第三十二話 妖精騎士アイギスさんとハイデリアンの獣精王ボコスカ大作戦(6)
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幼女アリーシャちゃんを載せた丸太が猛進する獣精王ケルヌンノスの背中に激突、丸太はその衝撃で粉々に。
音速で突っ込ませたので防御魔法を掛けていても、獣精王の魔法防御に抵抗されたようですね。
防御魔法と言えど魔法には違いないので物理法則に影響するようなら干渉し合うんですよ。
私達はその様子を、目玉姿の智天使に依って宙空に映し出された映像で、森の遠方から見てました。
位置的には森の外周らへんで私たちは戦ってたんですよ。それがあのケルヌンノスが走りまくって、丸太が追いつく頃にはアイギス神の居る中心部近くに迫ってました。
「これ、マズくありません? アイギス神に近すぎますよ。足留めしても、ヘタな事すれば攻撃が彼女に届きかねません」
「その前に、アリーシャちゃん何処行った。映像に映し出されてないが……ん?」
次の瞬間には、赤ん坊が大きくなったような姿、金髪碧眼3歳児くらいの幼女がふさふさの毛皮にしがみついてるシーンが映し出されます。
映像がズームアウトして獣精王の背中、首元近くに飛びのってるのが解りました。
丸太が激突してノミみたいな幼女が飛び付いても、獣の王の突進がまるで止まりませんね。
「あら、アリーシャさまベストポジションに張り付きましたね」
魔大公の愉しそうな発言に、思わず私は呟きましたよ。
「ベスト?」
「まぁ、ご覧ください。お見逃しなく――」
そして見てるとアリーシャちゃんがパーカーみたいな白い袖つき外套をはためかせながら、姿勢を変えるんです。
獣精王と背中合わせになり、幼女が満面の笑みを浮かべるのが見えました。
状況だけ見れば自殺行為なんですが。
ケルヌンノスの巨体から考えると高層ビルより高い位置に居ますからね。まぁ、落ちても大丈夫そうですが。
――で、ここからなにをするのかと固唾を呑んで私とタブ・ルーズさまは映像を見守って居ましたよ。
すると幼女は背中合わせにグッと獣精王を引っ張り……?
引っ張る? 私、アステリアは眼の前の映像で起きてることがすぐには理解できませんでした。
そう、理解に及べば引っ張ってたんです。地に足も付けない幼女が。
映像がさらにズームアウトすると良く解りました。
獣精王の足が、森を薙ぎ倒してた足が宙空に浮かぶさまを。
『ぐ? があぁあぁあぁあぁ』
そしてそのまま半円を描いて山のような巨体が半回転、二つの月が煌々と夜空を照らす闇夜に、幼女が獣精王を投げました。
「……………………は?」
「いえ、見ての通りアリーシャさまが投げましたよ。方向的にこちらに飛ばしましたね」
「……………………え?」
「アステリアさま、見てる映像は現実ですよ。ほら、実際に獣精王がこちらに向かって来て夜空に舞ってますよね?」
確かに星が輝き月に照らされた夜空に巨大な獣がこちらに吹っ飛ばされてましたね。
物凄い唸り声上げてますよ、狂ってる獣精王が咆哮を上げ、結界で封印された夜空中に響き渡ってます。
確かに空に投げられたのは現実です。
「いえ、投げれる訳ないでしょう……体格差ぁ。ノミが人間投げますかね。質量的にもそれくらいの差をどう覆したんですか……」
「ふむ……説明が必要だろうか?」
幼女が、幼女がこの場に戻って来ている!?
私はすぐに空を見上げましたよ、まだ獣精王は空高くこちらに落ちてきてる途中でしたよ!
デタラメと聞いてましたが、何もかもでたらめ過ぎる。転移魔法が艦隊戦の〈次元封鎖〉の影響で使えないのにどうやって!?
「あら、アリーシャさま……お早いお帰りで」
「うむ。丸太戻りしようと思ったら妖精の小道を見つけたのでショートカットしてきた」
「あ……成る程。それで」
エルフだとか妖精族の住む森にある、空間を歪める道ですね。意図的に作られてる場合もあれば自然発生もするとか。この森ならあってもおかしくは有りませんでしたか。
「ただ、入ったら良く解らないので瞬間転移して抜け出して来た。アリーシャちゃんにもついうっかりがある」
私の納得感が幼女のついうっかりでどっか行きましたよ! 人の想像を裏切らないと気が済まないんですか、この幼女。
「……転移魔法が使えないのにどうやって瞬間転移できるんですか」
「星幽界を渡らずに、次元をショートカットするのだ。妖精の小道に出来て、なぜこのアリーシャちゃんにできないのか。信じるのだ、この幼女を」
デタラメ過ぎる。
想像の斜め上を行くデタラメさです。破天荒ってレベルじゃありませんよ。しかも妖精の小道に迷い込んだら簡単には抜け出せない筈なんですがね。
「で、どうやったら獣精王を投げれるんです? 一応それも訊いて置きましょうか……」
「投げ技を極めるのだ。人型なら大体投げれるもの。パワーでは無い、技を磨くが良い」
「どんなに技磨いても投げれませんよ。体格と質量差が開き過ぎて! 磨かれた技はもはや概念魔法とも言いますが、どれだけ究極を極めてるんですかね?!」
武芸の達人の技は純粋な物理法則を超える一撃を放つとも云われてますが、これはもう魔法含めた原則をも越えてますよ。
相手は"神"。
究極の概念体に通用する投げ技とか神域じゃないですか。てか、神域でもできるんですかね、私はできませんよ!
「格闘と言えば関節技と投げ技は王者の技……ん〜打撃主体でもやはり投げ技は必須、覚えればより良い感じになるのだ。アステリアちゃん」
「……私が格闘系だと思われてません?」
ですが、タブ・ルーズさまが胡乱げな目をしてました。
「いや、どう考えても格闘系聖女じゃろう。武僧みたいな……」
「違うんですよ。結局、近接戦闘するんですから殴ったり蹴ったりした方が魔法を使うより早いんですよね。モンクの業というより魔法拳士と云うのが実情は正しいので、格闘技みたいのは見様見真似なんですってば」
「……ふむ。なら、まだ伸び代がある。……良い、このアリーシャちゃんが聖天流格闘技の秘伝を教える時か……」
なんか素養を見出されてましたよ。
ですが武僧で女性の方とか居ますが、格闘系と付く聖女は聞き及んだ事ないんですね……え、私の事なんですか? 言われたことないです。
「あら、それは愉しそうですわね。ステゴロ系聖女も有りですわよ」
「冗談言ってる場合じゃなくて、そろそろ獣精王が落ちて来ますよ。準備した方が良いんじゃないでしょうか」
「うむ、起き上がり攻めこそ投げ技の極意。容赦なく行くが良い――む」
すると、獣精王が落ちてくる途中で無数の矢が獣精王目掛けて地上から放たれるんです。
「フ……さすがフリュギアちゃん。対空攻撃とは、やる。……良い。このアリーシャちゃんも魅せよう」
そしてぱちんと小さな指を鳴らすアリーシャちゃん。――突如、空の獣精王目掛けて光の線が何千となって汎ゆる方向から奔り、貫きました。
――無詠唱! 一切の予備動作なしで魔法攻撃?!
「久々に見たオールレンジ攻撃じゃの……詠唱そのものを省略して魔法行使の結果だけを発動させる。……相変わらずとんでもないのぉ……」
聖騎士タブ・ルーズさまが驚嘆するように、速すぎます。魔法を使う時の魔力の流れが読み取れない。もはや魔法行使の常識を打ち破ってますよ。
何より貫通しているという事は攻撃が無効化されずにダメージを与えているということ。
アリーシャちゃんの実力恐るべしですね。
「これが三大聖哲最強の力――天使王聖下の御加護と混ぜると最強に思えますよね。アステリアさまも如何でしょうか?」
「こんな時に布教だとか勧誘しないでくださいよ……魔大公」
そして墜ちて来る獣精王。
地上に落下した衝撃で大地が揺れ動きます。――ですが、その大地が底が抜けたように灼熱のマグマに変わり獣精王が沈むんです。
「仕込みは上々……魔法の発動自体を隠蔽する事は不可能では有りませんよ? タブ・ルーズさま、いかがですか、こちらの手の内は?」
「とんだ意趣返しじゃの……。あれは煉獄のマグマかの……〈原罪灼熱〉じゃな?」
「フフフ。博識ですね。聖ロクス様も使ったと云う神話級魔法です。では、身動きできない間にボコスカ殴りましょうか……お見合いコースでも構いませんよ?」
「タブ・ルーズさま……本気でよろしくお願いします。いやですよね? 私が魔神王に娶られるの」
「火力出すのは苦手なんじゃがな……まぁ、やれるだけやるかの」
そして私たちの獣精王ボコスカタイムが始まります。
魔力の続く限り私は最大威力の魔法を撃ち続けます。朝日が出るまでがタイムリミット。
てか、撃ち続けて魔力が切れましたよ。
そう何度も神話級魔法を撃てるものではないですからね。
投げ技使ってアイギス神に向かおうとする獣精王を何度も投げ飛ばして元の位置に戻すアリーシャちゃんに応援されながら、手足を使って遂には殴り込みも敢行しました。
まさか、作戦名どおりに本当にボコスカ殴らないといけなくなるとか思わないじゃないですか。
魔神王とセッティングされるのは遠慮したいですからね。まかり間違って気に入られたらどうするんですか。(意識高い系ではありません)
てか、アリーシャちゃん、余力が有るなら応援するより魔法使ってくださいよ。
魔大公も騎士剣使わずに魔法使え!
どう考えても魔法攻撃系でしょうがアスタロッテ。露骨に手を抜くな。
私に補助魔法掛けて身体最大強化とかしてるより手数ですよ! ステータスが高いと能力の上げ幅も大きいとか、そんな戯言は要らないんですから。
ですがそんなサボタージュに会っても諦めません。
針のような攻撃でも一万回も刺せば人は死ぬ。
なんとか倒せるくらいまで削りきれば良いんです。
頑張れ、私!
そして遂には無心になって殴り蹴りつける、武僧のような心持ちで私は獣精王ケルヌンノスと戦い続けましたよ。
ちなみに魔神将達も削り切れなきゃ魔神王からお叱り喰らうらしく必死でしたね。
ですが、無情にも気づいたら陽の光が地平線の彼方から差し込んで来ました……ガッデム!(ちくしょう)。




