会議とこれから
ネーミングセンスの無さは許してください(笑)
ダンスパーティーができそうなほど、とてつもなく広い部屋の真ん中に、楕円形に作られたテーブルがぽつんと置かれている。
椅子の数15個。
人や魔物、動物を含む14名が、座席に座っていた。
ゴーン――――ゴーン――――
会議の始まりを告げるベルが鳴る。
「皆様、この度はお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。お分かりかと存じますが、そちらの空席には、オークのゴーウィン様が座っておられました。しかし、作戦は失敗し、奴らに連れていかれたそうです。恐怖を脅かす鬼木田がいない、今しかチャンスはありません。皆で力を合わせて、何としてでも、かつての豊かな領土を取り戻しましょうぞ。」
会議の主催者の言葉に、黒いマントを羽織った、女性とも男性とも言えないような、美しい顔をした者が反応する。
「それならば、次は私めが行ってもよろしいか?新しく就任した姫とやらは、『殺戮』が苦手のご様子。そんな甘い考えでは、この弱肉強食の世界では、生きてゆけませんと、教えて差し上げねば。格の違いを見せつけて参りましょう。そして、かつての豊かだった領土を、手土産に戻って参ります。」
「おぉ、何と頼もしい。それでは、其方にお任せしましょう。期待しています。」
「御意――――」
…………あれから、どのぐらい経ったのだろう。
気が付いたら、私は鬼ヶ島のお城にあるベッドで寝ていたらしく、目を開けると、見覚えのある天井が見えた。
まだ、思考がぼんやりしている。
コンコン……
「失礼します。」
ガチャリとドアが開き、誰かが入ってきた。
この声は、鬼山さん……?
「!?」
ガシャン……タタタッ――――
鬼山さんが手に持っていた、おそらく看病のために使っていた道具を落として、こちらに駆け寄ってくる。
「姫様、姫様、ご無事でしたか!!」
「大丈夫です。く、苦しいので、そんなにきつく、抱きしめないでください……ほ、骨が折れそうです……そ、それと、セクハラです//……」
「はっ!!……も、申し訳ございません!私としたことが……。姫様がやっとお目覚めになったので、つい、興奮してしまいました。」
「こちらこそ、稽古をすっぽかして寝てしまっていて、すみませんでした。ところで、私はどのぐらい寝ていたんですか?」
「姫様が倒れてしまわれてから、3日と2時間ほど経過しています。」
「!?」
まさか、そんなに経っていたなんて……。
そ、それより、あのオークたち、私が寝ている間に殺されていないかしら。
また、あんなグロい光景はこりごり……。
「……鬼山さん、あのオークたちはどうなったんですか?」
「はい、奴らは地下牢に閉じ込めてあります。姫様が『勝手に殺すな』と、倒れられる前におっしゃったので、まだ生かしています。しかし、奴らは過去にも襲撃を仕掛けております。今までは、鬼木田様が追っ払ってくださっていたので、被害は皆無でしたが、今回ばかりは許さなくてもよろしいかと。今、なぜ鬼ヶ島を襲ったか、念のために問いただしておりますが、さしずめ、贅沢に暮らしたかったとか、そういった理由でしょうな。」
「そう、ならよかった。」
私はホッと胸をなでおろす。彼らと少し話しているうちに、愛着も沸いていたのだ。
「私も、彼らに会いに行っていいですか?洞窟内で、一緒にいた時にいろいろお話して、根っからの悪者じゃないってことがわかったし、今まで十分な収益がなかったから、一日の生活も苦労していたみたいだし。少し、考えていることがあるんです。」
「姫様がお目覚めになれば、そうおっしゃると思っておりました。ですが、先にお食事されてはいかがでしょうか?3日もお休みでしたので、さぞ、お腹が空いておることかと。」
ぐぅぅぅううう~
鬼山さんの言葉が合図となり、私のお腹が素直に答えた。
「す、すみません!お言葉に甘えて、そうさせていただきます。」
こうして、3日分の空腹を満たすために、色気もなくがつがつと食事を頬張った私は、後片付けを使用人の方にお願いして、食堂を後にした。向かうはお城の地下牢である。
薄暗い階段を下りていくと、松明の明かりで、何とか照らされている空間に、牢屋番らしき鬼が見えた。 その先には鉄格子があり、二匹のオークが中で寝ている。
「おい、起きろ。面会だ。」
牢屋番がオークに向かって冷たく言う。
少し面倒くさそうに、のそのそとオークたちが起き上がる。
「こんにちは。3日も待たせてすみません。」
私が心配して声をかけると、オークたちは、まるでこの世の終わりを感じているような、暗い暗い表情で答えた。
「ついに、お迎えかぁ……」
どうやら殺されると勘違いしているようだ。しかし、何の武器も持たない今は好都合なので、罪悪感はあるけれど、その状況を利用させてもらうことにする。
「あなたたちに、選んでもらいたいの。」
「??何をでやすか……?」
「罪を償うためも兼ねて、鬼ヶ島発展に協力しつつここで暮らすか、逃亡して、護衛部隊にやられるか。もちろん、協力してもらえるなら、それなりの報酬は出すし、不自由させないように努力する。」
卑怯な選択肢かもしれないが、鬼ヶ島発展のためには、少しでも手伝ってくれる人がいるほうが良い。彼らは人ではないが……。
「姫様、私たちに彼らと共存せよとおっしゃるのですか!?」
意外にも、鬼山さんから抗議の声が上がった。
「大丈夫ですよ。彼らは常に私と行動してもらうようにしますし、私と行動するならば、必ず、鬼山さんか、護衛部隊が一緒でしょう?万が一の時は、お願いしますね。」
「私たちを信頼してくださるのはありがたいですが、また人質に取られたら、どうするのです?先日は姫様のお力がお目覚めになったので、事なきを得ましたが、現在は以前の、人間のお姿のまま。あのようなお力が自在に操れるならばまだしも、まだ一回しかお目覚めになっていない。私たち護衛部隊でも、対処しきれない場合もございますので、襲われたときに、そのお力が目覚めなかったら、非常に危険です。私は、共存に対しては、反対です。」
「そうだぜぇ。お嬢ちゃん、安易に物事を決めちゃぁ、取り返しのつかないことになる。いくら武器を取り上げられているとはいえ、次はあの時みたいにいかないぜぇ。」
「そうでやす。お嬢ちゃんは自分から危険なことに首を突っ込むのは、止めたほうが良いでやす。命がいくつあっても足りなくなるでやんすよ。それに、お嬢ちゃんが死んだら、ここの住人が困るんじゃぁないでやすか?自分を二の次に考えるのも、減らしたほうが良いでやんす。」
……やっぱり。このオークたちは優しさを持っている。
生活のために盗みを働いていただけで、人殺しはあまり好きではないような印象を受ける。
「皆さん、私の身を案じてくれて、ありがとうございます。でも、私、あなたたちを信じたいんです。」
私は鉄格子の向こうのオークたちに話しかける。
「本当は、あなたたち、人殺しをしたことはないんじゃないですか?もし、したことがあったとしても、やむを得ない状況のみだと思うんです。だから、私を捕まえた時も、刃を一度も向けなかった……。縛っただけで済むなら、それで良かった……。大金庫を開けたら、私を殺さずに、逃げ帰るつもりだったんじゃないですか?」
「……はぁ。お嬢ちゃんはすげぇんだなぁ。確かに、無駄な殺生は避けたいのは本心だ。だが、いつ、反撃するかはわからねぇぜ。俺らも、窮屈な思いをしてまで、ここで生活するのはごめんだからなぁ。」
「安心してください。私は、あなたたちを信じています。ご希望ならば、護衛部隊にはいつも通りパトロール程度にしていただいて、あなたたちの監視をしないと誓いましょう。」
「姫様!?」
「ただし、次、誰かに大きなけがを負わせるようなことがあれば、この地下牢で永遠に生活してもらいます。」
さて、どうでるか……。
「はぁ、わかった。まぁ、ここからは早くおさらばしたいしぃ、そこまで信じてくれるんならぁ、手伝ってやってもいいぜぇ。なぁ?」
「そうでやすねぇ。お嬢ちゃんも、しっかり自分の身は自分で守ってください、でやんすよ?……ところで、何を手伝えばいいでやすか?」
鬼山さんと顔を見合わせる。鬼山さんは一瞬、嫌そうな顔をしたものの、やれやれと言った様子で表情を緩ませた。
「ありがとう。その前に、今さらながら自己紹介しますね。私は鬼島陽姫。よろしく。あなたたちの名前も教えてくれますか?」
「あぁ、そういやぁ、名乗ってなかったなぁ。俺はゴーウィン。こいつはクルウィット。」
「よろしくでやんす。」
へぇ、苗字はないんだ!
例えば、日本人とアメリカ人で名前の付け方が違うように、魔物たちの種類によっても、名前の付け方が違うらしい。
新たな発見ね。
「これからよろしく、ゴーウィンさん、クルウィットさん。さて、新たなメンバーも増えたことだし、これからはもっと、食料が必要になると思います。そこで、あなたたちには、農業を手伝ってもらおうかと。」
「「「のうぎょう……?」」」
そうか、文化が違うから、『農業』って言っても、わからないよね。
「はい。農業とは、定期的に食料を手に入れるための一つの方法なんです。上手くいけば、永遠に食料を絶やさずに手に入れられます。」
「姫様、そんな方法があるんですか!?」
「はい。わざわざ採取しに行かなくてもいいように、野草などを私たちの手で育てるんです。ただ、道具もあまりないようですし、力仕事なので、できれば手伝ってほしいんです。」
「わかった。力仕事なら任せなぁ。細い体つきのお嬢ちゃんに力仕事は似合わねぇからなぁ。」
「ありがとうございます。まずは、最低限の道具を揃える必要があるので、鍛冶屋さんにお願いしたいのですが、何日か、かかってしまうと思います。道具が揃うまでゆっくりしていてほしいんですが……鬼山さん、どこか泊まれそうなところはありますか?」
「そうですね、城なら空き部屋が十分にありますし、そちらでよいのではないかと。使用人の中には不快な思いをする者がいるかもしれませんが、城の中は私たちも巡回しています。まぁ、そのうち慣れるでしょう。もし、外出されたいのであれば、お声掛けください。姫様の願いもあり、ある程度の自由は与えたいのですが、あなたたち二人だけでは、町のものも不快な思いをしますし、買い物も満足にさせてもらえないでしょう。大丈夫だと信用されるまでは、護衛部隊のものを一人つけさせていただきます。それでもよろしいですか?」
「あぁ、構わねぇ。その方が動きやすいだろうし、お言葉に甘えさせてもらおう。」
「そうでやすね。兄貴と二人で自由に動きたい気持ちもありやすが、石でも投げられたらたまったもんじゃねぇでやす。よろしくお願いするでやす。」
こうして話はまとまり、ゴーウィンさんたちをお城の空き部屋へ案内した。
農業は実際に、収穫ぐらいしかしたことがないから、手探り状態でするしかない。失敗も多いと思う。
でも、おばあちゃんに話しぐらいは聞いたことあるから、何となくの流れは知っているし、何とかなるでしょ。まぁ、とにかくやってみよう!
天然でできる野草なら、裏山にいっぱいあったから、多少失敗しても大丈夫なはずだし……。
よし。頑張るぞー。
おーーーっ!!