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ゲースマーハの群れから群れをたどること小一時間。
場所は荒野を過ぎ、深い森の中に入っていた。
途中に遭遇したゲースマーハの群れは、放っておいた。本体を倒せば地下茎で繋がるこれらの群れも消滅するので、相手にするだけ体力の無駄だからだ。
そして、遂に辿り着いた。ゲースマーハの大本に。
「ぅお……大きいんだな!」
鬱蒼とした茂みの中に巨大な植物が鎮座しているのを見て、アルが目を丸くして叫んだ。
「だだだだだれだぁあぁ~~~~?」
耳障りな音と共に、その巨大な植物がゆっさゆっさと動き始める。
「しゃ、喋った……!?」
幾重にも重なった巨大な葉が開き、赤黒く光るその眼が金髪の人間を見つけると、嬉々として雄叫びを上げた。
「エサだぁあああ。ごちそうだあぁああぁあ」
「低級な魔物じゃあるまいし、そら喋るだろうよ。脳みそは低級そのものだがな」
鍬に掛けていた荷物を下ろしながら、グルトがつぶやく。ゲースマーハの眼がぎろりとグルトの方に向く。
「ぬぁわぁんだとぉおおぉ~~。許さんん、おまえのほうからたべてやぁるぅ~~……えぅ?」
襲い掛かって来ると思いきや、グルトを見たゲースマーハの動きがピタリと止まった。やがて、ふるふると震えだす。
「お、お、おまえはぁああ~~~~」
「え? この魔物、あなたのことを知っているみたいですが!」
「俺は知らねえな」
そう言い切ったグルトに、ゲースマーハがばっさばっさと葉を揺らして怒り出した。
「おまえぇぇえ! よくもぉそんなことを言えたもんだなぁああぁ! あれはわすれもしねぇある夏の日……」
ゲースマーハの言い分をまとめるとこうだ。
昔、違う土地に棲んでいた彼は、とある冒険者一行にひどい仕打ちを受けたらしい。よく分からないが、その一行のうちの二人がケンカをしていて、よしそれならばゲースマーハを退治した数で決着をつけようと、その二人の冒険者の標的になったのが彼だったのである。そして、そのケンカをしていた一人がグルトだったというのだ。
ようやくグルトも思い出したらしく、したり顔で語り出す。
「あー、そういえばそんなこともあったな。あれは俺の余裕勝ちだったな。ま、それも当然だ。草引き勝負で農夫に敵うわけないしな」
「あのときは、よくもおでのこどもだちを殺したなぁああぁ! そのかず、数千んんん!」
「どうせまたすぐに生やすじゃねえか。よしこれで全部片付いたと思ってつい何日か前に草引きした場所見たら新たな芽が生えてやがるし、おまえら雑草はよ」
「おで、雑草じゃないぃい! まものだもんんんん!!」
「同じようなもんだろ。ま、とにかくあの時に本体のおまえは見逃してやったおかげで、いまこの新天地でまた地下茎を伸ばすことができたんだろ? 感謝されてもいいくらいなんだがな」
「するかぁぁあああ!」
グルトとゲースマーハの言い合いを見ていると、アルはどちらが悪者か分からなくなってきた。ゲースマーハに同情票、一票。
「おっと、危ない危ない」
このまま一人と一匹の言い合いを聞いているとうっかり魔物に味方してしまいそうなので、アルはこの辺りでグルトに声を掛けることにした。
「それでこの魔物、どうやって倒すんですか!?」
「子分の群れと一緒だ。根から引っこ抜く!」
「え!? こんな大きなゲースマーハを根っこから!?」
「させるかぁああああああ!!」
雄叫びと共に、ぐあっと圧がかかる。巨大な葉がものすごいスピードで伸び、こちらに向かってきたのだ。
「触れるなよ。ああ見えてよく切れる」
「~~~~!」
簡単に言ってくれる。でも、体のどこも欠けたくないので、アルは一生懸命に逃げる。
グルトの方にも、巨大な葉が襲ってくる。ギリギリまで葉を引き付けてからさっと脇に避けると、グルトの後ろにあった大木の幹にどーんという衝撃音が鳴り響く。
「よっせい」
大木に衝突して止まった一瞬の隙に、グルトは腰帯に挿していた鎌──そう、世界中の農夫が愛用するいたって普通の草刈り鎌だ──を巨大葉に突き刺した。
「ああぁあ、なにするぅ」
ゲースマーハは巨大葉を動かそうとしたが、大木に鎌で刺し止められていて動けない。
そうしている間にも、グルトが鍬を振り上げていく。ゲースマーハの根本に向かって、ざっくっざくと何度も振り下ろしていく。
「ま、こんなもんか」
鍬を地面に放り投げると、今度はゲースマーハに背を向けて立った。ゲースマーハの葉を一枚持って。
「~~~~かあぁあぁ!!」
何かを察したゲースマーハが、動く葉すべてをグルトの元へ総動員させる。それまで逃げ惑っていたアルは、引き返していく巨大葉を見て叫んだ。
「危ない! 何してるんですか、早く逃げ──」
しかしグルトは、自分のもとに集結しつつある巨大葉のことなどお構いなしだ。何度か深呼吸すると、力を込めた。
「ふンぬ!」
「う、そ」
アルはその光景を見て絶句した──ゲースマーハが宙を飛んでいる。
いや、違う。グルトがあの巨大なゲースマーハを背負い投げたのだ。
鍬を入れた部分からブチブチと根が切れて、背負い切った瞬間、すべての根っこが地面から飛び出した。
「ぐおおおおぉぉおお~~ん……」
地揺れと共に、土埃が舞い上がる。
地面に投げ出されたゲースマーハは、大地から切り離されては生きてはいけない。すぐにしなしなと萎れていった。地下茎で繋がるゲースマーハの子分の群れも、やがては萎れていくだろう。
呆気にとられたアルは、つぶやいた。
「た、倒した……」
(こんな大きな魔物を、たった一人で、易々と……!)




