちらのおられます。案内しましょうか?」
「ええよ、大丈夫。ここについては前から知っとる。間取りについては頭に入っとるし、何処にいるのかの予想はあるんで」
入間が羅花の誘いを断ると、黒葉達に手招きをする。黒葉達も声のない指示に従っている間の後ろをついて行った。
入間は自分で言っていた通り、道場の中を進む足に全然迷いがなかった。黒葉達もおかげで前方にのみ集中して気を引き締めることが出来ている。
最も、当の入間は細かく視線を動かし、何処か違和感を感じていた。
(縁談の最終打ち合わせがあってもおかしくないはずなのに、道場内が静か過ぎる。どうにも気持ち悪いな)
そうこうしている間に一行は道場の一番奥、一番広い稽古場の襖の前に足を止めた。
「ここにいるんですか?」
「ここの坊ちゃんはとは前会った事があるからな。正直分かりやすいボンボン気質。しきたりとかはどうでもいい感じで、こういう広い間でだらけとんねんやろ。
まあ前はしっかり鍛錬しとってんけど、色々あったからなぁ」
罰が悪そうな顔を浮かべて頭をかく入間。だが今はそんなところではないと、彼女は気持ちを切り替えて襖に手をかけた。
「失礼させてもらうで!」
入間は躊躇なく襖を広げ、そのままの勢いで稽古場の中に入って行った。
黒葉達残りの面々も入間に続いて稽古場に入る。しかし彼等はそこで早速驚くことになった。
「これは!」
黒葉達が入った稽古場には、見渡す限り何処にも人の姿はなく、畳と襖が広がっているだけだった。
「誰もいない?」
「疾風隊長の予想が間違っていたのでしょうか?」
「いや……」
困惑する黒葉達に対し、入間は一人だけ驚きはせず、その代わりに目つきを鋭くさせて何かを察して苦い顔を浮かべた。
直後、稽古場の周りにある襖が全て開き、そこから道着を着込み、太刀を腰に携えた男女が次々と現れ、入間達を取り囲んだのだ。
入って来た入り口も、太刀を持ってきた羅花によって塞がれ、一行は完全に囲まれてしまった。
「人がいっぱい! それも皆武器を持ってる!」
「てことは……」
「嵌められたか」
大勢の門下生たちを代表し、羅花が一歩前に出て黒葉達に口を開く。
「精道様から、縁談に際し疾風隊長は反対するだろうと事前に指示を受けていました。貴方が次警隊としてでなく、あくまでプライベートで来ている事も予想済みです。
隊員を引き連れて来た事には驚きましたが……この数、どちらが優勢かは明らかです」
羅花は太刀を鞘から引き抜いて両手に持ち、戦闘再生の構えを取る。他の門下生たちも次々とこれに同調し、彼女と同じように武器を構えた。
完全に四面楚歌の状況。黒葉達が何処から対処すべきなのか汗を流して緊張する中、入間は羅花に対し問いかけた。
「精道の奴か……二人は今何処に?」
「教えません。そして貴方達も、ここでしばらく倒れていただきます」
羅花の言葉には自分達を奮起させるためのものにも思えた。口では自信満々な雰囲気を醸し出すものの、やはり次警隊の隊長格を目の前にしていすくむ気持ちが、心の何処かにあるのだろう。
そんな羅花達に、入間は別の質問を問いかける。
「この縁談、御伝流の師範はどう言っとんのや?」
入間が口にした『師範』という単語に、羅花が一瞬口元を震えさせる反応した。しかし彼女もそれを抑え、すぐに答えた。
「師範は、既に隠居なさっております。今は、精道様がここのリーダーです」
「そうかぁ……んじゃ、あの男の勝手って事やな。それに君らは立場上従わざるおえんと。ハァ……」
入間は思わずため息をついてしまった。そして次に少し落胆したような声を出してしまう。
「この道場も随分と腐ったもんやなぁ。私の知っているときは、もっと熱血で、時に師範を大事に思い、時に師範の言い分に反対してでも共に高め合う。そんな場所やったってのに……」
入間はその場で一度伸びをし、軽く息をついた。そして下がった顔を上げて羅花に目を向けた。その目つきは黒葉の知るクオーツのものとはまた違う、軽く目に映っただけで恐怖を感じさせるものだった。
目を見た門下生のほとんどが反射的に数歩程足を後ろに下がらせてしまった。
「ホント……お前ら全員、ちょっと性根を叩き直させてもらうから、覚悟しい!」
入間の声色が変わり、門下生はもちろんの事、彼女の近くにいる黒葉達ですら冷や汗を落としてしまい、首にナイフを突きつけられたような気持になってしまった。
次警隊、二番隊隊長の実力が、この目で垣間見えようとしていた。




