第三十七話 妖精騎士アイギスさんの帰ってきた平穏と新たな恋愛事情(2)
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さっさと用件を終えアイギス宅からお暇する。
子供みたいな恋愛事情に深入りする趣味嗜好をジール・ジェラルダインは持ち合わせがない。あったら自分自身に幻滅するぞ。
ただ、不幸なことに、やれ、と何処ぞの幼女に言われていてな。コレもアイギスの家庭を円滑円満にするためとわざわざ自ら手を打っている次第だ。
……どちらかというとアリーシャのご機嫌取りだがな。まぁアイギスやシャル森祭司殿はついでだな。
「さて、これで取り敢えず布石は打った。……後はどうすべきか、なんだがな」
今や公都となったヴェスタの街をぶらつきながら少し思案に暮れるとも。
何も、緻密な計画があって人様の色恋沙汰に首を突っ込んでる訳ではない。
シャル殿からでは埒が明かなそうなのでアイギスにぶっちゃけたが、あちらも二の足を踏むようだ。
正直……私としては少々以外なくらいでな、来るもの拒まずの精神でハーレム入りさせてると思いきや男女の別が気になると来たからな。
「別に男だ、女なぞそれこそ嗜好の問題だと思うのだが……で、聖女殿はなぜ私の後を付けて来てる?」
背後から気配を消して付いて来る教国の至尊の聖女、アステリア・ウィルミントン。
魔大公アスタロッテのお気に入りだ。むしろ以前はアイギスより気に入られてたのではないかな、結構ちょっかいを出されているぞ。ただ、アイギスよりは無難に捌いたようだが。
そのアステリアは私がやっと気付いた、という体で悪びれもせずに近付いて来た。
「別に付けてた訳ではないんですよ。思案気だったんで遠慮して話しかけるタイミングを探してたので」
「それは申し訳ない。で、御用は?」
「ジェラルダインさん、私にシャルさんを下さい!」
と、頭を下げて来る年頃の聖女殿。
おっと、単刀直入にブッ込んで来る。
アイギスとの話を密かに聞いてたのは把握してたが、まさかそんな事を口走る性格だとは私は思って居なかったな。
だが、こういった連中の相手に私は慣れきっている。大体、マスティマだとかがその筆頭だな。
私は狼狽えもせず、微動だにせず気軽に返答したとも。
「私はシャル殿の保護者ではないのでな。それを伝えるべきはアイギスだぞ?」
「…………冗談とか通じませんね。それ本当に伝えると殺られそうなんですがね」
「それだけ大切ということだろう。少しは打ち解けて来たようでなにより」
「ケンカするほど仲が良い、って関係でもないんですよ。……で、シャルさんとアイギスさんをくっつけようとしてるみたいですけど、上手くいくんですか?」
「上手くいくか、というよりもこれは想いを告げさせた方が良いな、と。シャル殿が成長期を迎えてないのはお解りと思うが?」
「……いえ、見た目的にはそうですが……? え?」
三百年以上生きる魔女でもハイエルフの成長過程の知識はないらしい。と言っても、聖魔帝国でも調べて把握したのはごく最近な訳だが。
「一般的に、妖精人が人間より成長が遅いのは霊体に肉体が影響を受けているのがその原因。ハイエルフともなればこの"心"の問題というのが如実に肉体に反映されるらしくてな」
「……なるほど。では、シャルさんは無意識的にはまだ子供なんですか? 結構しっかりした方だと……いえ、聖人級の信仰系魔法の使い手の方では……?」
「貴女もな、至尊の聖女アステリア・ウィルミントン。信仰心の高さが、必ずしも肉体や心の成熟に繋がらないのは身をもって示していると思うが?」
「むぅ……」
と、伝えると何かの嫌味かと思ったのか黒髪の美人の顔に苦々しい物を浮かべるアステリア。
これは少々伝え方が悪かったか、と思う。
が、フォローする前に気分を害した、という顔して返答が来る。
「すみませんね……成長が余りなくて。信仰心も念じれば通じるみたいな所が有りますからね。……聖ロクスも生前はだいぶやんちゃな人物だったと聞いてますし」
「残念ながらロクス本人に会った事はない。これでも歳は万も越えん……が聞く限りに於いてはそのような人物だったらしいな」
「そうですか……。偶に生前のロクスを知る人からは良く似てると言われるんですがね……」
「まぁ男女の違いは有るが面影は有るのでは? 映像記録からの断片的な印象だがな……」
私の返答に片眉をあげて訝し気な表情をするアステリア。どうやら探りを入れられてるようだな。ただ、肝心の、探られる理由が解らんのだが。
「……で、用向きは?」
「聖魔帝国がなにを考えてるのか……ですかね。特にこのハーレム環境にブチ込まれた件に付いて釈明を聞きたい」
と、真顔になってしかも距離を詰められる。
困ったものだ。アリーシャ以外に詰められたことなど早々ないのだがな。
まさか、天使王と魔大公の余計な趣味混じりのちょっかい。
それが、真実と告げる訳にもいくまい。
真実は常に残酷だ。それをそのまま告げるにはこの私としても忍びない。とても一国の君主とその娘が仕掛けてるだとか口が裂けても言えん。
「それは魔大公殿下の御一存、と聞いているのだがな。聖魔帝国にすれば先の紛争でのロクス教国との落とし所を探る為の貴重な人質だ。それ以上でも以下でもないと聞いているが?」
「私を弄んで愉しいんですかね、魔大公だとか天使王は。……魔女王陛下もそういうご趣味なんです?」
……なかなか感が鋭くて困る。ほぼ当てて来ているぞ。真剣な様子を見るに、おそらく想像してる所にズレがあるが的は得ている。
「まさか。陛下はそういうお戯れは私の知る限りに於いては為さった記憶はないな。……少々魔大公には甘いが」
「甘やかすのも良い加減にしてくださいませんかね。おかげで私の情緒が毎晩、悲鳴をあげてるんですよ……聖魔帝国は私をあのハーレムに加えようとか思ってませんよね?」
「国家ぐるみで、とは聞いてないな。魔大公の私事だ」
「と、なれば抗議したらなんとかなるんですか?」
「拝聴はするが……貴女の身柄は〈妖精連盟〉預かりで、聖魔帝国が預かってる訳ではないからな、アステリア殿。……私が動くのは条件次第と言っておくか」
「……条件?」
余程の困りものらしい。
条件、と伝えられて黒髪の美人が怒らずに眉根を寄せるからな。普通はその境遇で条件とか言われたら怒りそうなものだが。
まぁ、連中が仕込んだ児戯みたいなものだが、年頃の娘が喰らうと精神的なストレスになるものらしいな……
仕方ないので助け舟を出しておくか、と思った次第だ。但し実際に助けになるかは解らん。
「なに、シャル殿の件で。協力してくれるならアイギスやアスタロッテに口利きして生活環境をマシな程度にはしよう」
「……協力する前に、一つ尋ねたいんですが、シャルさんをアイギスさんにくっつけて……聖魔帝国は、魔女王や天使王は何か利益とか有るんですかね?」
「いや、ただのお節介だ。うちのアリーシャのな」
まさか魔大公も、とは言うまい。アスタロッテは善人には優しいくらいだからな。
ま、大概の奴らは魔大公の御眼鏡に叶わないのだが……大体捻くれた対応をされるな。
「お節介……あの幼女さんの……」
「ハーレム計画もヤツ発案だ。何もおかしいことはない」
「強いてあげるなら頭……いえなんでもないです」
「で、乗るか反るか、だ。うちのアリーシャが理解されないのはいつもの事だが、アレでも天使王のお気に入りでな。……やんごとない御方の指図である以上、私としてもそれなりに手を焼くのさ」
正気か? と表情の動きだけで解る顔をする黒髪の聖女殿。腹芸だとかは得意ではなさそうだな。
結局、私の事をジト目で睨んだ挙句――
「ま、まぁ背に腹は代えられませんか……。仕方ないので協力してあげましょう……別に必ずくっつけなきゃいけない訳でもないんですよね?」
「できればくっつけたいがな。最悪の場合でも関係の悪化は避けたい、となればくっつけるのが無難だろう?」
「それはそうですが……何か案が有るんですか?」
「それは今からだな……というより経過を観察して対応を決めたい。そしてアステリア殿の役割は……」
「アイギスさんとシャルさんの接触の具合を報告しろ、って事ですかね」
「御名答。申し訳ないがアイギスに付いておいてもらおうか……シャル殿の反応も可能な限り報告してもらいたいな。手を打つなら追って指示する、そんな具合だな」
「なるほど……恋のキューピット役ですか……」
と、黒髪の聖女が街中で明後日の方向を向いた。
……マズいな。少しばかり嫌な予感を覚えたぞ。
どうもアステリアはアリーシャと似たようなタイプな気がするからな。こう、余計な事を仕出かしそうなのが。
然しながら、賽を投げた以上はどうにもならん。
……斯くして私とアステリアの、余計なお節介が始まった訳だが……
それこそ恋愛の経験もないヤツらが手を出したのが間違いだったと後日知る事になった。
残念ながら3/22日には更新は無理であった。
(´・ω・`)〈 次回は4月までにはなんとか的にする感じでここは一つお許し頂きたいらしいぞい。




