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PURGEー84 精道!!

 場所は変わり、黒葉の出身地である『超能力の世界』の中にある、敷地の広い和風の屋敷。音尾が育ち、武術を学んだ『御伝流(がでんりゅう)』の道場だ。

 音尾は今、この道場の中に帰還し、自身を呼びつける師範の元に向かっていた。襖の前につき、正座を取って早速声をかける。


「失礼します」

「入れ」


 許可を受けた音尾は正座のまま襖に手を引っかけ、ゆっくりと開いた。襖の奥の部屋には、一人の男性。礼儀正しい音尾とは打って変わって自堕落にポテトチップスを食べ、畳のヘリの上に胡坐(あぐら)を書いている肥満気味な人物がいる。


 音尾はマナーを守って和室に入り、男の目の前に正座する。男の目つきは何処かしたたかで、音尾の身体を舐め回すように見ているように思えた。


「来たな音尾。約束を守ってくれたようで、嬉しいぞ」

「はい、坊ちゃま」

「その呼び方はよしてくれ。もうすぐに俺達は夫婦になる。『精道(せいどう)』と、名前で呼んでくれよ」


 音尾が対面しているこの人物こそが、御伝流(がでんりゅう)の後継者にして音尾の縁談の相手『御伝(がでん) 精道(せいどう)』だ。

 精道は手に持っていたポテトチップスの袋を畳に置き、音尾に語り掛けて来た。


「お前としても飛んだ巻き込まれ事態だろうな。本来ならば俺よりよっぽどいい教え子がいたはずなのに、あの事件があったせいで、行方不明になった」


 精道が思い返していたのは、御伝流(がでんりゅう)随一の門下生に起こった事件についてだ。音尾も思うところがあるのか、悔しそうな表情を浮かべる。


「おかげで現状、御伝流(がでんりゅう)を最も使いこなすのは、門下生でもなかった七番隊隊長になってしまっている。

 奪われた権威を取り戻すためにも、実力のあるお前と本家筋の俺。二人が力を合わせる必要がある。そのこと、分かっているな」

「もちろんです、精道様」


 音尾の返事に精道は口角を上げ、本題について言及した。


「よろしい。式はもう翌日だが、それ以上に跡継ぎの存在が大事だ。だから音尾、分かっているな?」

「……はい」


 音尾の返事に少しだけ間があった。だが精道にとっては彼女の意志を気にしている様子は大してなかった。


「今間の次警隊の仕事で疲れてしまっただろう。とりあえず今は休め」

「はい。失礼しました」


 音尾は話を終え、入る時と同じように礼儀正しく部屋を後にした。

 一人残った精道は、再びポテトチップスの袋を手に取り、分かりやすくにやけながら再び食べ始めた。


(いやいや、俺にとっての思わぬ転機があったもんだ。

 ()()()が行方不明になった事で親父はやる気をなくし、理由を取り繕う事も出来た。もうじき、あの女が俺のものになる)


 精道は口元に付いたお菓子のカスを舐め取るように舌なめずりをした。


(あった時は単なるチビガキだったが、顔も体も一級品の上物になったもんだ。アイツの全てが、俺の手に……グフフフ……)


 音尾の前ではそれっぽい台詞を並べたが、精道は本心では御伝流(がでんりゅう)の事など考えてはいなかった。同情の状況悪化を利用し、美女に育った音尾を我が物にしようとしていたのだ。


 道場に残っている誰もが、精道の企みに気付かないまま縁談の話が進もうとしていた。

 だがこの日の夕方、この道場の前に足並みを揃えてやって来た一団がいた。


「ここが、御伝流(がでんりゅう)の道場。結構広そうだな」

「広い? うちの屋敷に比べたら全然ね。ねえ、レジア」

「ええ、別荘ほどもないですわ」

「二人共、それって価値基準がずれているんじゃ……」

「レジアちゃんの言うことにケチを付けるつもり!」


 リドリアとレジアのお嬢様事情にシャウ以外の他の面々が微妙な顔を浮かべてしまう。

 だが一人後ろにいた人物の声に、黒葉達はすぐに真剣な表情に戻った。


「ここに来んのも久々やなぁ。あの騒動で問い詰めた以来か……なんか気まずいもんがあるなぁ」


 黒葉達が見た入間の表情は、ほんの少しながら暗いものが見えた。


「疾風隊長?」

「いや、なんでもない。今はぼやぼや考えている時間もないからなぁ」


 表情を真剣なものに戻した入間は、小隊二つよりも前に出る。


「皆分かっとると思うけど、これは次警隊の仕事やないで。私が引き連れてやって来た急な客人。あくまでプライベートやで」


 念を押すように言って来る入間に、黒葉達の身が引き締まった。

 普通に考えれば、この行為は御伝流(がでんりゅう)と次警隊の間に歪みを生み出しかねない行為。だからこそあくまで仕事ではない事を強調したのだ。


「分かってます」

「疾風隊長、連れてきてありがとうございます」


 信乃が頭を下げる中、入間はまだ頭を下げるべきではないと手を振った。


「社交辞令もええわ。私としては、このままここの連中が腐っていくんは、見たくないだけや」


 入間は一人近付いてインターホンのスイッチを押した。


「『疾風 入間』です。縁談のお祝いを持ってきました」


 次警隊の隊長が押しかけて来た。向こうも下手に無下に扱う訳にはいかず、向こうも扉を開きにやって来るだろう。

 黒葉達も入間に連れられたという体で、道場内に入って行く算段だ。


「はい、ただいま扉を開けます」


 道場の中にいる人から返事が来た。そして扉は開き、女性の案内で黒葉達は道場の中に入って行くのだった。

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