第2話 4
「……信じる訳ないじゃん。バカじゃないの?」
淡泊に言ったハルカは冷静に、
「放して下さい先生」
掴む力は弱まったものの、ハイコはまだ放さない。
「じゃっ、じゃあ、エリザベスから言われたことも全部信じてない!?」
「だからエリザベスってなに?」
うんざりと言い放ったハルカは思った。そんなことより早く放せと。
「なにって、君が拾ったかわいいかわいいしゃべくる小鳥のことさ! あの子は君にいろいろとしゃべったのだろう? 私がヴァンパイアだということも」
ハルカは“あの小鳥”の寝言を思い出した。確かに“ヴァンパイア”という単語が出てきた気もする──が、出てこなかった気もする。
その前に、どうして昨日ハルカが小鳥を拾ったことを知っていて、しかもその小鳥がしゃべるということまでハイコが知っているのだろう。
「何も言ってなかったよ。ずっと寝てたし」
寝言のことはとりあえず置いて、相手が知りたがっていることを述べてみた。
「じゃあ、今朝あの時──教卓の中で言った時──。あの時君は私がヴァンパイアだということに微塵も気付いていなかったということかい?」
ハイコを見つめてこくりと頷くハルカ。気付いていなかったも何も気付く要素なんて何処にもなかった。どんなに頑張っても気付きようがないではないか。名探偵でも無理だ。
「そっ……ん、な……! ということは私は自ら……っ!」
ハイコは頭を抱えて悶え始めた。なにやら自身を酷く責めているようだった。
訳が分からずとりあえずため息をついたハルカは、
「どういうトリック使ったのかは知らないけど、さっきのイリュージョンはまぁまぁ良かったと思うよ。教師はやめてそっちにすれば? 本業」
「ト、トリック……。イリュージョン……。ハルカはクールに見えて実はおバカさんなのかい? ツンデレと見せ掛けて実は天然素材さんなのかい?」
ツンデレ? 天然素材? またよく分からないことを言い出した。そんなハイコを無視してさっさと歩き去ろうとしたハルカだったが、
「待って!」
腕をがっちり掴まれた。ハイコの指は細いハルカの腕を1周以上していた。「触らないで」振り解こうにもびくともしない。背は高いが決して体格がいいとは言えない体つきなのに、力はしっかりとあった。……ハルカの方の力が無さ過ぎ──というのもあるが。
突然ハイコが鋭い目つきで言う。
「相澤ハルカ。君のことを知る為に、まずは私のことを知ってもらおうと思う。その方がフェアだろう? エリザベスを引き取るついでに君のお宅へお邪魔させてもらってもいいかい? あの小鳥は普通の鳥ではないんだ。ハルカになら特別に、本当のことを教えてあげるよ?」
自分のことなど知られたくないしハイコのことも別に知りたくなかったが、小鳥のことだけは別だった。知りたい。そう思った。
小鳥の存在が、憂鬱な日常という名の地下室から出る為の鍵に思えたハルカは、ハイコを見つめながら小さく頷いた。
◆第2話◆
◆END◆