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記憶は輪廻から外れる。  作者: *ラズ×ベリー*
序章
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序章。

 銀座と呼ばれる街に、画廊が在った。





 老舗と呼ぶに相応しい其の一画は、意外にも未だ若い店主が取り仕切っていた。何代目かは、伺ってはいなかったが、其処は問題では無かった。手腕が有れば、其れで良い。他に気にする肩書等は不要だろうと、そう思った。



 其の空間が好きであった。心地好い空気が存在していた。間取りも良い。趣と古くない新鮮さが共存し、高め合う、品の有る空間だった。店主の人柄だと思った。



 「如何ですか」


 若いが嫌味の無いスーツを品良く着こなした男が、声を掛けて来た。スタッフで在ろうと直ぐに思い、談笑した。


 「良い画廊ですね。空間の使い方が上手いです。」

 そう俺は言った。男は有難う御座ますと返した。


 「どうでしょう。絵はお好きですか。」

 其の男に質問された。画廊に入って来て実は絵画も芸術も嫌いだと、言ってみたくも有るが、そんな輩は居るのだろうかと、俺は思った。なので聞いてみた。

 「此処は『画廊』ですよね?此れ迄に、そういう客を接客された御経験が?」



 居たら面白いと思ったので、そう彼に聞いてみた。すると男は笑った。


 「まあ、私の経験では、幸いなのか未だ体験はして織りません。そうですね。もし、いらっしゃったら、どのような対応でお出迎えさせて頂くのが、良いと思われます?参考迄に、是非。如何です?」


 「……自分に聞きますか?……う〜ん。そうですね…。取り敢えず、何が好きか聞いてみたら如何です?酒が好きなら……酒の絵を、女が好きなら裸婦でも何でも『好み』の女をお進めしてみたら? 俺は裸婦画より、実物の其のモデルの方を、持ち帰るかもしれませんがね。」

 と、言ってみた。


 「と、言う『訳』で『いい女』が『描いた』作品を『集めて』いるんですよ。一周させて戴いても構いませんか?別に誘拐はしませんから。」


 と、言うと、彼は笑って、引き留めた事を謝罪して来た。『御案内致しましょうか。』と。


 「我儘ですが、『女』は『自分で』選びたいもので」と、笑うと、彼は承知致しましたと一礼いちれいと共に離れた。



 広い訳では無いのに、ゆったりとした空間だった。本当に『使い方』が上手いのだ。


 温度が変わる訳でも無いのに、温かい空気をやや堪能しながら、久々の日本を楽しんだ。大学を卒業と同時に、イタリアに行かされていた。断れなかった。語学留学の名目で、実際には、行けば何でも良かったのだ。居候先が父親の知り合い、『兄弟子』の処だった。そんなに外堀から埋めなくても、素直に行ったものを。


 逃げられない運命みたいな物が『重』い。建築家には好きで成った。父の影響は大いに在る。頼むから外堀をそんなに『埋めないで』くれ。



 常に在る自分の中の矛盾が、暴れ出してしまうから。流される様な慌ただしさの中で、家族以外のプライベートの連絡先は、たったの二件。留学前に女の連絡先は全部消した。向こうでの生活の中でもそれは同じだった。帰国は初めから判ってた。連れて来る気も着いて来る気も無い相手で、丁度良い。何時もそうだ。どうせ何も長く続かないのだから。


 『いい女』の『香り』は『絵の中』位の朧気な幽かな『残り香』で其れで丁度良いんだ。現実の女はどれも灰汁アクが強過ぎる。鼻につく香水の悪臭の様に、付け過ぎた其れが、行き場を無くした様に。


 香りが附属品おまけじゃ無く為る様に、主役を隠してしまう悪香あくしゅうなんて、御免フヨウだろうーー。





 其処に在ったのは、不要とは無縁の、『香り』だった。小さな絵だった。其の大きさで、何故、周りの『絵』を、圧倒出来るのか、



 素人の俺には解らなかった。其れを、買う事を決めた。


 先程のスタッフが気が付いた。此方からでは無く、あちらから、声を掛ける。


 其の絵が欲しいのだと、素直に申し出た。絵と、表題と、作者のメイだけ記された、存在感を隠そうと愚かな努力をする、其の、絵を。此れ以上誰も見れぬ様に。




 其れが、初めて其のオンナに出遇った日で、そして手に入れられなかった日の出来事だ。



 スタッフの男は、苦い笑顔で教えてくれた。『彼女』の手強さを。

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