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ジミ地味アライアンス 〜おばか女子高生、青春のから騒ぎ〜  作者: 塩屋去来


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転機





 今日も今日とて地味同盟。そんなことをしている内に3学期が到来してしまった。このクラスでずっと一緒にいられる時間もそんなに多くないと考えるとなんとなく、寒さもあいまって、私らしくもなくアンニュイな気持ちになってしまう。


「ああ、寒い寒い寒い、とにかく寒い!」


 いつもの放課後会合の中、私はそんなことを叫んでいた。今日は美也ちゃんもいる。なのに妙に静かだったから私はそうしてみたのだが、あんまり効果はなかった。


「寒いって言うから余計寒くなるんだよ」


 佳奈が冷たいんだか優しいんだか判別の付かないように言った。年始のあと、佳奈は妙に落ち着いているような気がする。なにかあったのだろうか。それは分からないが、今までの彼女には見られなかった余裕が生まれているのは確かだ。まあ、これも地味同盟効果ということにしておこう。


「ま、そこは認めてやらんでもない。しかし2月はもっと寒くなると思うと鬱だね」

「ノリは寒いの嫌いなの?」

「その話は前にもしたっしょ」

「肉付きいいのに?」

「その話も前にした!」


 私は半ばうんざりして言った。そもそも寒がっているのは私だけじゃないはずなのだ。寒気は地味同盟最大の敵である。なんとなく沈んでいる感じなのもそのせいだ。そうじゃないかもしれないがそうに決まっている。私は断じた。


「はーるよこい、はーやくこい」


 佳奈が能天気に歌っている。


 地味同盟は明るくなくてはいけない。それゆえ、日照時間が短いのも冬における弱点だった。地味同盟の方向性は、地味ではあるが陰ではない。地味なのにもかかわらず陽の側に行こう、それを目指そうというのが目標の一つだった。


「あたしは暑いよりかは寒いほうがまだマシっすけどねぇ」


 美也ちゃんはこんな時でものほほんとしている。この子の愛されオーラは天然のものだろう。小動物的なかわいさがあった。大きいのに。ここは同盟員の意見が一致するところだが、しかし、当の美也ちゃんはまるで気付いていないらしい。天然である。


「そりゃ体育会系ならそうだろうね。しかしあんた以外はみんなインドア派なのだ」

「図書室にでも行く?」


 一応教室にも空調設備はあるのだが、あんまりその恩恵には預かれていないような気がする。その点、図書室はたしかに夏も冬もよく気温が整っている学校でも数少ない場所だった。あとは職員室だが、こちらはあんまり縁のないところにしたい。


「それも面倒だなぁ」

「なんかノリ、今日疲れてる?」


 京香が怪訝そうな目線を送ってくる。


 佐倉京香が、幸せとやらをつかんだのはすでに周知のこととなっている。しかしそれは特に世界に影響を与えてはいないようだった。彼女自身、劇的に変わったところがあるかと言えば、全然ない。変わらなすぎで、そこがむしろ心配にもなってくる。とすれば、彼氏が出来るというのは、もしかしたら青春にとっては大きな要素ではないのかもしれない。いや、別に私が夢見ている訳ではないが。


「別に無理せんでもいいのだぞ。コイビトができたならそっちを優先してもいいって綱領にも書いたっしょ」

「そうは言っても、良明先輩は今日も塾だし、受験の邪魔をしちゃいけないし」

「健気なことを言うのう。しかしじゃあなんでこのタイミングで付き合いだしたんだよ」

「それは、なんというか……そういうタイミングがたまたま来たとしか」


 彼女は静かに幸せを噛み締めているようだった。確かに表向きには変わるところはないし(それが京香の美点である)、内情も同じだろう。そもそも京香と蒔田先輩はほとんど付き合っていたようなものというか、付き合っていないというほうがおかしい関係だった。しかしそれでもいままで感じられなかった温かみが感じられるのも確かだ。なんというか、お腹に幸せを溜め込んでいるという感じだ。妊娠しているという訳じゃない。


「ふぅん。で、実際どこまで行ったの? チューくらいはしたか?」

「いや、ぁ……それはその」


 いきなり顔を真っ赤にする京香。彼女にしてはかなり珍しい反応である。


「したのか! なんということだ!」


 そしてそのまっかっかは何故か佳奈や美也ちゃんにまで伝染している。かく言う私も、どこか顔に熱いものを感じている。本当に、なんということか、だ。恋愛に初心過ぎる地味同盟員たちにとってはこの話は刺激的過ぎる。


「いや、あ、その、あぁ……そりゃ、キスくらいするでしょ……」

「そんなすぐにはしないと思うぞぉ」


 私は危ういものを感じずにはいられなかった。京香はクールだが妙なところで大胆なところがある。もし蒔田先輩と行くところまで言ったら――ああ、まあそれは幸せなことなのかもしれないが、聞いているこっちが鼻血を出してしまう。


「……もう、私の話なんかどうでもいいじゃない」

「そうはいかんぞ。我々も後学の為にいろいろと勉強しなくちゃならん。そういう意味で先駆者のキョーカはじつに貴重な存在なのだ」

「テキトー言ってない?」

「いや、私は割と真剣だぞ」


 実際真剣な表情を作っていたつもりだったのだが、何故か美也ちゃんがニコニコしている。佳奈は頬杖を突いていた。なんだか私だけが空回っているような気がする。いつものことと言えばいつものことではある。


「紀子先輩は恋愛したいんっすか?」


 ずばっという美也ちゃんは怖いものなしのように思える。これが体育会系のノリなのか、と考えたがあんまりその辺はよく分からない。いずれにせよ、かわいい後輩の質問ならこたえなくてはいけない。あまり気は進まないが。


「まあ、積極的にしたいと思っている訳じゃないけど、したくない訳でもないよ」

「好きなひとができるかどうか、それが先じゃないの」


 佳奈の言い分は冷たいようでごもっともである。恋愛の為に好きになるんじゃなく、好きになるから恋愛が発生するのだ。ここは彼女とも意見の一致するところだった。佳奈はとてもいいことを言う。やや真面目すぎるきらいもあるが、地味同盟ならそれくらいで丁度いいのだろう。私はそう思っている。


 その点、こいつはいい加減である。


「よう地味同盟。元気にやってるか?」


 桐生洋二くんだった。最近寄ってこなかったのでどうしたのかと思っていたが、まだ諦めていないらしい。男子としての意志力の強さを褒めてやらんでもないが、しかしこんな敗色濃厚な恋に身を焦がすというのは、健気でもあるが阿呆でもある。何も考えていないだけかもしれない。なんにしても男子高校生という生物は分かり易いようでいて、我々女子にとっては本当には理解できないものでもある。


「げっ」

「そんな邪険にすんなよ。俺とお前の仲だろうが」

「アホなことを言うな。だれがオマエなんかと仲良くしてやるか」


 佳奈は目を薄目にして呆れたようにこちらをみている。京香は矛先が自分から逸れてホッとしているらしい。そして美也ちゃんだけが相変わらずニコニコしている。なにがたのしいのかよく分からない。


「大体なんで私らなんぞに協力して欲しいとか思うのさ。もっと建設的なやり方があるんじゃないの?」

「もちろんほかにも手は打ってある。徹底的に外堀を埋めていく作戦なのさ」


 本当に阿呆としかいいようがない。いや、「外堀を埋める」ということそれ自体を馬鹿にしている訳じゃない。しかし私たち地味同盟は別に由美の防御施設じゃないのだ。桐生くんは賢く振る舞っているつもりなんだろうけれど、そこは男子の浅知恵としか言いようがない。なんて哀れな奴。


「前にも言ったような気がするけど、桐生くん、本当に瀬島さんのことが好きなの」

「俺は本気だぜ、橘さん」

「あたしにはそこにあんまり熱量を感じないんだけど」


 佳奈のカンは無下に出来るものではない。というよりそこは誰もが疑っている部分である。まあ桐生くんがちゃらんぽらんでしかないからそうなってしまうのだが。


「なあ頼むよぉ。こんど味噌ラーメン奢ってやるからさぁ」

「味噌ラーメンは好きだけど、そんなもんで釣れると思ってんなら私を安く見過ぎだぞ。そもそも私になにができんのさ」

「中学校からの友達なんだろ?」

「友達では決してない!」


 そこははっきりしておかねばならないところだった。あの由美と友達とか、考えただけでおぞましい。


「でも結構仲いいじゃないか」

「そう見えるんだったら、オマエの目にはたぁっぷりと目ヤニが詰め込まれてるんだな」


 そこは男子と女子の「友情」に対する感性の違いなのかもしれない。私と由美の果てなき死闘も、彼にとってはじゃれあっているように見えたとしても、まあ、不思議ではないけれど、それゆえ私は男子を馬鹿と言うのである。


「俺の人生が掛かってんだからさ。なんだってするぜ」

「人生とか大層なモンかぁ? 人生百年時代、高校生時代の恋愛なんぞさして重要でもないっしょ。それともオマエ、由美と結婚まで考えてるの? だとしたら、大馬鹿野郎として尊敬してあげなくもないぞ」

「いや……結婚とかは、そんな……」

「真面目に取んな」


 と、まあこんな感じで不毛な押し問答が続いていたと思ってもらって構わない。世界で最も不毛な会話だったのだが、私はうんざりしつつも止められない。会話を適当に打ち切る、というスキルがないのが私の悪いところだった。


 それゆえ――美也ちゃんはこんな勘違いをしてしまったのである。由々しき事態だった。


「紀子先輩も桐生先輩も仲良いっすねえ」

「このどこを見てそう思う」

「だってそうじゃないっすかぁ」


 どうやら美也ちゃんはこのどうしようもない状況を見て楽しんでいるようなのだった。天真爛漫なこの子らしいと言えばらしい。しかしここまで勘違いが蔓延してしまうと困る。とても困る。


「あ! もしかして桐生先輩、ホントに好きなのは紀子先輩なんじゃないっすかぁ?」

「はぁ!?」

「はぁ!?」


 あまりにも素っ頓狂な話だったので、忸怩たることだが、私と桐生くんはシンクロして叫んでしまっていた。


「仕方ないっすよね。紀子先輩はたいへん魅力的な女性っすから」

「な、な、な、なにをっ、なに言ってやがんだ! おい浦部! お前後輩の指導ちゃんとしておけよ! こんな馬鹿な話があるか!」

「……意外と脈アリなんじゃない」


 あろうことか佳奈までぼそっとそんなことを言う始末。なんというころであろうか! 美也ちゃんの言葉により、場はいっぺんに異様な雰囲気になってしまった。


「お、俺が好きなのは瀬島だからな! 勘違いすんな! もういい、今日はもうこの辺で勘弁してやるッ!」


 しかし悪い効果だけではなかった。ペースをすっかり乱した桐生くんは、慌ててこの場を去って行った。なんだったのか。


「なぁんにも思ってなかったらあんな反応はしないっすよねぇ? ねえ佳奈先輩もそう思うでしょ」

「確かにアヤシイ」

「京香先輩も」

「そうね」

「あああああああ、オマエラ揃いも揃ってアホばっかりか!」

「そうした面子を集めたのはあんたでしょ」

「アホはアホでも、これはちょっと質が違う!」


 もし万が一、億が一、那由多が一、桐生くんが私が好きだとしても、それがなんになるというのか。私があんなのと付き合うはずがない。私の好みはもっと落ち着いた男子である。クラスで悪目立ちしているチャラ男などは及びではない。断じてお呼びではない。


 ……そのはずだよね?

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